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現想世界のドラゴンハート  作者: 月夜野桜
第三章 夢幻の心臓争奪戦
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第一話 夢幻の心臓

 一緒にいたのは、五分にも満たない僅かな時間。交わした言葉も、たった一つ。それでも、細部まで作り込まれたこの世界を見ればわかる。集合知が熱く語ろうとした設定を聞けばわかる。彼はこのスタローグ銀河を、心の底から愛していた。


 情熱を傾けてこれほどの世界を創造した人物を、ジーラント軍は殺した。そしてその死は、自分たちの所為。この領域リージョンに逃げ込まなければ、彼はもっと生きられた。世界はもっと広く、もっと美しくなれた。


「うあああああ!! 許さない! 例え一人で戦うことになろうとも、あなたたちを倒す!」


 深紅の瞳を怒りに燃やし、桜は叫んだ。匿名小説家の情熱を、自らの力に変えて。


「桜花一刀――ぐっ!!」


 横から飛んできた何かによって、こめかみに激痛が走る。そちらに眼を遣ると、あろうことかバトロイドの攻撃だった。ピラミッドを登り切り、こちらへとレーザーを撃ちまくってくる。


「邪魔しないで! わたしは、あなたたちを――」


 飛んでくるレーザーを村正宗むらまさむねで捌くも、バトロイドたちにとってはすべてが敵となっているようで、いつまでも攻撃は止まらない。互いに撃ち合いながらで、こちらだけを集中砲火しているわけではないことだけが救いだった。おかげで、なんとか凌げている状態。


「悔しいけど、ここは退きましょう。私たちだけでは敵わない。竜騎兵ドラグーン以外とも戦わなければならなくなった。そして彼らは、夢幻の心臓ファンタジオンを破壊することも厭わないような相手。領域ごと崩壊させることすら、躊躇わない相手」


 アイリスが消える。桜の脳裏にその可能性がよぎり、顔から血の気が引いていく。


 彼女の所属するユーロスも、あの匿名小説家のような誰かによって生み出された世界のはず。その人物を殺されたら、アイリスも消えてしまうかもしれない。予言とはそのことなのだろう。だからアイリスは、必死にそれを回避しようとしていた。


(守らなきゃ、あーちゃんを! 夢幻の心臓ファンタジオンを!)


「きゃっ!!」


 下から飛んできた強烈な波動によって、アイリスと二人薙ぎ倒されてその場に転がった。クラクスの追い打ちかと思ったが、どうも違うようだった。


「この大馬鹿者がーっ!!」


 響いたのはクラクスの怒声。桜たちに向けたものではなく、別の誰かへの攻撃の余波だったらしい。


「エミル、貴様、禁忌を犯したというのか? 幻想世界ファンタジアの住人が、生みの親である現実世界の人間を殺したというのかーっ!?」


 登ってきたバトロイドたちも吹き飛ばされて落ちたようで、その隙に身を低くして移動し、声のする下を覗いてみた。先程のレーザー攻撃で赤熱して融け崩れたままの地面に、エミルらしき甲冑姿の人物が倒れ伏している。その側に、下竜したクラクスが拳を握って立っていた。


「て……敵の戦力は、無限と思われ、これが一番――」


「喝!」


 弁解めいたエミルの言葉に、再びクラクスの怒りが炸裂する。暴風のような気合が吹き荒れた。それだけで周囲のバトロイドが百メートル単位で押しやられ、空を飛ぶ戦闘機が錐揉み状態になって墜落していく。


「我らの目的を忘れたのか? ミイラ取りがミイラになってどうする! 今この場で処刑せぬだけありがたいと思え! 貴様には死よりも苦しい厳罰を与える!」


 どうやら、クラクスの意思ではないようだった。ジーラントそのものの作戦でもなく、エミル単独での暴走。これが演技ではないのだとしたら、そう見えた。


「ギィーヴェル! 空は任せたぞ!」


 桜たちの視界が急に暗くなり、見上げると真上に巨大な黄金の竜王が来ていた。その牙の間から火焔が漏れ出し、開いた口から放たれたブレスの行き先は、ピラミッドの斜面の方だった。


「うおおおおお!」


 クラクスが猛然と斜面を駆け上がってくる。紙屑でも散らすように、バトロイドたちを薙ぎ倒しつつ。


「あーちゃん、どうしよう、これ?」


 慌てて起き上がった桜は、両手に村正宗むらまさむねを構え直しながら問う。アイリスは比較的落ち着いた調子で答えた。


「待って。たぶん戦いに来るんじゃない」


 予測は当たっていたのだろう。クラクスの声が響いた。


「アイリス、並びにミヤマに告ぐ! 我々は撤退する。このような卑怯なやり方は好まぬ。どこへなりとも好きに逃げるがいい。そのための余裕は、この我が作ろう!」


 有言実行。その言葉通り、クラクスはピラミッドの斜面を横方向に駆け巡った。登ってくるバトロイドたちを妨害し、次々と薙ぎ倒していく。竜王も空から襲い掛かる戦闘機を撃ち落としていて、どうも二人を守ってくれているようだった。


 その視界が再び閃光に包まれる。瞼を閉じても網膜を焼くような光が収まると同時に、融けた砂の混じった熱風が、下から襲ってきた。グオオオォォオと、竜王の咆哮が大気を裂く。その身を挺して、衛星軌道から撃ち込まれたレーザーを防いでくれたようだった。


「今のうちに行け! この分では領域リージョン自体が危うい! 少なくともこの星は破壊されるぞ!」


 惑星破壊装置。ブラックホール発生器。集合知が語っていた物騒な設定を思い出した。確かに、早く逃げ出さないと、領域リージョンは平気でも惑星ごと消滅させられかねない。


「厚意に甘えましょう。転移門開錠ゲート・アンロック


 目の前の地面に近いところに、転移門ゲートが開く。桜はそれに飛び込む前に叫んだ。


「ありがとう、イケメン将軍さん! この御恩は忘れません!」


「勝負を預けただけだ! 次に出会ったときには容赦せぬぞ、ドラゴンハート!」


 そんなに悪い人間ではないのかもしれない。桜はそう思いながら転移門ゲートに飛び込んだ。アイリスが嫉妬しないか心配したが、聞こえてきた心の声からすると杞憂だったようだ。


〔クラクス将軍、ありがとう。あなたが王だったら、予言は回避出来るでしょうに……〕


 予言はまだ終わっていない。匿名小説家の死は、単なる過程にすぎないようだった。これ以上の悲劇が待っているとは、桜は考えたくなかった。


 着地すると、目の前には美しい光景が広がっていた。先程までとは打って変わり、緑に溢れる森の中の湖畔。ここはその上に飛び出るようにして造られたテラスだろうか。遠くには青く見える山脈が連なっており、ポカポカと温かく柔らかい、春のような陽射しが降り注いでいる。


「もしかして、ここがユーロス?」


 振り返ると、幾つもの尖塔が建ち、白亜の壁に藍色の屋根が映える、美しい城の姿。桜の中のイメージでは如何にもといった感じの、中世ヨーロッパ風の世界がそこにはあった。


「そう。レイアムワルト王国っていう、新興国。ユーロスの最強国家の一つよ」


 城を背景に立つアイリスは、その白銀の髪と氷青色の瞳が世界観にとてもマッチしていて、思わず写真に収めたいほど絵になる姿。実はここのお姫様だと言ってくれないと、逆に納得出来ないくらい様になっている。


(匿名先生にも見せたかったです……)


 あの砂の惑星も絶景だったが、こちらも別の方向性で美しい世界。もう見ることも想像することも叶わない彼が、不憫でならない。


 顔に出ていたのだろう。アイリスがそっと近づいてきて、その胸に桜をぎゅっと抱き締めてくれる。優しく髪を撫でながら、自分にも言い聞かせるかのように囁いた。


「あなたのせいじゃないわ、桜。先生のことを忘れてはならない。でも、引きずられ続けては駄目。前に進まなきゃならないの。先生はそのために、あの領域リージョンを貸してくれたのよ」


「でも……」


「語り継ぐ者がいる限り、世界は消えてなくなりはしない。たった一人でもいい。若人の心に強烈な印象を残し、人生にも影響を与えるような作品をもう一度書きたい。先生はそうおっしゃっていた。今度はお金にならなくてもいい。だから元の名前を捨て、無料で公開してるって」


 元の名前を捨てて。もう一度書きたい。それらの言葉を聞いて、あの匿名小説家は、実はかつての大御所だったのかもしれないと桜は思った。


 時代に合わなくなったため売れなくなり、本が出せなくなった。それでもその情熱は抑えきれず、新しい作品を世に出した。ネット小説という、誰でも発表出来る場で。敢えて元の名を使って人を集めることはせず、新人と同じ土俵で内容だけの勝負を挑んだ。


 気付けば再び涙が止まらなくなっていた。創作談義をしてみたかった。教えを乞うてみたかった。一緒に幻想世界ファンタジアを巡り、自分たちの生み出したものの素晴らしさを、その身で体験してみたかった。


(先生……先生の魂は、わたしが継ぎます。ずっと覚えてれば、無くなりませんよね、あの世界は)


 語り継ぐ者がいる限り、世界は消えてなくなりはしない。生み出した人が死んで、新しく発展しなくなったとしても、その実在を信じる心が誰かの中に残っていれば、世界は維持され続ける。幻想は決して消滅しない。誰かの心臓が、代わりに夢幻の心臓ファンタジオンになれば。


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