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魔術の存在と文明の進歩

 アルディーシャ・グワラニー。

 現在は武官との兼任ではあるが、文官という立場上書物に触れる機会が多い。


 そして、彼が属するのは、この世界でもっとも長い歴史を持つ魔族。

 しかも、魔族は一貫して文字として記録を残すことを習慣としてきた。

 それはつまり、膨大な公的な記録があるということである。


 彼はそれを閲覧できる立場にあるのだ。

 もちろん代々王が引き継ぐとされる特別な書物にはそこにだけしか記されていない隠された真実もあるため、その部分が抜けている彼の知識は完全なものとはいえないのはたしかである。

 それでも、公的な資料に書かれている事実を知るということは今後のために有利になることはあっても不利になることはない。

 もともと研究熱心なうえに知識欲旺盛だった彼は王都にいるときには時間を見つけては書庫に出かけてそれを読んでいた。


 そして、この日も……。


「……それにしても……」


 この日手に取った一冊の本を読み終わった彼は言葉を漏らす。


「この年代記がつくられ始めて約二千年。つまり、それ以上の歴史がこの国があるわけだが……」


「どれをとっても本当に進化がない。とは、さすがにそこまで言っては失礼だな。制度や法律はかなり進んだ。だが、技術的なものはといえば……」


「ところどころで突然変異的に急激な進化はあるが、それ以外ではどの分野でも進歩を感じるものがない。ここがこの世界の、というか魔族という生き物の最終到達点であると思えるくらいに」


「現在この国で急激に発展している書も、もともと別の世界から持ち込まれた紙がその発端だ。建築分野でも工芸品の分野でも後進勢力であるはずの人間からその技術を手に入れたうえに、それ以上のものはつくれないでいる。この国由来の技術は鉄、それから金や銀の精錬くらいか。まあ、武器の類はそれなりに発展しているが」


「……本来であれば、火薬の存在を知っている私がそれを伝えるべきなのだろうが、そうなれば人間側もすぐに同じようなものをつくりだす。それによってデルフィン嬢の大魔法の価値が一挙に下がることはないが、魔族の戦士たちの個々の剣技の優位性は一気に吹き飛び、勝敗は少々の戦術に味付けされた数と武器の性能だけで決まるどこかのつまらぬ戦いと似たような状況になる可能性は十分に考えられる。伝えるべきではない」


「それにしても、不思議だ。魔族が人間よりも知性が劣っているわけではないにもかかわらずこれというのはなぜなのだ?」


 そう言って天井を見やる。

 もっとも、その場にはそれを答えるべき相手はいないので、すべてが自問自答になるわけなのだが。


「……強いて挙げるのなら、魔族は人間と比べて物欲というものが少なく、非常に保守的。ということは、進歩には物欲が必要なのか?」


「それとも、必要は発明の母という格言は間違いで、実は逆という可能性もある。少なくてもこの世界ではそれが成立しそうだ」


 そう言ったところで、彼は先ほど自らが口にしたことを思い出す。


「……魔法によって多くのことができてしまうため、本来技術革新が起こる分野で進歩が止まっているのかもしれないな。つまり、この状況は過度に魔法に頼った結果か。まあ、これは人間側も似たようなものなのだから魔法の存在が進歩の進まない有力な原因と言えるな。ということは、人間の進歩には不便さが必要ということか。……それにしても残念だな」


「これだけの経験をしたのだ。これをまとめたら本の一冊や二冊書けるのに……『不便は進歩の母である。便利を悲しみ、不便を喜べ』というタイトルで本を出版しベストセラー……なんてな。それに、その前に異世界体験記が出すべきだな。こちらこそベストセラーになりそうだし」


「まあ、書いた本人には実体験だが、読む者はよくできたフィクションと捉えられることになるのだろうが」

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