第2話
土曜日から2日経ち憂鬱な月曜日。
何とか午前中の授業もこなし屋上塔屋で1人、菓子パンを頬張る。
九月とは言えどもまだまだ日差しは強い。
たまに吹く涼しい風が早めの秋を知らせてくれる。
校庭を見ると体育委員の柊がせっせと体育祭の準備をしている。重いものでも大抵1人で運べるらしく、大変重宝されているらしい。
総悟は図書館委員で本の貸出とかやってるらしい。エアコンも効いてるし飲食禁止じゃなければ行くのだが、あの場所じゃ昼ごはんが食えないので行かない。
「はぁ、暇だなぁ」
漫画とか見て暇を潰していると、
────ピロリン────
スマホが通知音を鳴らす。
見てみると思わぬヤツからLINEが来ていた。
『話がある。2人きりで話したい。』
この間ばったり遭遇して以来の彼女、片桐香織からだった。
「あー……、もうブロックされていたもんかと……」
思ってたんだがなぁ……
スマホを操作し返信を返す。
『今、屋上、1人。用事あるなら来れば。』
『わかった』
返事を確認した俺はスマホをポケットにしまい塔屋から降りる。
一体何を言われるのだろう。あれは勘違いだ、とか1番は俺だとか言われるのだろうか。もしそうなったらこの先、彼女のことを好きでいられるだろうか。
なんて思いは一瞬にして砕け散った。
「好きな人が出来たの別れましょ」
全く想定していなかった訳ではない。
が、実際に言われてみると胸が痛くなる。
「……そうか。まぁ、好きな人が出来たならシャーないわな」
「意外と淡白なのね。もっとごねられるかと思ってたわ」
淡白ね……
こちとら男のかっこ悪い姿を見せないのに必死なだけだ。浮気された上に振られて喚くのも哀れだしな。
「どうせ止めても行くんだろ?言い合いになっても体力と精神力の無駄遣いだからな。この前、手繋いでたのも不問にしてやる」
「さぁ?そんなの覚えてないわ?」
この女、いけしゃあしゃあと……
握った拳に力が籠るが息を吐いてフェンスにもたれかかる。
「ま、これで5年間の付き合いも終いだな。これからは無関係だからな。目に見えないとこで幸せになるなり不幸になるなり好きにしてくれ」
「言われなくてもそうするわ。じゃさよなら」
香織が屋上から出ていくのを見届け、コンクリートの上に腰を下ろす。
やけにしょっぱいメロンパンをかじり、自分が泣いていることに気付く。
制服で目元を擦り、メロンパンも思い出も飲み込んだ。それでも寂しく感じるのは雲ひとつない青空のせいだろう。
3角座りのまま顔を伏せ、時間が過ぎるのを待つ。
────ガチャ
屋上のドアが開く。
しまった、香織が出てった後に鍵を締めるのを忘れてた。
まぁいっか、顔を伏せた変なやつが居れば気まずくなって出ていってくれるかもしれない。
俺は寝たふりを続けることにした。
しばらくすると、恐る恐るといった感じで声をかけられる。
「あのー、大丈夫ですか?もしかして体調悪い?」
まさか話しかけられるとは思っていなかった。
内心めんどくさいと思いつつ、顔を上げる。
「げ、ナンパ男!!」
「うわ!冷徹女!!」
そこには、先日ナンパし返り討ちにあった冷徹女が目を腫らして立っていた。
だが、この前のような覇気は感じられない。
「……体調、悪そうだけど大丈夫?なんなら保健室の先生呼んでくるけど」
なんなら心配してくれる始末である。
「いや、大丈夫……大丈夫だ。精神的に凹んでるけど体調は悪くない」
「そ、ならいいけど……」
そう言って冷徹女は少し離れたところに腰を下ろす。
「…………」
「…………」
お互い無言の時間が続き少し気まづくなったので向こうを伺う。
ボーっと空を見上げ心ここにあらずみたいな感じだ。
に、しても美人だよなぁ……、ただ空を見ているだけだが絵になるというか……。海外の絵であんな感じのがあったはずだ、名前は忘れたけど。
視線に気付いたのか、視線だけこっちによこす。
「……何よ?」
「あぁ、いや。今日はお友達さん達、いないんだなぁって……」
「悪い……?」
「いんや?ぜんぜん?」
じろりと睨まれ、俺は当たり障りのない回答をする。
「………………アンタこそ。残りの馬鹿2人は?」
「1人はグラウンドで体育祭の準備、もう1人は図書室で冷房に当てられてる」
「そ……」
冷徹女はそれだけ言うとまたそっぽを向き、再び沈黙の時間が流れる。
ただ、最後に発した彼女の言葉は少しだけ震えていて、不思議に思い見てみると唇を噛んで涙を流していた。
「うぉ……っ、大丈夫?」
「……うっさい……、こっち見んな馬鹿……、」
俺はカバンの中からタオルを1枚引っ張り出し、冷徹女に投げつける。
「間違えて2枚持ってきちゃったから、かしたげる」
「……気を使うな……、馬鹿……、グス……、タオル2枚持って来るとか……、どんだけ馬鹿なの……」
「なっ!!お前、せっかくの人様の好意を……!!
はぁ……まぁいいや……」
馬鹿だ馬鹿と罵られ、思うところもあったが泣いてる冷徹女を見て毒気が抜けてしまった。
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ひとしきり泣いて、スッキリしたのか冷徹女はもう元に戻っていた。
「…………チーン!!」
「おいてめぇ、人のタオルで何鼻噛んでんだ!?」
「はぁ?洗濯ひて返すんだかは、別にいいでしょ」
「……そういう問題か?てか別に返さなくてもいいよ、クラスも違うし」
「……わかった。ありがとね」
「驚いた。君、お礼とか言えたのね」
「失礼ね!アタシだってお礼ぐらい言えるわよ!!馬鹿にしないでよ!!」
だって初対面があれじゃ、ただの怖い人としか認識出来ないし。
俺の中じゃ今でも呼び名は冷徹女だ。
「つーかさ、そんな泣くほど何があったんだ?君、そんな泣くようなタイプに見えないんだけど」
「アンタには関係ないでしょ」
「関係ないけど、気になっただけだ。話したくないなら別にいい」
「……話してあげる……」
「いや、話すんかーい」
「そこ!真面目にきけ!!」
先生みたいなことをのたまう冷徹女。人に指を向けるんじゃない、失礼だろうが……、
そんなことはお構い無しに冷徹女は「実は」と話始めた。
────10分後、号泣していたのは俺だった。
「グスンスンスン……!ぞんなびどいはなじがあるがよぉぉ!!」
「な、なんでアンタがそんなに泣いてのよ!?あぁもうほら、泣きやみなさいよ……、日本語喋れなくなってるよ?」
そう泣き笑いのような困った顔で見てくるが、冷徹女よ、今は俺じゃなくて自分を労わってくれ。
彼氏に合わせて髪を染め、努力しながらギャルっぽい立ち振る舞いや服装をしていたのに……、今更やっぱり清楚な子がいいだとかいう理由で、この子の努力を踏みにじられた。
これのどこが、涙無しに聞けると言うのだろうか。
それとも俺も振られたばかりだから、感情移入が激しいだけなのか。
多少みっともないとは思うが、それでも涙が溢れてしまう。
「ははは、そんなに泣いて、馬鹿みたい……」
「ゔるぜー!!ゔぁーか!ゔぁーか!!早くじあわぜになってしまえ!!」
「泣き止むか、罵倒するのか、幸せ祈るか絞れし。てか、そんなに泣かれるとアタシも……また……泣けて来るんだけど……、」
そう言って再び泣き出す冷徹女。
はたから見たら異様だろうが、ここは屋上。誰も来るはずはなく、恋人に捨てられた俺たちは恥も外聞も捨て、スッキリするまで泣き尽くした。
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「あ゛ぁー、一生分泣いたわ。もう涙でねぇ」
「アタシもー……」
2人して涙を枯らし、涼しい風に身を任せながらパンをかじる。ちなみに冷徹女がかじってる菓子パンは俺があげたやつだ。
「ねぇ、アンタはなんで泣いてたの?」
「んー?それ言わなきゃダメかいの?」
「いーじゃん、一緒に泣いてくれたし、特別に聞いたげる」
冷徹女はそう言って微笑む。
もう、冷徹女っていうのも失礼か、今度から天使様とでも呼ぼうかな。
そう思いながら、質問に答える。
「いや、実はな。さっき彼女に振られまして……」
「……は?」
おぉっと?ここで冷徹女の再来か?
射殺すような目付きで睨んで来てますね。実況は俺、智昭でした。それではまた来世。
「アンタ彼女持ちだったの?」
「おう、そーだよ?文句あっか?」
「文句しかないわよ!!アタシのことナンパしたじゃん!!」
「ち、ちが……、あれは理由があってだな」
俺は先週、彼女がチャラ男と手を繋いでいたこと、LINEしても既読すらつかなかったことを掻い摘んで話す。さっき泣いたからか不思議ともう悲しい気持ちにはならない。
「だからな、こりゃ振られたかなーって思って」
「で、次の女を作るためにナンパをしたと?」
「いやー、そんなんじゃなくてだな、男友達とのノリみたいな?」
「ノリでナンパされる方の身にもなれっての」
冷徹女の拳が肩に入る。
だが、確かに悪いのは軽い気持ちでナンパした俺の方なので、素直に謝ることにした。
「すまなかったな」
「ん、名前」
「え?」
「名前教えてくれたら許したげる」
「深戸 智和、2‐Dだ。お前は?」
「個人じょーほーだからなぁー、どーしょっかなー……、どうしてもっ言うなら?」
「ま、この先会うこともそんなねーだろうからな。言いたくなきゃ言わんでもいいぞ」
「ドライだなぁ、1‐Aの青倉 泉。よろしく先輩」
「え、お前後輩だったんか!?」
「そーだよ?」
よく見るとブレザーの襟元で光る小さいバッチは黄色、1学年下の色だ。
つまり俺が先輩って訳で……
こいつは後輩な訳で……
「よぉ、青倉ぁ。焼きそばパンダッシュな」
「はぁ?」
「すみません!調子乗りましたぁ!!」
「ふっ……、ふはは……あははははははは!!!」
いきなり青倉が笑いだす。
泣いたり笑ったり忙しいやつだ。
「なに?怖いんだけど?」
「いや、先輩ってほんとノリと勢いだけで生きてんのね」
「おい?喧嘩か?喧嘩しよってのか?お嬢ちゃんよぉ、女だからって容赦しねーぜ?」
左右の手をシュッシュするも笑って受け流される。これじゃどっちが年上かも分からんな。
それにしても……、昼休み色々ありすぎて疲れた。
残り時間は……15分くらいか……。
「なぁ青倉、まだ屋上いる?」
「うん、なんで?」
「眠くなってきたから寝る。10分経ったら起こして」
「膝枕したげよっか?」
「いらない、おやすみ」
「うん、おやすみ〜」
俺はコンクリートに背をもたれて、目をつぶる。
睡魔はもうすぐそこまで来ていたらしく、秒で意識が無くなった。
どーもMomijiです。
しばらく小説書いてませんでしたが、リハビリも兼ねて久々に投稿してみることにしました。
他の作品も随時更新していく予定ですが、とりあえずはこの作品を連載していきたいです。
って言っても1章完結までは書いてるので数日は毎日投稿できるかな?と思います。
星評価やブクマを貰えればさらにやる気がでます。
よろしくお願いします。