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魔法に魅せられた剣士の呟き 

 アルベルト・ライムンド。

 それは異世界に飛ばされたひとりである彼がこちらにやってきたから与えられた名である。

 間違って、もとい、何かの手違い。

 いやいやこれも違う。

 とにかく偶然手に入れた剣技によって長い前線勤務を生き残り、剣技教官という地位に就いた彼が始めた魔法研究。

 その過程で師、そして友人となった老魔術師ベルハミン・タンガラー。

 ふたりの交流は途絶えることなく続き、今日もそれはおこなわれていた。


「異世界転移?」


 その日彼から持ち出されたそれにタンガラーの顔が歪む。


「ライムンド殿が提案する魔法は毎回突拍子のないものばかりだが、今回のものはそのなかでも特別といえる」


「だいたい異世界とはどういうものなのだ?」


「まあ、そう言われても困るだろうな。では、言い直そう。ライムンド殿はそれをどのようなものだと定義するのだ?」


 タンガラーは知らない。

 目の前にいる人物がその想像もできない異世界とやらからやってきていることを。

 そして、もちろん彼もそれを口にするわけにはいかない。

 タンガラーなら話してもいいのではないかという誘惑を振り切って、最大公約数的な説明を始める。

 そして……。


「なるほど」


 タンガラーはまず短い言葉で応じる。


「つまり、異世界とはこの世界とは別のどこかある、こことほぼ同様なものというものでいいのかな」

「はい」


 何度も説明を繰り返し、ようやく理解したらしいタンガラーの言葉に彼は頷く。


「ライムンド殿は剣士ではなく魔術師として生まれるべきだと以前言ったが、あれは取り消しだ」

「はぁ?」

「吟遊詩人こそふさわしい。それだけの想像力があれば、当代随一の吟遊詩人、または物語作家になれると思う」

「それはありがたきお言葉」


 ほぼ冗談であるタンガラーの言葉にそう応じながら彼は心の中で呟く。


 ……タンガラー師には想像できないでしょうが、そういうものがあるのですよ。


 心の中でそう呟いてからかれは口を開く。


「まあ、そういうものがあると仮定して、魔法でそちらに行くことは可能でしょうが」

「……そうだな」


「問題はふたつある」


「その異世界へ魔法でいくのなら、それは転移魔法の類を使うことになる。だが、そうなれば、例の理が枷となる」

「……術者の足がついた場所だけがその対象になる」

「そういうことだ」


「だが、これは転移魔法の進化によって解決できる可能性がある。より大きな問題はおそらくもうひとつのほうだ」

「と、言いますと?」

「その異世界とやらに行った場合に、その者はその世界の異物となる。それをどう扱うのだ?」


「……言い方が悪かったようだな」


 タンガラーは、表情から彼が自らの言葉を理解できないことに気づき、そう言葉を加えて訂正する。


「なかったものがそこに存在するというのはそれこそ世の理に反するということだ。さらに、ライムンド殿が最初に尋ねたこの世界と異世界を行き来するとなった場合はさらなる問題が発生する。わかるかな?」

「いいえ」


「たとえば、ライムンド殿が今から異世界に出かけ、十年後こちらに帰ってくるとする。ライムンド殿が帰ってくるのはこちらの世界のいつになるのだ」

「……十年後というわけにはいかないということですか」

「異世界に行ったままであれば、消えたということでいいのかもしれないが、それが再び現れるとなると、その十年間はどうなるのだ?」

「では、消えた瞬間からやり直す……」

「本人はそれでいいかもしれないが、この世界で生きている他の者はどうなるのだ?その間は時間が止まっているのか?それとも時間が巻き戻されるのか?いずれにしても大いなる矛盾が生じる。その異世界とやらとこの世界を行き来できる魔法は、余程の仕掛けか、時間に大きな負荷をかけるかしないと成立しない」


「無理だな」


「まあ、もちろんそれは異世界とやらがあればという話なのだが……」


 タンガラーはそう言って笑った。

 だが、付き合うように彼も表面上では笑ったものの、心の中ではまったく笑っていなかった。

 当然である。

 なぜなら、タンガラーが言ったその無理なことをやってきた存在。

 それが自分だったのだから。


 ……その魔法は存在する。

 ……だが、それと同時にかなり副作用があるもののようだ。


 ……まあ、だからこそ、人間であるはずの私が魔族の者になっているのだろうが。

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