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太陽系デスゲーム 急


序を読んでいない方は序からお読み下さい。

《六日目》


水星 0P 食料2食分 水1本

金星〘絞殺〙

地球 9000P -4000

火星〘絞殺〙

木星 〘焼死〙

土星 〘焼死〙

天王星 500P

海王星 〘絞殺〙


水星(マーキュリー)は限界を。天王星(ウラヌス)は諦観を。


地球(アース)は退屈を。(ムーン)は希望を抱いていた。


六日目、デスゲーム終了まで残り三日。各々違う想いを抱きながら残りの時を過ごす。


14時24分


アースは部屋で退屈そうに天井を見ていた。


今まではこれからの作戦や戦略を考えていたが、今は何も考えていなかった。なぜならもはやアースの勝ちは確定しているからだ。


ただ、それはアースの頭脳、読みが相手を上回ったから、それだけが理由ではない。ここまでなんの苦労も無く勝つことができたのは“ムーン“、彼女の力もあったからだ。


そして、彼女の狙いだけが未だに分からなかった。


「…………はぁ、つまらん」


「つまらない、ですか?」


独り言のように呟いたが、その言葉をムーンは不思議そうに繰り返して言う。


「もうこのゲームは終わったも同然だ、ならば暇になるのも当然だろう」


「……え、ここ笑った方がいいんですか?」


アースは何も返さなかった。


「えーっと、つまらないならもう終わればいいんじゃないんですか?ゲームマスターなんですから」


ムーンは椅子に腰掛けながらベットで寝っ転がるアースに向かって簡単な答えを言うように話した。しかし、アースは少し表情を濁らせる。


「まだそんなこと言うのか?その“設定“はもう忘れていいぞ」


「…………設定〜?何の話ですかー?」


「とぼけるな、()()()()()だろう、いつまでその演技をする」


言っていることはこうだが、アースの口調は怒っているようなものでは無かった。


「まー確かに、えへへ、アースさんをからかうのが面白くて〜……まぁ中断は申し訳ないですができませんっ!」


ムーンは舌を出しながらてへっと言う。


「ま、そうだろうな、こんな大掛かりなもの用意するのにいくらかかったのかは分からないが、中断なんて終わり方したくないよな」


何気なく言ったがムーンにはもちろん図星で、しかし、その返答には今までには無い声色が含まれていた。


「ホントですよ、このゲームの為にどれだけ準備したか、何度諦めかけたか、心の底から疲れました。でも、それも遂に終わる」


ムーンは感動したように目に涙を貯める。


ただ、今の話は少し引っかかる。


今の言い方だとまるでこのデスゲームの開催に乗り気ではなかったが仕方なく準備した様に聞こえる。


さらに、何度諦めかけたか?準備にか?いや、そうでは無い気がする。何に対しての事なのかは分からないが、この言葉にはムーンの狙いを暴く重要な意味が含まれてそうだった。


それについて考えるように、アースは再度頭を働かせ始めた。


17時45分


マーキュリーは食堂で最後の晩餐をとっていた。


そう、最後である。


今日このままいくと部屋が太陽に飲み込まれ死ぬのはマーキュリー、助かるには隣の部屋のアースに交渉するかもしくは殺すか、だが、交渉なんて譲るはずがなく、殺すのも難しい。


なぜならアースにはムーンという名の最強の守り人がいるからだ。彼女は人を殺すのを(いと)わない、戦って勝てる見込みは少ない。


最後の食事メニューは高級牛のハンバーグに、少々の野菜にコンポタージュ、そしてライス。


相変わらず高級ホテルで出てきそうな豪華なものだった。


「俺にしては、よくやった……」


マーキュリーは一人呟く。


ここまでアースに劣らない実力を発揮し生き残ることが出来てきた。マーキュリーは実際のところ頭は良くない。しかし、ここまで生き残ることが出来たのは好きなアニメの主人公に憧れて、自分をこの世の主人公だと本気で思う程の気持ちが、彼の実力をここまで上げた。


しかし、彼は会った。“本物の主人公に“。


「そういえば俺にはヒロインがいなかったな……そりゃヒロインがいないアニメなんて無いんだから、俺は違かったんだろう……」


もうすぐ彼は死ぬ。しかし、マーキュリーに焦りや絶望は無かった。


ここまで主人公を演じて来たのなら、最後までそうしようということなのだろう。


最後まで主人公らしく。かっこよく死のうと。


日付が変わるその時までマーキュリーは誰とも話すことなく、ただ一人黙って部屋で過ごし、ゲームから脱落した。



《七日目》


水星 〘焼死〙

金星〘絞殺〙

地球 5000P -4000

火星〘絞殺〙

木星 〘焼死〙

土星 〘焼死〙

天王星 0P -500

海王星 〘絞殺〙


今日で他の参加者がいなくなると考えれば、実質今日が最終日と言っても過言では無い。


8時14分


珍しく早く起きたアースは顔を洗ってから椅子に座っているムーンに話しかける。


「お前、俺の事どう思ってる」


「はひゃっ!?いいきなり何を!?」


予想外の質問にムーンはどこからそんな声が出るのかと言いたくなるような声を出す。そして恥ずかしそうに顔を赤くして答える。


「好き、ですよ」


「どれくらい」


アースは気恥しい質問を平然とする。


「アースさんのためなら死んでもいいくらいです」


「どうしてそんなに俺の事が好きなんだ?」


アースは質問を続ける。


「ただの一目惚れですよ」


「ただの一目惚れで自分の命を捧げる、そんなことある訳ないだろう。本当の理由は俺にも言えないのか?」


ムーンは頑なにアースに尽くす訳を話さなかった。しかし、今は少し悩んでいる表情をする。


「…………でも、本当の理由を話したらきっとアースさんは私を軽蔑して避けて殺したくなるかも知れません、だから、言うのはもう少し待ってもらっていいですか?」


「なんだそれ。さらに気になるが、まぁいい。言うのならその時を待つ」


恐らく。こいつの隠していることは俺の予想を上回る程の、狂気じみたことなのだろう。そうアースは考える。





23時14分


参加者は3人まで減り、積極的な行動を起こす者もおらず、今日は何も起こらなかった。


そしてアースとムーンの部屋は今日太陽に飲み込まれる。つまり生き残るには今天王星(ウラヌス)のいる海王星の部屋にいる必要がある。


さてどうするか────という間もなくアースとムーンは既に海王星の部屋にいた。もちろん部屋にはウラヌスもいる。しかし、ウラヌスは全てを諦めているかのように無表情でただそこにいるだけだった。


「……俺には人を好んで殺す趣味は無い。だからウラヌスを殺そうとも思わない。だが、あくまでここはウラヌスの部屋で俺達の部屋は隣だ」


アースは淡々と説明する。


「だからこそ、今日俺達の部屋が飲み込まれた時、俺達がどうなるか分からない。俺の言いたいことが分かるか?」


「…………だから、部屋から出て行けと?」


「その通りだ。察しが良くて助かる」


「ふっ、バカね、それで出ていく訳ないでしょ、私だって死にたく無いんだから」


ウラヌスはそれだけ言ってそっぽを向いてベットに潜る。部屋にいるのは許すということだろう。


だがしかし、アースは無慈悲に言う。


「そうか、じゃあ死んでくれ」


────────────────────。


日付が変わり、


無力化されたウラヌスはいとも簡単に死んだ。


かくして、他の参加者は全員死んだ。


故に、長い長い八日間は終わりを迎える。





《八日目》


水星 〘焼死〙

金星〘絞殺〙

地球 1000P -4000

火星〘絞殺〙

木星 〘焼死〙

土星 〘焼死〙

天王星 〘焼死〙

海王星 〘絞殺〙


12時00分


食堂にはアースとムーンが対峙するように座っている。


ゲームの終了は今夜零時。その時間に海王星の部屋にいたものがこのデスゲームから生き残る事が出来る。


しかし、そんなことは今やどうでもいい事だった。


「アースさん、デスゲーム、お疲れ様でした」


ムーンは穏やかな笑みを浮かべながらアースに言う。


後すべきことは彼女の話を聞くこと。それだけだった。


「あぁ、お前もな」


「ふふ、どうでした?初めてのデスゲームは」


「……そうだな、神に最も近い者からすると、改善の余地あり、これに尽きる」


つまらないでもおもしろいでも無く、改善の余地あるというトンチンカンな感想を述べた。


「改善の余地がある……?」


「あぁ、まず何も起こらなすぎる。もっとルールの追加やら新たな参加者の追加やらの面白いイベントを入れろ」


「え、えーっと……はぁ、すいません。このデスゲームは今回が最後なんですよ。今後の開催の予定は無いんです」


大きな溜息をついてからムーンは遂に自分が黒幕だったことを認め、次のゲームが無いことを伝えてる。


「それは、“俺という存在に逢えた“からか?」


アースは考え付いた予想を話し始めた。


お前がこのデスゲームを開催する理由は、自分の望む相手を見つける事。その望みは高く、こんな非日常なデスゲームでも平然としていて、そして圧倒的な勝利を収める。そんな()()()()()()人間を望んでいる。


そんな人間極めて稀だろう。お前が一体何回このデスゲームをしたのかは分からないが、ようやく俺という存在に出会えてやっと終えることが出来る。まぁそんなとこだろう。


しかしまぁなぜそこまでこだわるのか、理解に苦しむ。正直言って俺はお前の事は嫌いじゃない。なぜならお前はなんだかんだ使える。奴隷としてなら使ってやらんこともない。だがお前はどうだ?俺と知り合って、何かあるのか?俺が拒んでいたらどうしていた?それとも本当にただお前は俺に使われたいだけなのか?


という趣旨の話をムーンにした。


ムーンの表情は穏やかで、アースとの会話を心から楽しんでいる様だった。


「さすがアースさんですね。このデスゲームを開催した理由をいとも簡単に言い当ててしまうなんて、ですが、少し惜しいです」


ムーンは先生のような口調で話す。彼女から聞こえてきた言葉はしかし、動揺しない訳にはいかない話だった。


「私とアースさんと会ったのはこのデスゲームが初めてじゃないです。初めて会ったのは一年前、高校一年生の時、学校でです、覚えていませんか?」


アースにはムーンが何を言っているのか全く理解出来なかった。


一年前?学校で?覚えてないか?はて、こいつは何を言っているのだろう。


「ピンと来てませんね……一年前、私はあなたに一目惚れしたんです。でも、私の理想している人にはあと一歩届いて無かった。私はこの世界なんてくだらない、だから自分が新たな神となって世界を創り直す。そんな思考をしている人に使い捨てられるまで使われたい。これが私の全て。え?頭がいかれている?ふふ、そんなこと分かってますよ」


…………アースは黙って話を聞く。


「だから、私はあなたを完璧な理想の人にするために、このデスゲームという名のふるいにかけ始めました。私の理想するあなたができるまで、この薬を投与してあなたの全てをリセットして何度もデスゲームに参加させていたんです」


そう言いながらムーンは薬入れから漆黒に小さな点々がついているまるで星空の様な錠剤を取り出す。


「全てをリセット、なるほど。つまりその薬を服用すれば俺は今とは全くの別人になるんだな」


「え、はい、まぁ中身だけで外見は変わりませんが、それにしても動揺とかしないんですか?」


逆にムーンが驚く程、アースは平然としていた。


「むしろ、そんな薬の存在に感動した。やはりお前はそこらの人間とは明らかに違う」


アースは嬉しそうに笑う。


「お前にとって俺は求めていた存在で、俺にとってお前は俺の求めていた存在だ。この意味が分かるか?」


そう、ムーンにとってこれは願ったり叶ったりの関係だ。


もはやムーンの願いは全て叶った。そしてアースは興味の無い人間という生物から唯一無二と言っていい、仲間にしたいと思う人間に出会った。


「えぇ、本当に、こんなに嬉しい気持ちになったのは生まれて初めてですっ!ありがとうございます!アースさん、私を拒まないでくれてありがとう」


ムーンは目を赤くしてアースに感謝する。


「ふっ、俺もこのゲームを通して今、悪い気持ちじゃない。生まれて初めて人に感謝する。このゲームを開催してくれてありがとう」



23時57分


長かったと言うべきかあっという間と言うべきか、遂にこのデスゲームは終わりを迎える。


デスゲーム会場は静寂に包まれていた。淡い光が廊下に灯っているが、もちろん誰もそこにはいない。


食堂は自動照明で人がいない時電気は消灯しているため、部屋は暗闇に包まれている。


今のデスゲーム会場を一言で例えるのなら『ホテルの廊下』だ。初めは『見知らぬ施設』だったが、八日間も過ごせば多少なりとも親近感は湧く。


初めは9人いた参加者も、呆気なく死に今は2人。残った2人はこのデスゲームから生き残る事が出来る条件を達成するべく海王星の部屋にいた。


「そもそもこの会場は何処にあるんだ?日本なのか?」


「ふふ、そんなことどうでもいいじゃないですか、終わった後のことは終わってから考えましょ?」


2人はベットに並んで座って会話する。


「そうだな……」


少しの沈黙を挟んで、今後の2人にとってアースは聞かなければいけないことを聞く。


「ところで、ムーン、お前の名前は?」


「…………西目屋あゆみ。ふふ、アースさんは?」


「安城寺龍だ。これからよろしく、西目屋」


「名前は呼んでくれないんですねっ、こちらこそよろしくお願いします!龍さん!」


それと同時にゲーム終了の合図が鳴る。これで正式に2人は生き残ることができたということになる。


部屋を後にした2人は会場の出口に向かって歩く。時刻は零時だが不思議なことに、開いた扉の先には光が見えた。デスゲームは終了したが2人の人生はここからリスタートする。これからこの狂人同士がなにをするのかはまた別の話だ。

これにて完結です。

ご精読ありがとうございました。

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