第3話
「あ゛ぁぁぁぁー!!!!」
叫び声で寝ていた意識が覚醒する……、前に肩をガクガク揺らされ、目を開ける。
「んー……、どったのー……?」
「あわあわあわ!!じかじかかが!!!」
「おーい日本語しゃべれー」
何やらアワアワしてる青倉は握っていたスマホを向け画面を見せてくる。
「じ、時間!!」
時間を見ると14:30。
あと15分で5限目が終わってしまう。
10分後に起こしてとは言ったが、さてはお前も寝てたな?
「1時間も寝たのか。ん〜っ!スッキリ!!」
「言ってる場合!?アタシ達サボり扱いになっちゃうのよ!?」
「サボり扱いっていうかサボりだろ。まぁこうなったもんはしゃーなし。ほれ行くぞ」
喋りながら身支度を済ませた俺は、青倉に立つよう促す。青倉はまだ困惑しているのか、問いかけてきた。
「はぁ?行くってどこに?まさか今から授業に出るつもり?叱られてるのは目に見えてるでしょ」
「あぁ、叱られんのは目に見える。だから作りに行くんだよ」
「なにを?」
「なにってそりゃ、アリバイ?」
屋上から校舎内に入り、できるだけ音を立てないように扉を締め、ポケットをまさぐる。
あれ?ない……。
「青倉、ヘアピン持ってる?」
「……?いまこれしか無いけど……はい」
そう言って青倉はこめかみ辺りに着いていた2本のヘアピンのうち、1本を手渡してくる。
「おう、ありがと……(パクっ)」
「っ!!なにしてんの!?ばかっ!!」
───────ドスっ!!
「うぐっ……!!」
貰ったヘアピンを躊躇いなく口に入れると、顔を赤くした青倉に鳩尾を殴られた。
「おいバカ、何か言うことあるでしょ」
「塩味の効いた、素晴らしい逸品でした」
──────ドスっ!!
また殴られた。
全く、いいパンチを持ってやがるぜ……。
「……と、こんな茶番やってる場合じゃないや」
歯で先端を曲げたヘアピンを鍵穴に差し込む。
これで、カチャ、カチャ、ガチャン。よし締まった。
青倉を見ると唖然とした顔で俺を見てた。
「なに?今の」
「ピッキングだよ。ここいつも鍵閉まってるし開けてたら問題になるかもだろ?」
「問題になる自覚があるなら行かなきゃいいのに……」
「数少ない憩いの場なんだ。来る人もほとんど居ないしな」
ふーんと興味の無さそうな青倉と共に階段を降りる。ここから先は静かにしないとバレてしまうため、私語厳禁だ。
2人して、足音すら立てないように授業中の教室を避けながら歩く。
少し歩いたら落ち着いてきたのか、青倉がコソコソ話で話しかけてくる。
「ねぇ先輩」
「なんじゃらほい?」
「よくよく考えたらさ、こうなってるのってアタシのせいじゃね?」
「よくよく考えなくても分かるだろ、バカ者めが……」
おい青倉よ。自分で言っといてなぜ頬を膨らませる?お前のせいじゃないとでも言って欲しかったんか?あいにく俺はそんなに甘くない。
「あ、ワキ…っ!脇腹つままないで……っ!!イテテテ!!無言で!脇腹を!つままないで!!」
「先輩、不甲斐ない後輩でごめんよ(シクシク)。ただ起こすだけが出来ない、出来の悪い後輩でごめんよ(脇腹ギリリリリ……!)」
「アダダダダ!!私も悪うござんした!!色々あったのはお互い様!私だけ寝ようとして本当に悪うござんしたぁ!!」
「だよね?」
青倉は、つまんでいた手を離し二パッと笑う。
このアマ、いつか絶対ひでー目に合わせてやる。
そうこうしているうちに、目的の場所に着いた。
「みおちゃんセンセー!来ちゃった☆!!」
「あら〜深戸君、またお寝坊〜?保健室はサボるための場所では無いのよ〜?」
「まぁまぁ、そんなこと言わないでさぁ……、はいこれいつものね」
俺はスーパーで買ってきた惣菜や菓子パンを机の上に置く。
「ありがと〜、私に出来ることならなんでもしちゃうわ〜!!」
みおちゃん先生は本当に嬉しそうに俺からの支援物資を自分のカバンに詰めていく。
1人状況が飲み込めていない、青倉だけがポカンとしていた。
「え、な、なにこれ」
「あぁ、みおちゃん先生はな、ソシャゲの重課金プレイヤーでありながら競馬、競輪、競艇、色んなギャンブルに精通しているすごい人なのだ!だから万年金欠なのだ!!と、言うわけでたまに餌付けして言うこと聞いてもらってる」
「なのだ!!じゃないわ!!食費無くなるレベルってどんだけゲーム廃人でギャンブラーなわけ!?」
「ごめんねぇ〜、本当は食べるものぐらいは自分で買いたいのだけれど〜、お酒を買うと食費が〜」
「しかも酒クズかよ!!なんで学校で働いてるの!?」
「そんなの若い公務員の男を捕まえるために決まってるじゃな〜い。あぁ、あとなかなか有望に育ちそうな男子に唾つけとくため〜?」
「もうだめだよ!この学校!!腐敗してるわ!腐ってる!!」
「「確かに(ウンウン)」」
「あんたらが言うんじゃない!!」
プンスカする青倉をまぁまぁとみおちゃん先生がなだめる。その間に真っ白な保健室利用名簿にササッと名前を書いて……、
「ほい、みおちゃん先生。いつも通り頭痛で寝てたことにしててね」
「うん!わかったよ〜……って言いたいところだけど〜……」
みおちゃん先生が言い淀む。
おかしい。いつもはお菓子やご飯を上げればある程度のことは快諾してくれていたのに。
なにか、なにかとてつもなく悪い予感がする。緊張から吹き出した汗が頬を伝う。
「ね、ねぇみおちゃん先生?ま、まさかとは思うけど今日って先客とかいたりした?名簿書いた時まっさらだったからつい、俺たちだけだと思ってたけど……カーテンも閉まってるし寝てる人もいるよね?これだけ騒いでなんだけど……、迷惑になるとイケナイから帰ろかな……」
みおちゃん先生は何も言わずして、目を横に動かす。心做しか、首からギギギと音がしたような気がした。
「み、みおちゃん先生?」
「……やぁ問題児。保健室に来るなんて体調でも悪いのか?ん?生徒の健康管理も担任の役目だ。ほれ、私が見てやろう」
後ろから声をかけられ背筋が伸びる。
「す、涼森先生ぇ……?こんなところで何してはるんですか?」
「うーむ、それがなここ最近、うちの生徒がなよく保健室に世話になってるらしいんだ。担任としても心配で心配でなぁ……、たった今、元気そうなのを見て安心したところだよ」
「そ、それは良かったデスネー……。カーテンの裏に隠れてたのは?」
「保健室に世話になってる生徒というのが問題児だからだ」
「oh......涼森先生も大変なんですね……」
「なんだ深戸。私の心配なんてしてくれるのか。でもな──────」
冷や汗が1滴……、床に落ちる。
「自分の心配をした方がいいと思うぞ?」
「みおちゃん先生!騙したな!?」
「騙してなんかないわよ〜。ただ……」
「ただ?」
「涼森先生が作ってくれた弁当が美味しくってぇ〜」
「なんだよ!!買収されてたのかよ!!」
この女!!既に餌付けされてる後だったとは!!
だが、情に訴えかければ……
そうだ、俺達には割と長い間、持ちつ持たれつの関係でやってきたじゃないか!!その絆があれば……
「みおちゃん先生!思い出してくれ!俺との絆を!!俺がみおちゃん先生の生命線だったことを忘れたのか!?」
「深戸君、惣菜とか菓子パンしかくれないも〜ん」
「んなっ!?」
「はん、恨むんならろくに手料理も作れない自分を恨むんだな」
「ちくしょう!!卑怯だぞ!あんたらそれでも教師かよ!!汚ねーぞ!大人がよぉ!!」
「はっはっは、卑怯汚いは負け犬の言い訳だ」
「そんなんだからいい年こいて独身なんだ!!」
「なんてこと言うんだ!お前は!!私が結婚出来ないのは周りが私と言うダイヤの原石を見つけてくれないからで……」
「はいはい、ダイヤも磨かなきゃその辺の石ころとなんざ変わりありませんからね。最も涼森先生は磨いたところで厚めの化粧が落ちてシワがドブヘェ!!」
涼森先生に無言で殴られた……、
体罰だ……
助けを求めるためにみおちゃん先生にアイコンタクトを送るが、首を横に振られた。
どうやら救いようもない程、今回は俺が悪いらしい。
しょうがないから諦めてお縄に着くことにした。
「ったく、お前は……、授業はサボるわ、課題の提出は遅れるわ、今日はとことん絞ってやるから覚悟しとくんだな。っとそういやもう1人、女子生徒がいたはずだが……」
そういえば、涼森先生が出てきてから空気だった青倉がいつの間にかいなくなってる。
「さぁ、そんな子いたかしらねぇ〜」
そう言いながらみおちゃん先生はポケットに何か隠した。恐らく青倉はお菓子かなんかで買収して逃げおおせたのだろう。
あヤツめ、なかなかやりおる。
涼森先生も舌打ちはするものの諦めたようだ。ま、かなり大物のサボり魔を検挙したのだから十分手柄は立てただろう。
不機嫌な涼森先生に引っ張られ、俺は生活指導室へと連行されたのだった。
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「これに懲りたらサボったりせず、真面目に勉学に励むんだな」
「あいあいさー」
「返事はハイだろうが、ったく……、本当に反省してるんだか。電車ももうすぐだろうし、寄り道せずにさっさと家に帰れよー。次の電車に乗らなかったら深夜徘徊で生徒指導な」
時計を見ると時間は8時前、確かにこのまま電車に乗っても9時ギリギリでそれを過ぎると補導対象だ。
まぁ、俺はあんまり電車とかは関係ないのだが。
あのまま生活指導室に拉致され、涼森先生の監視の下コッテリ反省文を十数枚書き上げた俺は、クタクタになりながら筆記用具とかを片付ける。
どうやら涼森先生はとっとと俺を追っ払いたいらしい。どーせさっさと帰って酒でも飲みたいのだろう。全く可愛い教え子をなんだと思ってるんだ。
「うぃー、失礼しやした。じゃ、さいならー」
「おう、気をつけて帰れよ」
軽く挨拶を交わし、生活指導室を後にする。
こんな時間ではあるが、部活終わりであろう生徒達もチラホラ見受けられる。
真面目に部活に励むのも、それはまた1つの青春って感じでいいよね。特にスポーツ後の女子のポニテがたまらん。柊がジムに入り浸るのも理解出来る気がする。
生活指導室のドアを閉め、薄暗い廊下を歩きだす。
と、暗い廊下に目立つ金髪が壁にもたれかかって立っていた。
つーかアレ青倉じゃん。
こんなとこで何してるんだ。
「久々のシャバの空気じゃ……世の中変わったのぉ」
ヤクザの出所の真似事をしながら近づく。
「よ、先輩。お勤めご苦労様」
そう言いながら青倉は手に持った炭酸飲料を手渡してきた。
案外ノリの良い奴なのかもしれない。
だけど、それはそれとしてだ。
「こんな時間に何してんの?」
「ん?先輩を待ってた」
「それまたなんでさ?」
「いやー、先輩を生贄に私だけ説教なしだったからねー、悪いことしたなって。それにしても女の子をこんな時間まで待たせるなんて最低ね」
そう言いながら青倉は笑う。
最低って、お前が勝手に待ってただけだろ。
と、言いそうになったが、ジュースに免じてとやかくは言わないでおいてやろう。
どーもMomijiです!
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次話は明日の17時投稿予定です!!