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白日夢  作者: 優奏
1/1

~夢の中の君へ~

 國松春馬は大学の講義が行われる教室で、必死にメモを取る学生にまぎれ頭を下げ、ペンを持ったまま眠っている。時間は午後2時を回ったところだ。

春馬はある夢を見るようになってから、日中強い眠気に襲われるようになった。

意識を失うかのように眠りに落ち、時間にして5分で目を覚ます。

周りから見たら異様な光景だ。

きっかけなんかなかった、、

 

 いつものように退屈な大学の講義が続く木曜の3限のこと。

退屈な授業に耐えかねて、春馬は居眠りをした。

それはいつもと少し変わった夢だった。

眠りに落ちたはずなのに、まるで現実と変わらないような錯覚を覚えた。

数秒の暗闇の後、視界が開け、自分は細い路地を歩いている。

自分が現実と変わらない國松春馬なのか、そうでないなにものかなのかは分からない。

ただ細い道を歩いているのだ。

やがて、左手に草が生い茂る空き地、右手に大きな図書館が見えてくる。

自分は立ち止まり、その位置から見える図書館の読書スペースをじっと見つめる。

誰かを探しているようだ。それが誰なのか自分には分からないけれど、20代くらいの女性、自分は必ずそこにその人が現れることを分かりきったかのように立ち尽くしている。

けれど、どんなに待ってもその人は現れない。

そこで夢が終わる。


 目が覚めるとそこは、大学の講義室で、まだ授業が行われている。

そこで先程みた映像が夢だったと気づいた。

体感、30分は経っていたはずなのに、実際は時計の針がたった5分ほど進んでいただけだった。

この夢を見た日を境に、春馬は眠りにつくたびに同じ夢を見た。

夢の中の自分はただひたすらにある女の人を待っているのだ。

そして目を覚ますと時計の針が5分しか進まない。

春馬は不眠症になった。

その夢のせいで眠ることが出来なくなってしまったのだ。

まるで誰かの記憶を盗み見ているような映像が目を閉じると浮かんでくる。

初めは気にしてなどいなかったが、夢に興味が湧いてきた。

それと同時に知ってはいけないという気持ちに駆られた。

春馬は連日5分という睡眠時間の中大学に通っていた。

仲の良い親友の青井は春馬の顔色がまるで生気を抜き取られているかのように日に日に青白くなっていくことに焦りと心配を覚えた。

「なぁ、春馬、お前病院行った方がいいんじゃないか」

青井が、春馬に話しかける。

春馬はぼーっとどこかに意識を飛ばしている。

まるで目を開けたまま眠っているようだ。

同じ学部の顔見知りの学生も皆春馬を心配そうに見ながら横を通っていく。

春馬と高校から仲の良いひょうきん物の神崎が春馬の前にきて、大きなもの音を立てる。

「おい、春馬、戻ってこい」

春馬は大きな物音でさえびくともしない。

神崎が心配そうに春馬の肩に触れる。

春馬が身震いをし、意識がはっきりする。

「あぁ、悪い、」

明らかに様子のおかしい春馬を皆腫物を触るかのような目で見る。

「なぁ、お前死んでるみたいだぞ、病院行ってこい」

「そうか?」

「なにかあるなら…いえよ…な」

「あぁ、うん…」

いつもおちゃらけた神崎でさえも冗談を言えない様子になっていた。

春馬は、夢のことを誰にも言うことが出来ず、また周囲の視線がきにならないほどあの夢にとりつかれるようになってしまったのだ。


 あの夢を見るようになってから3週間が経ったある日のこと。

とうとう春馬はバイト中に倒れ救急車で病院に運ばれた。

春馬は意識を失っているかのような青白い顔で誰もが命の危機を感じたが当人はただ深い、深い眠りについているだけ。

病院のベットの上、点滴のチューブに繋がれたまま眠れる森の美女のように春馬は病院に運ばれた日から一週間眠続けた。


ー4週間前、春馬が倒れた日ー

青白い顔をしながら働く春馬に心配そうに同僚が声をかける。

「なぁ、國松帰った方がいいんじゃないか」

「いや、大丈夫です、ただ寝れないだけなんで」

同僚の白井に声をかけられてもなお、平気でふるまう春馬。

けれど、たまたまその日シフトが早上がりになり、早めに帰れると分かったとたん春馬は倒れた。

耳元では倒れた春馬を取り囲む慌てた同僚や店長の声が聞こえる。

「おい、大丈夫か」

「救急車!」

「大丈夫ですからね、まず平たいとこに」

「國松死ぬなよ」

意識がうつろになりだんだん視界が黒くなっていく。

『俺、しぬのかな』

ふと心の中でつぶやく。

視界が真っ黒になり数分、気が付いたらあの夢の中にいた。

いつもと同じようにあの映像が流れ、自分は図書館にくるはずのある女の人を待ち続ける。

次第に日が暮れる。

『あぁ、またいつもと同じか』

そう思った時夢の続きが始まった。

女の人が来ないことにショックを受け、とぼとぼと来た道を戻る。

歩きながら、女の人と過ごした日々を回想し、まるで失恋したかのような感情が沸き上がる。

夢はそこまでで終わり、また目の前が暗闇に包まれた。


 目が覚めるとそこは病院のベッドの上、春馬は少し安堵感を覚えた。

『またこっちの世界に戻って来られた』

と。

目を覚ましてからも春馬は夢の中のようなふわふわした状態が続き、何をしても現実ではないような日々を送った。

何個か検査を受け、数日後退院となった。


退院当日、青井が来るまで家まで送ってくれることになった。

「ありがとな、青井」

荷物を車に運んでくれている青井に礼を言い、青井の車に乗り込む。

「気にすんな」

運転席に乗り込む青井。

少しの間沈黙になり、青井が話し出す。

「なぁ、一週間も目覚まさなかったんだぞ、春馬。病院では問題ないって言われたみたいだけど本当に大丈夫なのか」

青井は心配そうに春馬を見るが、春馬はまたどこかに意識を飛ばしてるかのような表情でただまっすぐを見据える。

「そっかぁ、俺わかんないんだ」

「なにが?」

「うーん、まだ夢の中にいる気がする」

車が信号につかまり止まり、青井が深いため息をつく。

「なぁ、海行かない?風感じるだけでも気、晴れそうじゃん?」

春馬、少し明るい表情になる。

「行きたい」


車をしばらく走らせていると、春馬はまた眠りについていた。

もうあの夢の繰り返しではなく、続きからになっていた。

入院中にみたあの夢の続き。


自分は悲しい、何か大切なものを失ったという感情を抱えたまま、路地を抜ける。

路地を出ると大きい道路があり、向かいに崖が見える。

道路を渡り、崖に向かうとそこには青井がいる。

自分は夢の中で初めて言葉を発する。

「おぅ、お待たせ」

自分の方に振り返る青井。

「おおー、こっちこいよー、下、綺麗な海が見える」

なぜか顔のひきつった顔の青井。

様子を伺いつつ言われた岩場に立つ。

「あぁ、本当だ」

綺麗な海を見て気持ちが少し晴れていく。

けれど、目には涙が溜まっていく。

「なぁ、お前なんだろ」

海を眺め親友に問う自分。

真をつかれたかのような表情をする親友、何も言葉を発さない。

「何で、俺の大切なひとを奪ったんだよ」

教えてほしいと懇願する自分。

親友の足音が真後ろに移動する。

「ごめん」

焦りを感じ振り返ると親友がナイフを自分に突き付けていた。

勢いよくよけると足を滑らし尻もちをつく。

危うく崖から落ちそうになり、自分を殺そうとしているはずの青井が手を差し伸べてくれているのを掴む。

そこで夢が終わる。


「あ、起きたか」

目を覚ますとそこはまだ車の中、運転している青井。

「ごめん、寝てた」

目をこすり、外に目をやると左手に夢で見た崖が見える。

春馬は恐怖に怯え固まる。

「そこの崖、絶景スポットらしいよ」

青井が車を近くの駐車場に止める。

「降りれたら降りるか?無理そうならなんか買ってくる。」

春馬、青井の言葉が耳に入って来ない。

無意識に車を降りる。

「だいじょうぶか、そこで何か買ってくるから待ってて」

青井が売店に向かう。

なぜか今までふわふわしていた現実からはっきりした。

とっさに後ろを振り向くとあの夢で見た路地がある。

春馬は吐き気を覚え駐車場にしゃがみ込んだ。

だんだん意識がはっきりしてくる。


そこで青井が戻ってくる。

「おい、大丈夫か。ごめんこんな遠くまで連れてきて」

会話もままならない春馬。

「い、いや」

言葉が出にくいままに立ち上がり、崖の方に指をさす。

青井、春馬を支えながら崖へ向かう。

さっき夢で見た場所と同じ場所。

春馬の脳にフラッシュバックする。

夢なのかげんじつなのか分からない映像が流れる。

自分は親友の真後ろにいて、軽く両手で背中を押す。

現実に戻ると春馬は車の中にいた。

どうやら倒れたらしい。


「帰ろうか」

そういう青井の表情がどうしても春馬には見えない。

春馬は現実と夢の境目を見失い、恐怖のあまり意識を失う。


気が付くと、自分の部屋にいた。

時刻は午後6時。

ふと、伏せられた写真立てが目に入る。

写真立てをおこすとそこには夢の中で探していた女性と親しげに映る春馬。

状況が整理できず、膝から崩れ落ちる春馬。

ふと鏡に目をやると自分の手と顔に砂が付いていることに気が付く。

洗面所にいって手を洗い始めると、ある感触が指に戻ってくる。

それはあの崖で人を突き落とした感覚。

春馬は過呼吸になる。

タイミングよく玄関のインターホンが鳴る。

体を引きずり、出る。

「は、い…だれ、ですか?」

スーツを着た二人の男が立っている。

「足立署の者です、少しよろしいでしょうか」

警察手帳を見せられる。

春馬はおそるおそるドアを開ける。

「なんですか…」

「私、足立署の相良と言います。國松さんでよろしいですか」

「はい…」

「早速ですが青井さんという方をご存じですか」

「青井…、駆ですか。」

「そうです。ご友人だとお伺いしたもので」

春馬の顔が青白くなる

「はい。そうですが…」

「実は先日から行方が分かっておらず、ご家族の方から捜索願が出されているんですよね、青井さんについてなにかご存じないですか?」

春馬は自分の手を見つめる。

「知らないです…。仲はいいですけど俺ら干渉しあわないので」

動揺をごまかす。

相良という警察官が写真を取り出す。

「この女性ご存じですよね」

春馬は膝から崩れ落ちる。

「國松さん、ご気分でも悪いですか」

春馬は玄関にしゃがみこみうつろな表情になる。

「あ…、あ…」

言葉が上手く出てこない。

「この女性、新村椎菜さん、この方も一カ月前から行方が分かっていないんです」

春馬はどこか一点を見つめ耳だけ刑事の話に耳を傾ける。

「何かご存じないですか」

春馬ふらふらになりながら立ち上がる。

「椎菜…、」

意識はどこか別の場所に向いているよう。

春馬、玄関の鏡にふらつく。

「國松さん?」

警官に支えられる春馬。

「あの…刑事さん俺…」

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