紙の考察 CASE 1 フィーネ・デ・フィラリオ
フィーネ。
本名、フィーネ・デ・フィラリオ。
もちろん心の中だけではあるものの、自ら別の世界からやってきたことを認める彼女にとってその紙は当然見慣れたものであり、それが意味するところもすぐに理解した。
だが、彼女の場合、自身に特別な能力があったために、そこから先の思考は他の来訪者とは違う方向に進んでいく。
……間違いなくこれは別の世界から持ち込まれたもの。
そう感じたところで、テーブルに積まれたほぼ同質のものに目をやる。
……色は多少違うけど、まあ、ほぼ同じ。
……ということは……。
……この世界の材料でも完璧なものはできるということなのですね。
そう。
その時点で彼女は自らが使用するためにすでにもとの世界と同じ品質の紙をつくっていた。
どうやって?
もちろん、それはこの世界の者たちでは考えられない知識を持ち、高度な機械が並ぶ元の世界の技術者でさえ成し遂げられなかったあの物質の整形を簡単にやってのける「完全再現」の魔法によってである。
そして、その魔法でつくられた紙のサイズは、大貴族でなければ手にできないものだと王宮からそれを持ち帰ってきた父親が自慢するものと同じ。
原料に加えるものに違いが出たのか白さはやや足りなかったが、使用するにはまったく支障がない。
……さて、これをどう見るべきなのか。
フィーネは少しだけ考える。
……もちろんどこかの段階でこちらにA4サイズのコピー用紙を持ち込んだ者がいるのはまちがいないでしょう。
……問題は……。
……これが持ち込まれたのが現在なのかということでしょうね。
……まあ、現在ということであれば、それはこちらとあちらを行き来している者がいるということになります。
……そして、その者を取り押さえれば、元の世界に戻ることができる。少なくても、戻る方法を手に入れることができるわけです。ですが……。
……その可能性はあまり高くないように思えます。
……なぜなら、向こうからやってきたものが紙。しかも、それだけというのはおかしいからです。
……そう。この世界で一番需要がありそうな武器が……。
そこまで言ってところでフィーネは一度思考を止める。
……ですが、その人物が銃や殺傷能力の高いものが簡単に手に入るような国に住んでいなければその意思はあっても持ち込むことはできない。
……ということは、やはり、ここにやってきているのは日本人ということなのでしょうか。
……まあ、どこの国からやってきた者でもいいです。それに……。
……やはり、この紙は向こうから現在も持ち込まれたものではなく、その製法を知ってつくり出している者がいると考えたほうがいいように思えます。
……魔法で。
……なぜなら私ができるのですから、別の誰かがつくりだしていてもおかしくない。
……そして、その人はきっと財を成しているでしょうね。
……なにしろこの一枚でフランベーニュ金貨二枚。
……どこからどうやって流れてきたのかは知りませんし、その間に中間マージンが加わっているのはわかりますが……。
……それでもこれはありえません。
……まあ、そういうことなら、私も同じことをして儲けることができるわけですから、今は黙っておきましょう。
……それに、私自身が高価なコピー用紙を使うわけでもありませんから。