太陽系デスゲーム 破
破
序を読んでいない方は序からお読み下さい。
《三日目》
水星 0P
金星〘絞殺〙
地球 20,000P +5500 -1000
火星〘絞殺〙
木星 4500P -500
土星 3500P -500
天王星 1000P
海王星 〘絞殺〙
10時27分
デスゲームは三日目に突入していた。相変わらず地球の部屋の外には二人の参加者が扉を見張っていた。
昨日海王星が殺されたため今日も部屋に余裕があり、太陽に飲み込まれる人間はいない。
アースのポイントは現在20,000、他の参加者に比べてこのポイントはずば抜けて多い。天王星に関してはこの三日間、飲まず食わずであり、早々に気力は減少し始めていた。
そんなアースは今日もまた遅い起床であった。
「あ、アースさん、おはようございます!」
「朝から元気だな、お前は。どこからそんな体力が湧いてくるんだ」
本当にムーンを見ていると、このデスゲームを楽しんでいるようにしか見えない。
「それはもちろんアースさんの寝顔を見ていれば元気なんて無限に湧いてきますよ〜」
アースは深く息を吐いてベットから起き上がる。
今更だが、着替えは運営側から毎日支給されている。どこから持ってきているのかは不明である。
着替え終えたアースはそのまま扉に手をかける。
「お前、朝食食ったか?」
「いえ、私はアースさんの許可なくポイントを使うことはしないと決めているので食べてません」
──ほう、分かっているじゃないか
最初から二人で共通のポイントを使うというハンデを背負っていて、それが故にムーンのことを邪魔な存在としか考えていなかったが。
自分の為にポイントを使わないというのは、もはや疑う必要が無い程、ムーンは本気で自分のために尽くしたいと、アースは確信した。
「だったら食べに行くぞ、ムーン」
初めて名前で呼ばれたムーンは驚いた表情をしてから、笑顔で返事をする。
「はい!アースさん!食べに行きましょう!」
ルンルルーンとスキップしながら扉を開ける。しかし、目の前には二人、暗い表情をした参加者が立っていて、一気にテンションは落ちた。
一人は土星、長い髪の毛はボサボサになっており、満足した食事がとれていないのか、体は痩せていた。
もう一人は木星、内気そうな顔をしていて、部屋から出てきたムーンを見て一歩後ろに下がる。
「な、なんで部屋から出てくる!お前達は、か、監視されてるんだぞ!」
早口でそう言うジュピターをフルシカトして、ムーンは殺意の目を向ける。日常生活で、こんな目を向けられることは無いだろう。そう思うほど鋭い目だ。
「邪魔」
監視の意味が全く意味がない。『邪魔』の二文字で、二人は何も出来ずにムーンとアースを部屋から出した。
「……じゃ、行きましょうか!」
「あぁ、そうだな」
立ち尽くす二人を無視して、ムーンとアースは食堂へと向かった。
■
食堂にはマーキュリーとウラヌスがおり、二人とも黙って座っていた。そんなマーキュリーは食堂に入ってきた二人を見て、嫌そうな目つきをする。
「…………なぜおふたりがここにいるんです」
そう質問するマーキュリーはだが、そんな質問しなくても二人がここにいる理由は分かりきっていた。
「なんだ?あの二人の監視で俺達を閉じ込められるとでも思っていたのか?」
「もちろん、微塵も思っていません。あの二人には“何も期待してませよ“」
吐き捨てるようにそう言う。それが言い終わるのと同時くらいにその二人が食堂に戻ってきた。
これで今生き残っている参加者が全員ここに揃った。そして、まるでこのタイミングを狙っていたかのように、ゲームマスターからの放送がかかった。
『やあやあ皆さんお元気ですか〜?』
相変わらず明るく、こんなデスゲーム中には聞きたくないような口調で話す。
『実はちょっと報告があってねー』
アースムーンマーキュリーは表情一つ変えず言葉の続きを待つのに対し、サターンジュピターウラヌスは希望に満ちた表情をする。
それはもしかしたら何らかのトラブルが発生してこのデスゲームが終了するのではないかという期待だった。
しかし、
『一つ、ルールを追加しようと思ってねー〜』
ルールの追加、むしろ嫌な報告だった。一体どんなルールが追加されるのか、三人はこれがまだ続くのかと苦悶の表情をする。
『他人の部屋で夜を過ごすことを可とする。以上!これからのゲームにも大いに期待する!』
その言葉を最後に、ゲームマスターの声は聞こえなくなった。
そして部屋に静寂が訪れる。
三人の表情は、それほど暗くは無かった。
ムーンは薄く微笑んで、アースとマーキュリーは椅子に座ってそれぞれ熟考するように腕を組む。
『他人の部屋で夜を過ごすことができる』つまり、今海王星の部屋が自室になっているウラヌスの部屋で寝れば、生き残ることが出来るということだ。
このゲームで生き残る方法は二つ、『参加者を全員殺す』か、『海王星の部屋で最終日を過ごす』この二つだ。
ならば単純に海王星の部屋で寝ればいい。
「なるほど、これはまた面白いルールですね。やろうと思えばこれ以上の犠牲を出さずにデスゲームを終えることができる。しかし、これはデスゲームと言えるのでしょうかね」
そうマーキュリーは話すが、その声色には心が篭っていなかった。まだ何か、この追加ルールに対する作戦を考えてるようだった。
「ふ、確かにそうだな……」
それはアースも同じだった
二人は今、この先の主導権を握る重要な戦いをしていた。
相手よりも上を行く、負かせる作戦を考えた方が勝つ。
そもそもアースとマーキュリーは最初から全員で生き延びようとなんて全く思っていない。二人が考えていることはどうやってこのゲームに勝つか。つまりどうやって“自分だけが生き延びる“か。ただそれだけを考えていた。
「アースさん、このルール……」
ムーンは心配そうに隣に座るアースの顔を除く。
「あぁ、まぁとりあえず、食事にするか」
アースはトコトコ歩いて朝食を持ってくる。
そのまま先程の席で朝食を食べる。ウラヌスはその余裕そうに食事をするアースの姿を見て、ジロリと睨む。
「アースさん、このゲーム僕の勝ちです」
作戦が考えついたのか、自信満々でそう口にするマーキュリー。
だが、それをアースはどうでもいいことのように受け流す。まるで、このゲームの勝ちを確信したかのような、そんな顔を見せる。
アースのその目を見て、ムーンはキラキラと目を輝かせる。
それに対しマーキュリーは苦笑いを浮かべる。
──なんだその俺を試すような表情は。気持ち悪ぃ、お前は自分が置かれている状況を理解していないのか?あの三人は絶対に同盟を組む。そして俺とお前を部屋に入れることは絶対に無い。
つまり、このままだとお前の負けは確定。
それなのに、この余裕な顔……まさか。まさかな。
マーキュリーは思い上がりの激しいただの主人公気取りの凡人だ。だからこれは主人公たる自分への試練だと思い、アースの普通なら信じるわけない言葉を疑うことなく信じてしまった。
アースは今まで見せたことがない、邪悪で悪魔の様な微笑みをして放つ。
「ふっ、気が付いたか?俺がこのゲームの黒幕だ」
高らかに、アースはそう宣言した。
そして、その勢いのままアースは続ける。
「もう一つ、お前達参加者に教えておこう──」
アースは立ち上がり食堂の扉に歩きながら呟く。
「他人のポイントは勝手に使用しても良い」
他人の部屋で過ごすのがありなら、ポイントも使用しても良いということになるのか、アースはさらにルールを追加した。
だが、サターンジュピターウラヌスはキョトンとしていた。
それに対してマーキュリーは苦笑いを浮かべる。実に面倒なルールを追加してくれたものだ、そう考えながらマーキュリーは俯く。
食堂を出たアースとムーンは並んで部屋に戻る。
「アースさん、まさか本当に黒幕だったんですね……」
薄々黒幕なのでは、と思っていたムーンだったが、まさか本当にアースがこのデスゲームの黒幕だとは思っていなかった。
「…………」
アースは何も喋らなかった。
アースはそのまま部屋に行き、またいつものように思考に耽る。
■
21時52分
今日もまた遅い時間にアースは夕食をとっていた。
しかし、いつも隣にいるムーンは今は居なかった。というのもムーンはアースの役に立つために、また他の参加者の元へと行っていた。
夕食を食べ始めて7分、すぐに食べ終えたアースは自分のポイントを守るために自室へすぐに戻った。
幸いポイントは使われていなかった。そして、ムーンも部屋に戻っていた。
「あ、アースさん、おかえりなさい〜今日もいい情報仕入れましたよー」
ムーンはまるでアースの秘書のように情報を伝える。
「今の参加者は、私達、マーキュリー、その他三人のグループに分かれてますね」
他人の部屋で過ごしてもいいというルールは、だからといって強引に入っていいという訳では無い。部屋主から許可を取らなければいけない。
ジュピターとサターンはウラヌスに交渉し、唯一生き残ることが出来る海王星の部屋で過ごすことにした。アース、マーキュリーの戦いには関わらない、そんな立ち回りをしていた。
「まぁそうなるだろうな」
アースはさも分かっていたかのように相槌を打つ。
「さすがアースさん!私が探りに行くまでも無かったですね!」
「こうなるとは誰でも予想できるだろ」
さすがです!と褒めまくるムーン。アースはそんなムーンを無視してベットに潜り込む。
「あの、アースさん……」
珍しくどこか緊張した様子で口を開く。アースは「なんだ」と答える。
「よかったら、今日、い、一緒に寝ませんか?」
告白するように言った言葉はしかし、アースにはただの冗談とでも聞こえたのか、
「は?寝るかアホ」
アースはそれだけ言って眠りにつく。
ムーンはそうだろなぁと思いつつ地べたで寝る。
■
《四日目》
水星 0P
金星〘絞殺〙
地球 16,000P -4000
火星〘絞殺〙
木星 3000P -1500
土星 2000P -1500
天王星 500P -500
海王星 〘絞殺〙
10時16分
この日は朝から騒がしかった。
珍しく早起きしたアースは、ムーンを留守番を頼んでそのまま食堂へと向かう。ただポイント節約の為に食事はしない。
しかし、食堂に入った途端、怒声が響いた。
「ふざけないでください!」
長いロングヘアーを荒ぶらせながら優等生のような雰囲気がある天王星は目の前にいる水星を睨む。
その目は人を見る目で無く、まるで害虫を見る目だった。
一体マーキュリーが何をしたのか、アースは他の2人に聞こうとしたが、聞けるような状態では無かった。
土星に関してはもはや正気が感じられず、限界を迎えていた。
木星も表情は絶望の二文字で表せれる顔だった。
「お前らが部屋を空けるからだろ、本当にバカだな」
そう言うマーキュリーも、昨日や一昨日に比べてどこか元気が無かった。しかしそれは仕方ない。何せマーキュリーはこの四日間飲まず食わずなのだから。
初日で全てのポイントを海王星にあげたため、ずっとポイントは0である。
しかし、そのはずなのに、マーキュリーの手には食事をするために必要な食券と水を買うのに必要な食券が握られていた。
それを見てアースは作戦が成功した様に口角を上げる。
一体どういうことなのか、マーキュリーがしたことは実に簡単な事で、木土天の所有ポイントを使って食券を買った。ただそれだけだ。3人の所有していたポイントを全て使用して得た食料と水は、食料5食分、水4本だ。
「だからって!自分勝手が過ぎるでしょう!私達はこれから何も食べることも飲むことも出来ない、本当に、最低ね」
マーキュリーは怒鳴られる度にほんの少し肩を揺らしていた。
その他二人は相変わらず俯いていた。
「は、最低?何バカなこと言ってるんですか?僕はむしろゲームマスターの期待に答えたんですよ?」
──期待に答えた、か。そうだなマーキュリー、お前は俺の期待に大いに答えてくれた。
「いつまで甘えている、これはデスゲームなんだぞ?協力なんて許されると思うなよ。ただ、生き残る方法が一つある」
マーキュリーは三人のいる方を指さす。そして引き攣った笑みを浮かべながら言う。
「今日、誰か一人を犠牲にすること、それをすれば食料をあげますよ」
マーキュリーは歩き出し、食事を持って来る。三人は気まずそうに顔を逸らす。
「ね、黒幕のアースさん、これを望んでいたんですよね?」
マーキュリーは近くに座っているアースに向かって話す。
「あぁ、マーキュリー、お前は最高だ……」
そう言った後にアースは小声で続ける。
「そして最高の駒でもある」
二人の会話を聞いていたウラヌスは思い出したかのように黒幕のアースに言いたいことをぶつける。
「アースさん、いえ、ゲームマスター。あなたはどうしてこんな事をするんですか?自分で何をやっているか分かっているんですか?あぁ分かってますよ、こんなこと言っても無駄ですよね」
ウラヌスの言葉をアースは黙って聞く。
「異常者はいつまでも異常者なんですから、説得されても、打ち負かされても、刑務所に入れられようが、あなたは死ぬまでそんな思考回路なのよ」
「…………そうだな、俺にもなんでこんなことしてるのか分からん」
アースの返答に、ウラヌスは呆れを通り越した諦めの表情をしながら席を立ち食堂を出ていった。もはや頼れる人はウラヌスだけのジュピターとサターンも、親の後を追う子供のように食堂を出ていった。
食堂に残された二人。しばらくして、マーキュリーは黙って食事を食べ終えた。
「ゲームマスターは食事をしないんですか?あぁもう済ませたんですね」
時刻は10時40分、朝食はとっくにとっていると思ったマーキュリーだったが、
「いや、さっき起きたからまだ食べていない。ポイント節約の為に食べないだけだ」
「ゲームマスターがポイントなんて気にしてどうするんですか」
「そうだな」 と、それだけ言ってアースは立ち上がり食堂を出ていった。
扉を閉めてからアースは自室に向かって歩く。
──どうやら、作戦は上手くいったようだ。これであの3人も殺せて、部屋も確保することができる。
直に仲間割れが始まり、3人は自滅していくだろう。
…………勝ちへの道筋は見えた。しかし、強いて言うならやはり“アイツ“だけが障害だ。まだ分からない。俺には、アイツが何をしたいのかが。
■
「アースさん、アースさん!」
留守番を頼まれているムーンはアースの寝ていたベットに潜り込んでいた。そう、それはまるでストーカーが部屋に入り込んで、その人の布団に入り込んでいるのと同じだ。
「アースさんの匂いがする、あぁぁほんとっ、幸せ……」
顔を赤くし、息遣いを荒くしながらムーンはアースの布団の匂いを嗅ぐ。
こんなことしていることがアースに知られたら、きっと嫌われるだろう。
「でも本当に苦労した甲斐があった……」
アースの布団からヒョコリ顔だけ出して今までの苦労を思い出し、ムーンは安堵の溜息を吐く。
そんな意味深な言葉を残しつつ、ムーンはアースの帰りを待った。
■
10時48分
木星、土星、天王星、男一人女二人の3人は部屋で重要な話し合いをしていた。
それは誰を犠牲にするかの話し合い。
今のところ今日の犠牲者は水星になる。しかし、そうなれば水星の持っている食券は全て無くなり、3人が食事を得るにはアースを説得するしか無くなる。
だがアースがポイントを渡すことは無いだろう。理由は単純に渡すメリットが無いからだ。
なので、助かるにはやはり水星の要求、誰か一人を犠牲にするしかなかった。誰か一人が犠牲になればその分部屋が空き、水星が死ぬことは無くなる。
「そうか……この部屋で寝てても自室は別にあるんだ……」
「そうよ、だから水星は私達の中から誰かを犠牲にすることを望んでいるの」
暗い印象を思わせる長めの髪で、あまり人と話すのが得意ではない木星の質問に、生徒会長気質で男子から人気がありそうな見た目の天王星はベットの上から答える。
「……ぎ、犠牲……」
ジュピターは噛み締めるように呟く。自分が生き残るために誰を殺す決める話し合いなんて、全くする気にならなかった。
もう一人、初日から限界気味だった土星はベットの中に潜り込んで既に話し合いなど出来る状態ですらなかった。
「誰かが死ななければならない。その話し合いをする覚悟を、まずは決めないと」
そう言うウラヌスもやはり乗り気では無い。しかしそんな自分を無理矢理いつもの頼れる自分にする。
「さぁ!話し合いましょ、時間が無くなる前に」
かくして話し合いは始まった。
■
13時14分
数時間にも及ぶ話し合いは膠着していた。
いやもはや最初から話し合いなんてしていない。なぜなら話し合って納得するはずがないのだから。
「……もう、これ以上話しても無駄ですよ……」
「……はぁ」
ウラヌスは頭を抑えながら大きな溜息を吐く。実際頭が痛いのは本当だった。
その原因はこの話し合いだけでなく、栄養不足、水分不足、過度なストレスなど、様々な要因から来ていた。
「──じゃダメなんですか……」
「え?今なんて?」
小声で何かを言ったジュピターに、ウラヌスは聞き返す。だが、その返答は驚きのものだった。
「サターンじゃダメなんですか!?さっきから話しかけても全然返事しないし!犠牲にするならこいつが一番適任でしょ!?」
ジュピターが今まで溜め込んでいた不満は遂に爆発する。
それはまるで核分裂反応のように電波していく。ずっと布団の中で現実逃避していたサターンはヒステリックに叫ぶ。
「嫌だ!嫌だ嫌だ!死にたくない!どうしてそんなことするの!?私は何もしてない!そんなの嫌だ!」
「自分が危なくなったらいきなり話し始めるなんてずるいでしょ!?そもそももうあなたは壊れてるんだよ!僕の為に死んでくだ──」
「ああああああああぁぁぁ!!!もう嫌だぁぁぁぁぁ!家に帰りたあぃ!お願いしますなんでもするからもうやめてください!お願いします!お願いします!」
サターンはシーツを思いっきり掴みながら、誰もいない壁に向かって神を崇める様に土下座をする。顔は涙と涎でぐしゃぐしゃ、さらによく見ると白いシーツに大きなシミができ始めていた。明らかに普通じゃない。
サターンの精神は崩壊した。
────────しかし、そんなサターンの事をウラヌスは優しく抱きしめる。ウラヌスの女神のような暖かい顔つきと、スラッとしている身体、または特徴的な豊乳で抱きしめられたサターンは落ち着きを取り戻す。
「そうよね、死にたくないよね、安心して、あなたは死なない」
ジュピターは息を呑む。次にウラヌスが言う言葉が予想出来た。
そして案の定、ウラヌスは汚物を見る目でジュピターを見ながら予想した言葉を放つ。
「犠牲になるのはそこのジュピターだもの」
■
13時48分
ジュピターは死んだ目をしながらアースの部屋に来た。
「何?部屋の交換?あぁなるほど、分かった」
ジュピターの状況を理解したアースはすぐに了承した。
次に向かうのはマーキュリーの部屋。これでマーキュリーと部屋を交換すれば晴れてジュピターは今日の犠牲者になる。
ルール上面倒だがこうするしかない。重い足取りで歩くジュピターはマーキュリーの部屋をノックする。
「部屋の交換を、お願いします─────」
「……今日の犠牲者はジュピターか。可哀想に」
マーキュリーは小声で呟く。しかし、そもそも誰かを犠牲にしろと言ったのはマーキュリーなのだ、可哀想なんて虚言だろう。
「でも大丈夫です。あなたを裏切ったウラヌスもサターンも、必ずあなたと同じ、いや、裏切った二人は地獄行きですね」
そんなマーキュリーの話はジュピターの耳にほとんど入っていなかった。
今から自分は死ぬのか。脳みその中にはそれしか詰めれまれていない。
しかしこれでマーキュリーは今日も生き残ることが可能になった。
マーキュリーの心中には大きな自信が芽生えていた。
──やっぱり俺には才能がある!こんなデスゲームに勝つことができる!ふっ、俺はあの神擬きとは違うんだ。
マーキュリーは自分を疑うことなく自画自賛する。自分がただ生かされていることに気づくことなく。
■
《五日目》
水星 0P 食料3食分 水2本
金星〘絞殺〙
地球 13,000P -3000
火星〘絞殺〙
木星 〘焼死〙
土星 2000P
天王星 500P
海王星 〘絞殺〙
いよいよデスゲームも終盤に差し掛かってきた。
既に参加者の精神力は限界に……達している者の方が少なかった。
と言っても万全の状態という訳でも無い。
11時04分
「……さすがに寝過ぎた」
ゲームマスターを自称するアースは今目覚めた。部屋にはムーンもいたが、珍しく机に突っ伏すして寝息を立てていた。
それを見て見ぬふりして顔を洗いに洗面所に向かう。
「さて、今日は何もせずに引き篭ろう」
アースの作戦が上手くいけば、今日も何もしなくても誰かが死ぬ。その為今日も今日とてポイント節約をする。
■
17時47分
朝から今まで今日は平和な一日だった。アースは一度だけ食堂に行ったがそこには誰もおらず静かな空間が広がっていた。
廊下を歩いている時も誰とも会うこと無く、やはり参加者は着実に疲労しているのが分かる。
しかしその中には例外もいる。
「ムーン、ちょっと頼みがある」
「あ、あ、あ、アースさんが私に頼み事ですか!?はい!なんですか?どんなことでも言ってください!」
ムーンの気力は初日から何も変わっていなかった。これだけの時間、自分がいつ死ぬのか分からない状況で過ごしていると言うのに。
それはまるで自分が死なないことが分かっているかの様だった。
「海王星の部屋に行って様子を見てきて欲しい」
海王星の部屋にはウラヌスとサターンがいる。その二人の様子を見てこいとアースはお願いした。その頼みをムーンは何も追及すること無く聞いた。
ムーンが部屋から出て行ってからアースは考える。
もしアースの思惑通りなら、今日もマーキュリーはあの二人のどちらかの犠牲を要求するはずだ。いや、必ずする。なぜならマーキュリーが助かる方法はそれしかないのだから。
マーキュリーの隣はアース。アースが部屋を譲ることは万に一つも無いからだ。
もしどちらかの犠牲を要求したのなら、そろそろ動きがあってもいいはずだが、何も起こらない。面倒な事になる前にアースは先に動いた。
数分後。部屋に戻ったムーンはハキハキと成果を報告する。
「ウラヌスはすごい疲れた顔をしてて私の事を警戒してたけど、サターンは布団被ってて分かりませんでした。ただ────もうとっくに壊れているとは思いましたけどっ」
思っていた通り、と思ったのか、アースはなるほどと頷く。
「そうだな、今、新たにルールを追加する。『太陽の部屋で黒幕を当てることが出来ればこのゲームから抜け出すことができる』というルールだ。いいか?」
……………………
ムーンはじっくり沈黙を置いてから答える。
「なんで私に聞くんですか?ゲームマスターなら勝手に追加すればいいじゃないですか〜」
ニヤニヤ笑いながらムーンは答える。それを聞いたアースはふっと笑う。
「少し出掛けてくる」
「はーい!行ってらっしゃいませー」
出掛けると言っても、目的地は歩いて数歩の所。
「マーキュリー、新たにルールを追加する」
アースはマーキュリーの部屋の前で先程のルールの事を説明する。
「……そうですか」
マーキュリーはこの意味の分からないルールに対してなんの疑問も抱かずに受け入れた。
明らかにマーキュリーの気力は無くなっていた。この後の自分の未来を知っているかのように、ただただ絶望しているような表情をしていた。
しかし、そんなマーキュリーに手を差し伸べることも無く、アースは去っていく。だがマーキュリーもそれは望んでいないだろう。
次に向かったのは海王星の部屋。
部屋の扉を少し開けて顔を出したウラヌスは、アースだと分かった途端、親の仇を見るような目をする。
そんな目をスルーしてアースは布団にくるまっているサターンにも聞こえる声で追加ルールの説明をする。
「なるほど、やっとゲームが成立していないことに気がついたんですね」
そう、この返答が普通だ。ゲームマスター自ら、黒幕を当てれたら脱出していいなんてルールを追加するのは、もはやゲームを終了すると言っているようなものだ。
「え」
サターンは誰にも聞こえないほどの声量で呟く。
「終わり?やっと終わるの?」
サターンは希望に満ちた、いや、狂気じみた様子で起き上がる。そのままアースにぶつかりながら廊下に出る。向かう場所は太陽の部屋しかない。
「ありがとう神様!私の願いを聞いてくれて!このゲームから抜け出すことができる!」
高笑いをあげながらサターンは太陽の部屋まで猛ダッシュ、そのまま重い鉄扉を開けて部屋の中に入る。
はるか先で、バタンっと重い扉の閉まる音を聞いてから、アースとウラヌスは目を合わせる。
「…………可哀想な子」
ウラヌスは今から死にゆく者を見る目でそう言った。
「こんな簡単なことも考えられないほど衰退してたのね、まぁしょうがないわ、このゲームにもはや勝ち目なんて無いんだから」
ウラヌスは全てを悟っている様だった。そして、諦めていた。
「このゲームの本当の黒幕が誰なのかはまだ分からない、でもいずれにせよあなたの言うことを聞き、ルールを追加したのだから、もうどうすることも出来ないでしょう?」
そんな吐き捨てるような、くだらないとボヤくウラヌスの問い掛けにアースは、
「…………そうだな」
それだけ言ってアースはその場を去った。
それからサターンが部屋に戻ってくることは無かった。
その後は昨日と同じで、アースが部屋を移動し、マーキュリーも部屋を移動した。
ただ、なぜアースが部屋を移動したのか、その理由は分からなかった。わざわざ移動しなければ、マーキュリーを殺すことが出来たのに。
デスゲームの参加者は残り四人、しかし、誰が生き残るのかはもはや目に見えている。
ご精読ありがとうございました。