ワイバーンの黒旗
大海賊ワイバーンの黒旗。
そこには二匹の翼竜が描かれている。
さすが、異世界。
ここにはそのような生物もいるのかとなりそうなものなのだが、実をいえばこの世界にはそのような生物は存在しない。
では、翼がなければ……。
残念ながらそのような生き物も存在しない。
つまり、別の世界と同じくこの世界においても、翼竜どころか、竜そのものも想像上の生物でしかないということになる。
まあ、火は吐かないが毒を持つ別の世界でいう十メートル近くのオオトカゲや、木から木へ滑空するそれなりの大きさのトカゲの類はこの世界には存在するので、そこから想像、または創造し、竜という巨大な生き物が生み出されたことは十分に考えられるわけだが、そこから少しだけ思考を進めると、ある興味深い考えが成り立つ。
この世界にいる人間と、人間とほぼ同じ思考パターンを持つ魔族が想像するものは、こことは別の世界の同類とほぼ同じ。
つまり、その世界がどこであろうが環境が同じであれば考えることはそうは変わらないということ。
これは人類の思考について研究する者にとって、狂喜したくなるくらいのすばらしいサンプルになること間違いなし。
まあ、残念なことだが、現在まで肝心の研究者の類がこちらにやってきた痕跡は見つかっていないのだが。
それからもうひとつ。
ワイバーンという名と翼竜が描かれた旗の関係。
こちらは恐ろしい偶然から始まっている。
なにしろ大海賊ワイバーンが名乗るワイバーンとは、その長であるバレデラス・ワイバーンの名字にあたるものであり、彼の祖先がまだ魔族国家の漁師をやっている時代から使われていたものでもあるのだが、その由来は彼らの居住地が荒地だったことを示すこの世界の言葉ワイブをもじったものとされており、翼を持った竜とは無縁なのだから。
ちなみにこの世界で言う翼竜とは空を飛ぶことができる想像上のオオトカゲ、すなわち別の世界でのワイバーンをほぼそのままの形で指し示す。
一方の黒旗の意匠である翼のある二匹の竜。
こちらについては間違いなくワイバーンをそのようなものだと知っていた者が考案したものである。
つまり、その考案者とは現在の長であるバレデラス・ワイバーン。
彼が父親の代わりに実権を握ったきっかけとなる紙を切り札にした金銀貿易の成功と、そこから始まる急激な勢力拡大が起こったときに、以前使用していた名前を大きく記しただけのシンプルかつ少々恥ずかしいものから変更した。
そして、その意匠から「天空の大海賊」というふたつ名が与えられている。
「翼竜のごとく、俺たちがこの世に住む者すべての頂点に立つという意味を持つ」
バレデラスは、父親であるアンドレス・ワイバーンにその意匠についてこう説明している。
ちなみに、海賊旗の地色である黒は、海賊旗の登場とともに使用されていたものであり、別の世界から持ち込まれたものではない。
ということは、人間や人間と同様の生き物は同じような条件が与えられれば、ほぼ同じような思考結果に至るという先ほどの話はここでも成り立つことになる。
もちろん海賊旗の地色には黒を使わなければならないという決まりがあるわけではないので多くの例外がある。
そして、その例外でもっとも有名なものといえば……。
もちろん「血色」と表現されるあの方の旗となる。




