夢野るいむは夢を見ない。
夢を守るという役目を負いながら、自分の夢だけは、どうしても見えないまま。
夜が来るたびに誰かの夢へと歩いていき、崩れかけた空を縫い合わせたり、悪夢に引きずられそうな子どもの手を引いて逃げたり。
夢の中の「自分」はいつも冷静で、気まぐれで、でも少しだけ優しい。
けれど、朝が来て、目を覚ました誰かが夢を忘れてしまったその瞬間――
るいむの記憶からも、その夢のすべてが消えていく。
「しょせん借り物の夢じゃんね〜」
郵便局でのバイト帰り、くたびれたしわくちゃの制服のままベッドに沈みながら、るいむはぽつりとつぶやく。
誰かの夢は守れても、自分の夢は、どこにもない。
心の奥で何かが渇いていくような感覚に、少しだけ胸が軋む。
その晩、彼はまたひとつの夢へ降り立った。
薄暗い自室。
誰もいない。風もない。時間が止まったような静寂。
机の上に、白紙のノートがぽつんと置かれていた。
「……夢守りの依頼、じゃなさそうだな」
ペンも落書きもないそのページを、るいむはぼんやりと眺める。
それはまるで、誰にも見られなかった彼自身の「夢」のようだった。
誰にも語られず、誰にも知られず、ただそこにあるだけの――
「……自分の夢、ここに置き忘れたのかも、しれんな」
静かにページをめくると、ノートの最後にこう書かれていた。
夢野るいむは夢を見ない。
けれど、夢を持たないとは、限らない。
るいむはその言葉に、少しだけ笑った。
「なんか気取ってるなぁ自分……」
ノートを閉じると、世界がふわりと溶けた。
目覚めた朝、彼は何も覚えていなかったけれど、
その日から、胸の奥にほんの少しだけ、あたたかい空白が生まれていた。
まるで――
まだ見ぬ夢が、そこに芽を出したかのように。




