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太陽系デスゲーム 序

寝覚め顔を上げるとそこには見知らぬ空間が広がっていた。


その部屋は無駄に広く、天井は遥か上にあり壁は黒い。


正面を見ると大きな円卓の机が広がっていた。そこには9人が椅子に座っていた。各人、恐怖に満ちた表情、状況が掴めず困惑した顔、妙に落ち着いている顔をした人もいる。


しかし、それよりも目を引くのは天井から吊るされている大きな太陽系の模型だろう。


太陽を中心に、“水金地火木土天海“の太陽系惑星が吊るされている。太陽の大きさは半径5m以上ありそうだ。それぞれの惑星もまるで本物をそのまま小さくしたかのように完成度が高かった。


さて、ここはどこなのかと男は考え始める。だが考え始めたのと同時にスピーカーから男とも女とも聞こえる様な声が聞こえてきた。


『みなさーん、おはよーございまーす!よく眠れました〜?ではこれから“デスゲーム“を始めていきまーす!』


現状に合わない、陽気な口調で話す謎の人物はゲームの開始を問答無用で宣言した。




(ふっ、デスゲームとは、くだらないものに巻き込まれてしまったな)


そう内心思っている若干厨二病気味の男はその内心とは裏腹に、外見はいかにも優等生だった。


「おい!なんなんだよこれ!」


別の席に座っている気の強そうな男は声を荒らげて言う。


『まぁ落ち着いてくださいよーこれからルール説明しますので!』


司会者はそう言うと、声を上げた人を無視してルール説明を始めた。


その説明を要約すると────────


これは“太陽系デスゲーム“。ここにいる9()()にはそれぞれ水金地火木土天海の太陽系惑星が割り振られ、デスゲームをおこなってもらう。


ルールは至ってシンプル。水星から順に一日経過事に死ぬことになる。参加者は死なないよう隣の参加者に交渉して部屋を譲ってもらう。そして開始から8日目に海王星の部屋にいた者だけがこのデスゲームから生還することができる。


これ以上にないほどのクソデスゲームである。


なぜなら最初に海王星に割り振られた人が部屋を譲らなければ実に容易く生還でき、全くデスゲームとして成立していないからである。


しかし、そうはならないようにまだルールはあった。


『それぞれの惑星にはその惑星の“有名度“に応じてポイントが割り振られてて、そのポイントで水やら食べ物を買うことができるんだよー』


そのポイントの割り振りはこうだ。


水星 3000P

金星 4000P

地球 10,000P

火星 7000P

木星 6000P

土星 5000P

天王星 1000P

海王星 1000P


『食べ物は一食500P!水は1000Pだよ!』


8日行うゲームで、天王星と海王星は水一本、または二食分の食料しか買うことが出来ない。黙って引きこもっていては餓死か脱水症状で死ぬだろう。


それに対して地球のポイントは一万、上手くやりくりすればポイントに困ることは無いだろう。


これに対し座っている人達はざわめく。


地球に選ばれたい、天王星に選ばれたら終わりだ、水星に選ばれれば一日で終わる。


『まぁ正直このポイントの問題は簡単に解決できるんだけどね〜』


フワフワした声色でゲームマスターは言う。その場違いな声に先程声を荒らげた男が質問する。


「なんだよその方法は」


誰もが気になるその方法はだが、


『ただ参加者を殺せばいいだけだよぉ?』


狂気じみた声が部屋に響く。つまり、殺された人間が所有していたポイントは全て殺した人間のものになる。


一同は実感する。自分達は本当にデスゲームという、非現実的で有り得ないモノに巻き込まれてしまったのだと。


『簡単だよねぇ?だって殺さなかったら死ぬのは自分なんだもん、自分が生き残るために赤の他人を殺すことになんの躊躇もないよねぇ?』


「それは殺人鬼の思考だ」


妙に落ち着いている男は冷静に答える。


『殺人鬼?違うよ。これはデスゲーム、普通の思考をしている奴から死んでいくんだよ』


部屋に沈黙が訪れる。しかし、先程質問した落ち着いている男は癪に障る笑い方をした。それはまるで司会者の言葉に納得した様だった。


『ふふ、じゃあそろそろみんなお待ちかねの、惑星の振り分けをしよっか?』


ゲームマスターがそう言うと、一体どんな技術が使われているのか、参加者の目の前の円卓に文字が表示された。


それは惑星の名前だった。つまり、自分の目の前に表示された惑星が自分の惑星ということになる。


厨二病男の机には、『第三惑星 地球(Earth)と表示されていた』


『そこに書かれている惑星の英名が今から君達が名乗る名前だよ!本名を名乗るのは今の時代危ないからね!』


『アース』、これが今から厨二病男が名乗る名前となった。


『さて、じゃあゲームを始めようか』





《一日目》


水星 3000P

金星 4000P

地球 10,000P

火星 7000P

木星 6000P

土星 5000P

天王星 1000P

海王星 1000P



7時41分、あらかたの説明を終えついに開始したデスゲーム、参加者一同はまず自室へと向かった。


部屋の中はとても簡素で、家具はほとんどない。あるのはベット机タンスくらいだ。そして部屋には入り口の他にもう一つ扉があった。


開けるとそこはバスルームでトイレとシャワーがついていた。


ご丁寧にトイレは自動で開くやつで、シャンプーやリンスなどもしっかり置いてあった。


ただ壁には物騒な事が書かれている張り紙があった。


【水を飲むと酷い腹痛に襲われるので飲まないように!】


しかし、部屋に鍵はなかった。このバスルームにも、“部屋の入口“にも。


ゲームマスター曰く部屋の鍵は午前0時から6時まで自動ロックされるらしい。


さて、これで部屋の説明を終えれればよかったのだが、そうはならなかった。


…………


アースの自室にはもう一人、天使かと疑いたくなるような美しい見た目をしている少女がベットに腰かけていた。


中秋の名月のような狐色の髪に、目はこの世の全てを知っているかのように自信にありふれていた。体はモデルのように美しい曲線を描いていた。


そんな少女の事をアースは黙って警戒するように熟視する。


が、少女は部屋に入ってきたアースの姿を捉えると、意味深に、見守るような視線を送ってきた。


…………暫しの沈黙の後、ついにアースは口を開く。


「誰だお前は、ここは俺の部屋のはずだ」


アースの言葉に、少女はニコッと微笑んでから答える。


「うん、確かにこの部屋は君の部屋だけど、私の部屋でもあるんだよね」


「何を言っているのか理解できないな」


「うーん……そうだよね、私の名前は『ムーン』、地球の衛星ってことでデスゲームの参加者の一人だよ」


なるほど……異様にポイントが高かった代わりに、地球は月と共にデスゲームに参加することになるのかと、アースは思考する。


「つまりお前は俺の味方ということか?」


「味方、か、まぁそう言う風にも言えるね」


ムーンは真っ白い足をパタパタ動かしながら言う。


「お前はこの部屋でこのデスゲームを送るんだよな?」


「そうだけど?なに?もしかして女の子と二人っきりで過ごすから気にしてるの?」


ムーンはニヤニヤ笑いながらアースに聞く。それに対しアースは歩みムーンの目の前に行く。


「気にする?何をだ?お前のことなんてどうでもいい、むしろ邪魔だとすら思っているのだが」


冷ややかにそう言われたムーンは未だ表情を変えずにアースの事を見上げる。


「ふーん、ずいぶん言うね、それにさっきから平然としてる」


「それはそうだろう。なぜなら俺は“この世界で最も神に近い人間なのだから“」


互いが真剣な眼差しで目を合わせる。


再度部屋に静寂が訪れる。


何かが起きる、誰もがそう思ったその時──


「ぷッ!何それ!?厨二病ってやつ?ほんとにいるんだ」


笑ってムーンは言う。しかし。


「────────お前もしかして黒幕か?」


唐突に放ったアースの言葉にムーンは一瞬フリーズする。


だが、それ見たアースは確信する。コイツだ、コイツがこのデスゲームの黒幕だと。


「どうしてそう思うのかな?」


()だから」


「ふーん、でも残念、私はただの参加者だよ。それに君も見ていたでしょ?ゲームマスターが話してる時、私はあの場にいたでしょ?」


そんなこと細工でも何でもすればどうにかなりそうだがと、アースは思うが口には出さなかった。


「まぁいい、そんな議論より今話すべきことは今後の計画だ。このまま行くと俺達は三日後に死ぬことになる」


今日の零時には水星の部屋から膨張する太陽に飲み込まれ、そこにいるものは焼かれ死ぬことになる。


明日は金星、明後日には地球の部屋が焼かれることになる。


焦げ肉にならないためには、『隣の部屋の参加者に交渉して部屋を譲ってもらうか』もしくは『参加者を殺すか』など。


「そうだね、でもそんなに焦んなくても大丈夫じゃない?だって地球には1万ポイントがあるんだよ?使いようはいくらでもあるよ」


ポイントの使用は部屋の中からしかできない。ムーンは部屋の壁に設置されている操作パネルを見る。


そこには食事500P 水1000Pの購入ボタンの他に、所有ポイント10,000と表示されていた。


「呑気だな、だが黒幕なら当然か」


アースはパネルを弄るムーンをよそに、部屋の扉へと歩く。


「黒幕黒幕って……言っておくけど!私からしたらどうしてあなたがそんなに冷静でいられるのか不思議でしょうがないよ。それはあなたが“ゲームマスター“だから?」


ムーンは少し不機嫌そうに足をバタバタさせながら言った。ゲームマスター、という言葉にアースは反応を示した。


「ふっ、そんな挑発は効かないぞ」


歩きながらアースは答え、扉の前に立ってから振り返る。そしてまたニヤついているムーンに向かって言う。


「ちょっと出る」


「あ、うん、行ってらっしゃい」


ムーンはこの限られたデスゲーム会場のどこへ行くのか聞かずに見送った。





時は少し経ち9時10分。


水星(マーキュリー)の部屋には別の参加者である海王星(ネプチューン)がいた。


マーキュリーは最初のゲーム説明の時、妙に落ち着いていた男で、ネプチューンは声を荒げていた男である。


「どうしたマーキュリー、今日死ぬからってこの俺様、ネプチューン様にどうにかして欲しいと頼みたいのか?」


海王星の部屋はこのゲームで唯一助かることができる部屋である。その為、ネプチューンは調子に乗っていた。


「まぁそう焦るなって、俺には余裕がある、()()()やるよ?」


「余裕がある?どこにそんな余裕があるんだ?ネプチューン、君の所有ポイントは1000Pだぞ?」


1000P、つまり、水一本(500ml)もしくは2食分の食料で8日間過ごすのは不可能である。


ポイントの事を忘れていたのか、ネプチューンは「はァァァ!」と言いながら短い金髪を生やす頭を抱える。


「そうだ、そういえばそんなルールもあったなぁ……どうすんだよ!俺!飯は毎日5食は食わないと死ぬんだよ!」


「落ち着け、ゲームマスターも言ってただろ?ポイントの問題は簡単に解決できるって」


マーキュリーは席を立ちネプチューンの周りをゆっくり歩く。


「いやでもそれは、“人を殺す“だろ?」


「なんだ?ビビっているのか?これはデスゲーム、狩らねば狩られるのは自分自身だ」


カッコつけるようにマーキュリーは言う。しかし、そんなことを言われてもネプチューンは人を殺してポイントを得ることにノリ気にはならなかった。


こんな状況でも人を殺す行為をする気にはならない。人を殺す、それはあまりにも常識からかけ離れすぎている行為で、並大抵の人間にはできない。


「ほんとに、殺るのか?」


ネプチューンは改めて聞く。


「あぁ、殺る。だからお前には協力してほしい」


「協力?何をすればいいんだ?」


「俺のポイントを“全てやる“から参加者を殺して欲しい」


水星の作戦は、まず、ターゲットは隣の部屋にいる金星(ビーナス)、しかし、殺すと言ってもナイフや拳銃なんて武器は無い。殺るとすれば絞殺。だが、殺しが許されているデスゲームで参加者は全員他人を警戒している。そんな中、絞殺をすることは難しい。


だから水星が狙っているのは“油断“、水星と海王星の二人で同盟を組む、そしてその同盟に金星を誘う。金星は仲間ができたと安心するだろう。


そこで生まれる安心という油断に漬け込み金星を殺す。これが水星の作戦だった。


説明し終えた水星(マーキュリー)はドヤ顔を見せる。


「おぉ!すげぇ作戦だな!それなら絶対殺れるぞ!」


腕を組んでうんうん頷く海王星(ネプチューン)だが、マーキュリーは一つ付け足す。


「しかしこの作戦には決定的な欠陥がある。それは金星が同盟を組まない可能性があることだ。そもそもこの同盟にはなんの意味もない。なぜなら結局助かるの一人だけなのだからな」


その通り、このゲームで協力などなんの意味も無い。いや普通はできない。余程のバカ以外、協力する事に意味が無いことは分かるからだ。


「な、なるほど、確かにそうだな……」


「しかし気にしてはられない。今夜、決行するぞ。その前に多少の関わりは作っていた方がいいか」


こうして水星海王星同盟は動き始めた。





11時38分


アースは部屋を出てから今までこのデスゲーム会場の探索をしていた。


会場はゲームでよくあるデスゲーム会場を思い浮かべてもらえればいい。


部屋を出て右を向くと、突き当たりに一つの扉があった。その扉には堂々と《太陽》と書かれていた。


アースは扉を開けようとしたがビクともしなかった。


扉の前から右を向くと、そこには《水星》、その隣に《金星》また隣に《地球》と、惑星の名前が扉に順に書かれていた。


なるほど、太陽に近い水星から飲み込まれていく、分かりやすい部屋の配置だった。


ゲームマスター曰く、部屋のロックは午前零時から自動ロックされると言っていた、つまり、今扉は開けようと思えば開けれる、だが開ける必要は無いのでアースは開けなかった。


「ん、よお!そこのお前」


アースは大きな声で背後から話しかけられた。振り返ると、そこにはゴツイ体をした体育系の男が立っていた。鍛えられた体は、高校生程度やろうと思えば簡単に殺せそうな程だった


「お前、名前は?」


「……アースだ」


「アース?アースってなんの惑星だ?」


アースは冗談だろ?という顔をして面倒くさそうに答える。


「地球だ」


「あぁ!地球か!てことはお前か、今一番ポイントを持ってる奴は」


脳みそすっからかんのバカだと思っていたが、ポイントの振り分けは覚えているのか、それは少し厄介だ。


こいつにポイントをよこせと拳を上げられたらどうすることもできない。


「そうだが、お前の名前は?」


「俺は火星(マース)、お前の隣の部屋だ」


それを聞いたアースは小さく笑った。いきなり笑ったアースにマースは少し引く。


「お前なんだ?いきなり笑って?キメーな」


「いやすまん、いきなり笑うのが俺の癖なんだ」


「はぁ?ほんとにキモイな……ところでちょっと相談なんだが、お前のポイントを少し分けてくれないか?」


マースはわざとらしく拳をポキポキ鳴らす。見てのとおり、マースは「嫌だとは言わせないぞ?」と脅していた。


しかし、アースはそれに動じなかった。


「お前にポイントを分けるメリットが何かあるのか?」


自分より少し身長の高いマースを見上げながらアースは質問した。


だがそんなこと質問せずとも分かりきっている。メリットなんて無い。


それをわざわざ質問するのは煽っているようなもの。マースが何をしてくるかは分からない。


「…………はっ!ははは!そりゃそうだよな!分けるメリットなんて1ミリもねぇんだから分けるわけないよな」


意外にもマースはすんなりと諦めた……と思ったが、


「なら、お前のお仲間のムーンちゃんに頼もうかな?女に暴力なんて振るいたくないが、生きるためには仕方ないよな?」


試すような言い方をするが、残念なことにその脅し文句はアースには効かない。そもそもムーンがどうなろうとアースには関係ないのだから。


「あぁ、好きにしてくれ……ただ気をつけろよ」


アースは立ち去り際にマースの耳元で警告するように囁く。


「ムーンは黒幕だ」


マースがその言葉をどう受けとったのかは分からない。ただ「そうか、そりゃご丁寧にありがとよ」とだけ言った。





19時01分。豪華な食堂には7人の参加者が集まっていた。


なぜこんなお食事会のようなことをしているのかと言うと、これはムーンが開催したもので、せっかくこのデスゲームで出会ったのだがら、軽い自己紹介くらいはご飯でも食べてしないかという理由で開催したものである。


食事はまず自室にある操作パネルで食事を500Pで購入すれば食堂で食べることが出来る。


食事はカップラーメン一つ、などと質素なものではなく、まるで一流ホテルの夕食のような豪華なものが出ていた。


しかし、ポイント的に毎日食事を摂ることも難しい参加者も多い、さらにそもそもこんな食事会、参加する意味は無い。


にもかかわらず、この食事会にはアースとマース以外全員が参加していた。


「みんな今日は食事会に参加してくれてありがとうねー」


ムーンはただ座っているだけの人もいる中、優雅に食事をしながら言った。


食堂のテーブルは縦長で大きく、席は余裕で全員が座れる分用意されていた。


ムーンはそんなテーブルの中央辺りに座っていた。


「なに、構わない。ところでおたくの仲間のアースはいないのか?」


今日死ぬ可能性が最も高いマーキュリーは、それなのに全く絶望している様子は無かった。席はムーンの正面。


「あぁアースね、さぁ?なんか出かけるとか言ってそれっきり、なに?怪しいとでも思ってる?」


「そうだな、少し。警戒はしている」


ムーンは「ふーん」とだけ言って箸を動かす。


「じゃあ自己紹介するか?俺は海王星(ネプチューン)、今んとこ一番生き残る可能性が高い人間だな、こんなかでビビってる奴、俺んとこ来てくれてもいいんだぜ?」


チャラ男のネプチューンは危機感を感じさせない自己紹介をする。


「あっ、じゃあ次私行くね、私は(ムーン)、なぜかアースと一緒に過ごすことになった人です、よろしく〜」


ムーンも比較的明るい自己紹介をする。


「では次は私がいきますね、私は金星(ビーナス)です。皆さんどうぞお手柔らかにお願いします」


なにがお手柔らかなのか分からないが、気品のあるビーナスはそんな自己紹介をする。


「はい。じゃあ次は僕から、水星(マーキュリー)です。よろしくお願いします」


マーキュリーは至って普通の自己紹介をする。


「え、えっと、木星(ジュピター)です、よ、よろしくお願いします……」


眼鏡をかけて少し気の弱そうな男子は小さな声で言う。


天王星(ウラヌス)です。あの、今落ち着いて自己紹介をした人に一つ聞きたいことがあるのですが、なぜそんなに冷静でいられるんですか?」


生徒会長のような見た目をしているウラヌスは、ご最もな質問を聞いた。その質問にジュピターも小さく頷く。


だが、その質問にすぐに答える者はおらず、数秒の沈黙の後ネプチューンが答えた。


「そりゃイカれてるからじゃね?」


頭の後ろに腕を回して、真っ黒い天井を見上げながら言った言葉にウラヌスは「なるほど」とだけ言う。


「じゃあ最後に横の方、お願いね」


ムーンに指さされた女子は、ビクッと肩を震わせる。


「あ、はい……さ、木星(サターン)です。えっと、あの……」


この中で一番、サターンはデスゲームの参加者をしていた。


いつ殺されるか分からない状況で、サターンは常にストレスを貯め続けていた。まだ開始して一日目だが、既にサターンの精神は疲労し始めていた。


泣きそうになったサターンを隣に座っているムーンは優しく肩を抱く。


「安心して、私は絶対にあなたを殺さないから。私はあなたの味方だよ」


その優しい声掛けを聞いてもサターンは安心した様子を見せなかった。それもそうだ、この場に信用できる人なんていないのだから。





21時00分


金星の部屋の前には二人の人物が立っていた。


マーキュリーは至って冷静に、ネプチューンはドクンドクン鳴る心臓を誤魔化ように冷静なフリをして話をする。


「作戦、分かってるな?」


「あぁ、話をして油断した隙に殺るんだろ?」


「そうだ、まぁそれが失敗した場合幸い相手はか弱い女だ、俺ら二人なら殺れるだろう」


海王星はともかく、水星の体つきは細身で対した力はなさそうだった。


「では、行くぞ」


水星は金星の部屋の扉を優しくノックする。


「はーい?どなたですか?」


中から聞こえてきたのは扉越しのため篭っているが可憐な女の子という印象の声だった。


「こんにちは、僕はマーキュリーと言います。隣にはネプチューンもいます。今少しお時間いいですか?」


「お時間……?一体なんの御用なのです?」


ビーナスは警戒するような声色で質問する。


水星は金星の部屋に来た理由を話した。


「同盟、ですか。なるほど、確かに同盟を組めば他の参加者より有利になれそうですね」


その言葉の後、部屋の中から白銀のロングヘアを揺らすお嬢様気質のビーナスが姿を現した。


良かった、バカで。扉越しに水星はニヒルな笑みを浮かべた。


あとは簡単だった。


部屋に入った後、作戦通り、海王星は水星の話を聞く金星を隙を見て絞殺した。


これで海王星には7000Pが入ることになる。金星が水も食料も買っていなかったのはラッキーだった。


ベットに倒れる、目の光が消えた金星を見ながら海王星は呟く。


「俺が、殺ったのか……うっ!」


今日一日何も食べていないのに胃から逆流してきた胃酸、海王星は慌てて口を塞いで堪える。そして水を飲みたい衝動に駆られる。


「は……はは。何を動揺してる、この殺しはスタートに過ぎない……」


海王星にそう言うが一番動揺しているのは水星自身だった。


ゲームスタート前から余裕ぶって、まるでこんなデスゲーム屁でもないとでも言うかのような態度をとって、自分はそこらの参加者とは違うと考えた。


しかし、そんな主人公気取りをしても、ただの凡人は主人公になることはできない。





時は少し戻り、20時10分。


食事を終えたムーンが部屋に戻ると、そこには何時間ぶりに見たアースの姿があった。


アースはベットに座り、腕を組んで何かを考えていた。


「あれ?アースどこ行ってたの?」


大体12時間もの間何をしていたのか、何気なく聞いたムーンの質問にアースは耳を疑う返答をした。


火星(マース)を殺してた」


「あぁマース殺してたんだ〜…………え?なんて?」


「二度も同じことを聞くな。マースを殺した」


アースはマースを殺したらしい。証拠はあった。部屋にある操作パネルを見ると、所有ポイントが15500になっていた。


元のポイント10000+火星のポイント7000-使用ポイント1500。


それを確認したムーンはゆっくりと後ろを振り返る。


相変わらず何かを考えている、人を殺した人間を見て、ムーンは恐怖に震えることも、 部屋を出ることも無く────


「そっかぁ、殺ったんだぁ、はは、はははは!」


ムーンは嬉しそうに笑い声を出した。


さすがにそれにはアースも反応し、困惑している目つきでムーンのことを見る。


「どうしたお前、サイコパスなのか?」


「いやー、まさか殺してたとは思わなかったですよぉ」


「なぜいきなり敬語……」


「アースさん!」


ムーンは勢いよく迫りアースの手を握る。


「どうしたいきなり、安心しろ、確かにお前のことは邪魔だと思っているが殺しはしない」


「いえそういうことではなくてですね、私、感動してるんです。あなたが()()()()()()()()()()。こんなにあっさり人を殺せるなんて、私、アースさんに一生ついてきますっ!」


涙を流しながらそんなことを言うムーンに、さすがにアースも困惑し、無理矢理手を振り払う。


しかし、なるほど。こういう反応をされるとは思っていなかった。


アースはどうせこいつはビビって俺に近寄らなくなると思っていた。しかし、ムーンはアースの行動を絶賛した。


ゲームマスターが言った通り、殺された人間のポイントは殺した者に入る。つまりアースは二人の生存達成に大きく貢献した。一人の命を犠牲にしてだが。


「……勝手にしろ、俺も勝手に行動するから……おい、近寄ってくるな」


まるで恋人かのようにムーンは座っているアースに迫ってくる。


「なんなんだいきなり、そんなことしなくても殺さないと言っているだろう?」


「いえ、単純に私はアースさんに惚れたんです。本当に、どんな事でもするのでどうか拒絶しないでほしいです」


─────気持ち悪い。そうアースは思った。


アースには性格上、友達、いや知り合いとすら呼べる者もいなかった。アースは自分のことを神に近い存在だと考えている。人間と関わるなど言語道断。


「そうか……だったら明日辺りネプチューンでも殺してこい。俺の言うことなら聞くんだろ?」


「承知致しましたアースさん。明日、ネプチューンを殺してきます」


にっこにっこでムーンは返事をする。それを聞いたアースはそっぽを向くようにして布団を被った。もちろんどうせ殺さないだろうと思っていた。


──── 一日目。死亡した参加者は金星(ビーナス)火星(マース)。部屋は二つ繰り上げられる。つまり、明日は誰も死なないということだ。


だがしかし、明日死ななくとも明後日までには誰かが死ぬ。そして最終日までに多くの人間が死ぬ。


このデスゲームから抜け出すことは出来ない。





《二日目》


水星 0P -3000

金星〘絞殺〙

地球 15,500P +7000-1500

火星〘絞殺〙

木星 5000P -1000

土星 4000P -1000

天王星 1000P

海王星 6500P +7000-1500


10時47分。起きた。アースは今。


起きたのは11時前、デスゲーム中とは思えないほど充実した睡眠をしたらしい。しかし、これはアースにとってはいつも通りである。アースは日常的に起きるのが遅い。


ベットから体を起こすと部屋の中にはムーンがいた。まるでアースが起きるまで、ずっと待っていたかのように椅子に座っている。


「おはようございますアースさん」


「…………あぁ」


ちなみにベットは一つしかなく、先にアースがベットを占領したためムーンは床で寝た。しかし嫌がる様子は一ミリもなく、むしろアースにはベットで寝てほしいとすら思っていそうだった。室温はどこも快適に過ごせる温度を保っていたため、暑い寒いで苦しむことは無かった。


「お前、俺が起きるのを待っていたのか?」


「もちろんです!アースさんの寝顔をずっと見ていたくて」


えへへーと笑いながら言う。


「……ネプチューンは?殺ったのか?」


部屋に窓は無く太陽の光は全く見えない。アースは洗面台に向かい、水を流す。水が流れる、だったら水を買う必要は無いじゃないかと言いたくなりそうだが、ゲームマスター曰く、この水を一滴でも飲むと腹痛で三日三晩トイレから出れなくなるらしい。


「いえ、まだですが、殺ろうと思えばチャンスはいくらでもありますから、まぁ昼辺りに殺りますよ」


──殺すチャンスはいくらでもある、か。どこからそんな自信が湧いてくるんだ。相手は男だ、普通なら念入りに作戦を考えるだろう。


そんなことを考えながらアースは口を閉じて顔を洗う。


「そういえば昨日、ビーナスが死んだらしいですよ」


今日は天気がいいですねーとでも言うかのように緩い口調で他の参加者の死亡報告をする。


「その状況はどこから仕入れたんだ?」


「あぁそれは朝にゲームマスターから放送があったんですよ」


ムーン曰く、7時頃に放送がかかったらしい。


「そうか、誰が殺ったんだ?」


「それは分かりませんが、アースさんなら予想できるんじゃないんですか?」


「…………普通に考えればマーキュリーだろう。初日に死ぬはずだったのに生きてるんだからな」


だがマーキュリーが殺しをしたのは想定内だ。あいつは少しだけ他の参加者とは違う、とアースは思ってた。


「さて、ポイントには余裕あるし、今日は部屋に引きこもる」


ポイントに余裕があるというのは、ただ飲食に余裕があるだけでは無い。ポイントを交渉の材料に使えば、ゲームの主導権を握ることができる。


そのポイント節約のために、体力は温存した方がいいだろう。


「分かりました。じゃあ私はできるだけ他の参加者の情報集めてきますね〜アースさんの役に立ちたいので」


そう言うと、ムーンは陽気にスキップしながら扉に向かう。


アースの役に立つために情報を集める……何をするつもりなのかは分からないがアースのために動くというのなら勝手させておけばいいだろう。


「そうか、気をつけろよ」


興味の無い話に対しての相槌レベルで言ったのだが、その言葉に、ムーンは目を輝かせて返事をする。


「はい!」


まぁ死んでくれても別にいいのだが、なんてこともアースは考えていたが。





12時05分


部屋に引きこもりこれからの作戦を考えていたアースだが、突然、扉がノックされた。


「はい。開いてますよ」


「どうもこんにちは。アースさん」


扉の前に立っていたのはマーキュリーだった。昨日より若干顔に血の気が無い気がするが。


互いに互いを心の片隅で気にしている二人だが、対話をするのは初めてだった。相手を伺うように二人は目を細める。


「で、何の用ですか」


「えぇ、先程、ネプチューンが死んでいるのが発見されましてね、アリバイ無いの、アースとムーンだけなんですよ」


なるほど、そのことか。ムーンめ、まさか本当に殺るとは、だが殺るなら俺に迷惑をかけずにやってほしい。そう思うアース。


「アリバイ……他の参加者には全員あるんですか?」


「えぇ、実はアースとムーン以外は全員互いの安全の為にずっと食堂にいたんですよ、だから他の参加者のアリバイは保証されています」


互いの安全なんて考えてもどうせいつかは死ぬと言うのに。全く無駄なことをしている。


「なので一旦食堂に来て貰えますか?」


アースは頷いてマーキュリーの後をついて行った。





「あ、アースさん!やっと部屋から出たんですね!」


本当の引きこもりが部屋から出たような感動をしながらムーンは言う。


しかし、そんなこと言われるとさすがのアースも聞き流すことは出来なかった。


「お前、ネプチューンを殺ったのは手柄だが詰めが甘い。殺るなら“バレずに殺れ“」


アースはトコトコ歩いてムーンから席を一つ開けたところに座る。反対側には水星、木星、土星、天王星が座っている。


昨日まではこんなデスゲームでも明るく振る舞っていた人がいたというのに、たった一日でそんな空気感も無くなった。


…………


水星はまだしも、木土天(もくどってん)の三人の口数は少ない。食堂には二人の話し声だけが響く。


「そんなこと言われても私とアースさん以外ずっと食堂にいるんですよ、死体も処分できないし、バレないのは無理ですよー」


「やれ、まぁいい。それで?俺を食堂に呼んでどうする?今話した通りネプチューンを殺ったのはムーンだ。俺は無実だ」


自分は無実と訴えるアースを、マーキュリーはキョトンとした目で見る。


「アースさん、殺人って指示した人も罪に問われるんですよ」


そんな常識をアースが知らないわけが無い。マーキュリーは思う。


──はっ、そんなおふざけをする余裕もあるってか?舐めやがって、神様気取り痛い奴が、今に見てろよ、泣きじゃくって俺に縋ってくる姿を全員に見せてやるよ。


だがしかし、マーキュリーにアースを負かせる作戦は無かった。心でそう決心、いや、打ち負かした後のアースの事を想像するだけで、実際には何もすることはできない。マーキュリーはそんな主人公気取りをしているだけだった。


────結構。アースとムーンは部屋に入れられ監視されることになった。


12時25分


二人づつ交代で、しかし、この監視に意味は無い。なぜなら部屋は自由に開けることもできるし、仮に攻撃してきてもそれを制圧できる力がないからだ。


「さて、監視されることになったが、まぁ問題無い。どうせ部屋に居ようとしてたからな」


「でも食事することできませんよね……そろそろお腹空きません?」


最後に食べ物を口にしたのは一昨日か。流石にそろそろ食べるか、と考える。


「今夜は食べてくるか」


「そうですね、ぜひ、食べてきてください。美味しかったですよここの料理」


ここ(デスゲーム会場)。


食べてきてください、つまり、自分は食べには行かないということだが、アースはチラッとムーンの事を見て呟く。


「お前も来い」


まさかそんなこと言われるとは思っていなかったのか、ムーンは驚いた表情でアースを見る。


「ほ、本当にいいんですか?」


表情にも言葉にも出ていないが、実はアースの中でムーンの評価は上がっていた。正直、まさか本当にネプチューンを殺すとは微塵も思っていなかった。


だからこそ、こいつは以外と使えるのではないかと、そう思い始めた。ならば食事くらい一緒に食べてもいいだろう。


「あぁ、もちろんだ」


「あ、あ、ありがとうございます!」


そんなに嬉しかったのか、ムーンは涙を流した。そしてアースに抱きつこうとする。


「あー近寄るな、俺はお前の友達でも恋人でも無い。ただの駒だ。それを理解しろ」


「駒でも奴隷でもアースさんの近くにいられるのならばなんでもいいです!」


──こいつ、一体なぜこんなに俺の下僕になりたいのか、全く分からない。


何か企んでいる気がする、そんなことを考えながらアースはまたもや思考に耽る。





23時17分


ほぼ一日中この狭いとも広いとも言えない部屋で過ごしたアースだが、数時間ぶりに部屋から出た。


監視すると言っていたが、部屋の外には誰もいなかった。時間も時間だ。零時までに自分の部屋にいなければその時点で死ぬことになる。


だからこそ、こんな時間に部屋を出たのだが。


夕食は昨日と同じように豪華なものだった。ただ、こんな時間に食べるには重すぎるが。


しかし、ムーンは心底楽しそうに食べていた。


そんな姿を見て、アースは思う。


今まで、神に最も近い存在の俺を受け入れようとした人は誰もいなかった。


いつからだったか、俺が神に近い存在になったのは。


家族はそんな俺を嫌悪して、先生はそれをやめろと言い、友達だった奴らは俺から離れていった。


しかし、それは当たり前だ。神と人間が対等な関係を築ける訳が無いのだから。離れていくのは当然。俺はそれを神に近い存在になった証と捉えた。決して代償などでは無い。


なのに、コイツは俺に近づいて来る。コイツは違うのか。普通の人間では無いのか。


それともやはり黒幕だからか……


そんなことを考えながら、アースは一日ぶりに食べ物を口にした。

ご精読ありがとうございました。

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