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現想世界のドラゴンハート  作者: 月夜野桜
第四章 現想世界のドラゴンハート
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第五話 竜狩りの魔剣

「お前、聖典の続きを書いてみるつもりはねーか? 二次創作で、この戦いを題材にしてさ」


「嫌ですねー。これは桜さんが主人公のお話ですから。ご自分でどうぞ」


〔そうよ。私とあなたの百合百合ワンダーランドのお話〕


 迫りくる邪竜神ヴァーヴェルの放つ波動の強さに身体が震え、互いに軽口を叩いて恐怖を誤魔化す。一人だけ少しズレている者がいるのは気にしない。


「あれでもまだ世界を滅ぼしかねねーぜ。本気でやんのか? 尻尾巻いて現実世界に逃げ出すんなら、今のうちだぜ?」


「ふふふふふ、ここにいるの、誰だと思ってるんですか? ドラゴンハートにして夢幻の心臓ファンタジオンの持ち主にして、逸姫当千いっきとうせんの桜花一刀流の使い手にして、天下無双のアホの子の桜さんですよ?」


 ドヤ顔で宣う桜。すべては設定。それでもこの幻想世界ファンタジアでは現実となる。アホの子は設定ではなく元々だが。


〔肩書長すぎないかしら……? ポンコツ抜けてるし。百合とかロリも……〕


 心の中に響くアイリスの突っ込みは無視して、桜は両手を左右に突き出す。今ならきっと使える。この心臓に宿る、アイリスの天賦魔術ギフテッド・ウィッチクラフトが。


転移門開錠ゲート・アンロック!」


 桜の叫びと共に、アイリスのものと同じ形状の、金属製の門が天高くに現れた。ガシャリと音が鳴り、掛けられた錠が自動的に外れる。かんぬきが勝手に動いて、門が左右に開いていった。その向こうに見えるのは、虹色の光揺蕩う異世界。全ての始まりにして、根源たる上位次元。


 ババっと腕を振り、ステップを踏んで回りながら、その唇を開いた。


「我は汝、すべての竜の根源たる始祖竜の力を招聘する。塩と水の交わりによって秩序を産みし原初の竜よ、混沌の象徴にして空と大地を創りし者よ!」


 今この瞬間のために何日もかけて練り上げた呪文が、桜の喉から朗々と発せられた。いつかアニメ化される時のために必死に考えて、練習までしておいた振り付けを再現しながら、高らかに唱え続ける。


「我が声を聞け。すべての竜を我に服従させよ。空と大地と海を支配し、渦巻く風と燃え盛る炎、轟く雷霆をもって我が敵を討ち果たせ!」


 転移門ゲートから流れ込む上位次元の力が、このユーロスにも影響を与え、空が暗雲に包まれていく。炎と風が荒れ狂い、稲光が周囲を埋め尽くす中、桜は詠唱を完了する。


「古代の盟約に従い、今ここに顕現けんげんせよ。深山みやまさくらの名の下にー!!」


〔詠唱長すぎ。あと、空と大地ってフレーズ、二回出てきたから〕


 相変わらずの気が抜けそうなアイリスの突っ込み。しかし桜は知っている。そもそも転移門ゲートに詠唱なんて要らないことを。アイリスはなしでも使いまくっていた。なのに余裕がある時には、呪文を唱えていた。彼女もまた中二病。既に中三なのにもかかわらず。


 詠唱の甲斐あってか、まったく関係ないのかは判断がつかないが、転移門ゲートからは巨大な竜狩りの魔剣が現れた。邪竜神と同じく、漆黒の刀身に深紅の光が脈打つように流れている。


 内に秘めた膨大な魔力は、周囲の大気に含まれる精霊の力と干渉し、エンジェルヘアー現象を引き起こした。小さな妖精が、糸のように長く尾を引いて周囲を回り始める。


 柄から現れた魔剣は、重力に負けることなく、切っ先を上に向けたままゆっくりと下りてきた。桜の差し出した手にすっぽりと収まり――はせず、大きすぎて両手で挟んで支えるだけになる。


 二十メートルはあろうかというその巨剣は、それでも桜の手に張り付いたかのように自在に動かすことが出来た。大きく右上に振りかぶると、桜の深紅の瞳が邪竜神を睨み据える。


「喰らえ、桜花一刀流秘奥義・逸姫刀閃いっきとうせん!」


 紅に輝く巨大な刀閃が、光の速度をも超えて邪竜神目掛けて飛んでいく。遠目から――いや、六百六十六メートルの巨体を誇る邪竜神にしてみれば、すぐ近くからの感覚だったのか。大きく開いた顎から発してきた暗黒の炎をも斬り裂いて、逸姫刀閃いっきとうせんはその巨体に真紅の筋を生み出した。


 飛び散る漆黒の鱗の破片と、溢れる出る朱の血潮を確認すると、桜は続けて竜狩りの魔剣を振るいまくった。


「まだまだー! 桜花一刀流秘奥義・桜吹雪ー!」


 桜の意思に従い、早送りしたかのように高速に魔剣が舞う。無数に発生した桜色の小さな刀閃、されど巨剣との比であり、実際には一メートルはあろうかという充分に強力な刀閃が、遠目には舞い散る桜の花びらに見える程無数に飛んでいって、邪竜神の漆黒の身体を覆い尽くして斬り刻む。


「このまま一気に畳みかけちゃいますよー! 桜花一刀流秘奥義・逸姫刀閃いっきとうせん乱れ撃ちー!」


 死力を振り絞り、ぶんぶんと魔剣を振り回す桜。一太刀ごとに膨大なエネルギーが吸われていく感覚があり、あまり時間をかけていると先に力尽きてしまいそうだった。


 ダメージは確実に通っているように見えるものの、余りにも大きすぎて、邪竜神はそう簡単に叩き落とせそうにはない。雨のように鱗と鮮血が降り注ぐも、巨大な岩に小さな鑿を打ち付けているに等しく、削りきることは不可能と思えた。


〔桜、あれくるわよ!〕


 邪竜神の周囲の空間が歪んでいくように見えた。渦を描くようにして、あらゆるものが飲み込まれていく。それが巨大な牙の並ぶ凶悪な顎に集まって、大きく開いた口からすべてを破壊する強烈な波動となって襲い掛かった。


「絶対障壁・マグナスの壁!」


 レイアムが素早く呪文を唱え、前方に水色に渦巻く魔力の壁が現れた。地面から天高くまですべてを遮り、邪竜神の放った破壊の波動を受け止める。しかしすぐに変形していき、今にも突き破られそう。


〔そんなのじゃ駄目。転移門開錠ゲート・アンロック。全てを飲み込め。原初の虚無オブリヴィオン!〕


 あっという間に魔力の壁を突き抜けた破壊の波動は、虚空へと消えていく。こちらからは見えないが、桜には感じられた。そこにアイリスが発動した、巨大な転移門ゲートがあることを。邪竜神の攻撃は、すべて別の領域リージョンに転送されている。


「ば、馬鹿野郎! てめー、どこに飛ばしやがった? 今頃あの転移門ゲートの向こうじゃ……」


 桜の肩を掴んで揺らしながら、レイアムが動揺を隠すことなく問いかける。飛ばした先の被害が気になるのだろう。何しろ世界を消滅させる破壊の力を持ったブレス。しかし桜は、あっけらかんとした表情で答えた。


「桜さんが閉じ込められてたとこじゃないですかねー?」


 既に滅びて何もない領域リージョンなら、消滅しても問題ない。むしろ、この破壊の力の方が、あの空虚な領域リージョンに飲み込まれ、散ってしまいそうな気がする。


 心の中で、くすくすと笑い声が聞こえてきた。


〔正解。アホの子にわかるのに、チート魔法使いにはわからないのかしら? アホの子以下?〕


 桜を助けにこられたのは、古代竜の盟約ドラゴン・サーヴァントで操られて転移門ゲートを開きながらも、中にマーキングしたからだろう。もしかしたら、アイリスはこの事態をも想定していたのかもしれない。


「あ、あそこなら確かに問題ないが……」


 空回りに気付いたのか、視線を泳がせ挙動不審になるレイアム。しかしいつまでもこれで防ぎきれるわけはない。やはり直接攻撃で倒す必要がある。竜狩りの魔剣の特効能力は、刀閃には乗り切らない。


「テレポートさせてください! ここからじゃ遠いです。直接斬りつけた方が!」


「前にも言った通り、連続使用は出来ねーから、地獄への片道切符だぜ?」


「ふっ、天国の間違いですねー。この天使な桜さんが地獄にな――」


 もう着いていた。既に邪竜神ヴァーヴェルの頭上。桜は慌てて竜狩りの魔剣を振り上げる。


「桜花一刀――」


 ぶんと頭を振られ、ものすごい勢いで振り飛ばされた。


「なんの! 桜花一刀流秘奥義・水月!」


 速度を殺すように、横に向けて満月を発生させると、それを踏みながら脚力を溜める。


「ふおおおおお! 桜花一刀流究極奥義・百花繚乱!」


 神速の踏み込みで宙を跳ぶ。十六夜月いざよいづき立待月たちまちづき居待月いまちづきと、水月が生み出す月を足場に、すれ違いざまに斬撃を叩き込み続ける。更待月ふけまちづきを過ぎて痩せ細っていく下弦の月は踏みにくく、流石に威力が落ちた。


 十四歩目の暁月ぎょうげつの次は踏めないつごもり。戻って来られなくなるので、上へと方向を変えて跳んだ。次に現れたつごもりを踏み抜きつつ落下する隙を、邪竜神は見逃さない。ギャオオオォォオという身を震わせる咆哮と共に、その大きな口で丸呑みにしようとしてきた。


(これは、避けれな――)


 その桜の身体が、黄金の光に引きずられて邪竜神の口の中から消える。バクンと閉じた顎が飲み込んだのは、ただの空気だけだった。


「イケメン将軍さん!」


 桜の首根っこを掴んでいるのは、灰色の長髪を風に靡かせた精悍な顔。疲労困憊してはいるようだが、まだまだ生命力に満ち溢れた翡翠のような澄んだ瞳が、桜の深紅の瞳を覗き込んできた。


「ドラゴンハート、生きておったか」


「助かりました! 一緒にやりますか?」


 桜を足場に下ろしながら、ふっとクラクスが嬉しそうに笑う。待ち望んでいた日が来たのか、高らかに叫んだ。


「次に出会ったときには容赦せぬと言った。しかし、誰にとは言っていない! ドラゴンたちよ! ここにおわすは伝説のドラゴンハート! 古代竜との盟約に基づき、今ここに集え。ミヤマ・サクラの名の下に!」


 銀色に輝く巨大な竜が、咆哮を上げつつ邪竜神に襲い掛かった。赤青に白と黒、黄に緑の各竜王たちもそれに続く。更に強大な二頭ずつの竜皇と竜帝も、邪竜神を封じるべく取りついた。


 どこから現れたのか、ジーラントの守護神たる竜神までもが頭上から飛びかかって、邪竜神を地面へと叩き落とす。


「行くぞ! ドラゴンハート!」


 黄金色の矢と化して、竜王ギィーヴェルが邪竜神に向かって急速降下していく。その頭の上で、桜は竜狩りの魔剣を構えた。


「こうなったら、あれをやるしかありません。桜花一刀流・真最終奥義!」


〔ちょっと待って、今考えたやつじゃ発動しないから!〕


 心の中で、アイリスの悲鳴が響く。桜はニッと笑うと、邪竜神ヴァーヴェルの頭部目掛けて、竜狩りの魔剣を思い切り振るった。


「ただの斬撃ー!」


 設定通り。竜狩りの魔剣は竜の持つすべての力を無効化し、その巨大で堅牢な邪竜神の頭部を一刀両断した。ずーんとその首が力を失って地面に落ち、森の樹々を薙ぎ倒す。


〔やっぱり桜のアホの子パワーは無限大ね。天下無双のアホの子の名に恥じないわ〕


「ふふふふふ、とーぜん!」


 ビシッと一本指を突き立てて、桜は宣う。これでやっとすべてが終わりそうだった。


 邪竜神の漆黒の身体を走る深紅の魔力の流れが止まり、その明滅が収まっていった。やがて色を失うと、その巨体は徐々に塵と化していく。


 転移門ゲートを開き直して、役目を終えた竜狩りの魔剣を中に戻した。


(ありがとう、竜狩りの魔剣。今度ちゃんとルビも考えてあげますね)


〔考えてなかったのね……〕


 まだ登場するところまで話が進んでいないので、未定だった。そこまで書き上げるのは、いつになるのだろう。幻想世界ファンタジア内の方が、先に話が進んでしまった。


「終わったようだな。ドラゴンハートの伝説は本物であったか」


 深く感心した表情で桜を見下ろすクラクス。桜は右手を挙げて、ハイタッチをしながら満面の笑みを返した。


「ご協力、ありがとうございました!」


〔ちょっと、桜、それ浮気だから! 許さないんだから!〕


 心の中で、アイリスの嫉妬の声が響いた。それを聞いて桜は思う。


(誰かに手を触れる度に言われそう。女の子相手でもこうですよね、きっと?)


 これから先が思いやられてならない。現実世界に無事復帰出来るか、心配な桜だった。


「ありがとー! みんなありがとー!」


 どこかへと飛び去っていく巨竜たちに、桜はぶんぶんと手を振った。妄想から生まれた存在に過ぎない彼らだが、確かに強大な力を持っていた。そして、設定通りの正義の心も。


 妄想は現実となる。それは、必ずしも良いことではないと桜は学んだ。邪竜神のような悪の存在もまた、現実となってしまう。憎しみや悲しみ、怒りや妬み。そういった負のものすら、具現化してしまう。


 これからは、逸姫刀閃いっきとうせんの世界をもっと明るく幸せに描こうと思う。人々が希望を持って前に進めるように。妄想の産物だって、確かに生きていて、心を持っていると知ったのだから。


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