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第1話

それは、ほんの偶然だった。

友人達とラノベの新刊を買い、満足して店を出た時にそれは起きた。


「あっ……」

「えっ……?」


向かいの大人なホテルからチャラそうな男と恋人繋ぎをして出てきた女と目が合う。

それは、5年もの間、いや現在進行形で付き合っているはずの自分彼女だった。


「なに?お知り合いさん?」


チャラ男がそう聞くと


「あ、いえ、知らない人でした」


彼女はそう言って首を振る。

チャラ男は「そ、じゃあ行こっか」といって彼女を引っ張って行く。


彼女は気まずそうにこっちを見たあと、何も無かった


かのように頬を染めて歩いていった。


確かに、最近、一緒に帰ってもどこか上の空だったし、たまにドタキャンされてたし……。


もしかしたらと思ってたがやっぱりそうだったのか……、


後ろで爆笑する友人達を背に、1人感傷に浸るのだった。


人が振られるのがそんなに嬉しいか、ちくしょう。

…………


「「智昭(ともあき)の失恋を慰めるの会!開催!!」」


俺の部屋でクラッカーの音がなり、火薬の匂いが充満する。


「うるせー!!俺はまだ認めた訳じゃねーぞ!!」

「ほう、まだ振られたことを認める訳には行かない智昭さんや、LINEの返事は帰ってきたのかね?」


俺の友達の1人、ヒョロがりメガネの総悟はそう聞いてくる。

俺は、スマホを開き通知を確認するが……、あるのは公式アカウントからのクーポンラインだけだった。


「まだ、まだ見てねーだけかもしれないだろ?」

「もう諦めろよ、多分ブロックされてるよ。だってあれからもう1時間も経ってるだろ?」


そう諭して来るのはガチムチ柊、暇さえあれば常にプロテインをシャカシャカしてる。

着いたアダ名は似非バーテンダーだ。


「第一!なんでお前ら俺が振られたのにそんなに嬉しそうなんだよ!!」


俺が振られたのに関わらずコイツらはショピングモールで大爆笑したり人の部屋でクラッカー鳴らしたり、やりたい放題、柊に関してはプロテインを2本分シャカシャカする始末だ。本当に腹が立つのでやめてもらいたい。


そんなに俺の心も知らずに2人は顔を見合わせニヤニヤしてる。


「だってなぁ」

「そうだよなぁ」

「「あんな美人と付き合えてたんだからその分、不幸になって当たり前だよなぁ」」


どうやら俺の失恋を慰める会はただの名目で慰めるつもりなどサラサラなかったようだ。人の不幸はなんとやらと言うがコイツらにとっては主食なのかもしれない。


「なぁ、もうでてってくれよ、変に気を使われるのも尺だが、こうも馬鹿にされるとイライラしかない」

「そんなこと言っていいの?僕、智昭が凹んでると思って妹でも紹介しようと思ってたのに。」

「出てけなんて言って申し訳ないです義兄さん、して、妻は式はどこで挙げたいとかって言ってましたかね?」

「ネジ切れんばかりの手のひら返しだな、クルックルじゃないか、ほんとに君振られたばかりのテンションか?それ」


いけない、俺としたことが振られたショックでつい本音がポロポロと出てしまう。


「まぁ、トモもまだ冷静になれてないだけだろうさ、こういう時にはプロテインでも飲んで心を落ち着けるんだ。あとは身体を動かすのも気分転換になるって聞くな」


そう言って柊はシャカシャカしてた片方のプロテインとジムの入会書を渡してくる。

正直に言うとどちらもいらない。バナナ味のプロテインなんて一般人からしたら不味いだけだ。(※智昭調べ。)

ジムの会員登録書をも筋肉仲間を増やしたいだけな気がする。

……この場で捨てるのも可哀想だから机の引き出しにしまっておこう。いずれ出てきた時に捨てればいいか。


そんなこんなでダラダラ3人で喋っていると総悟が切り出す。


「まぁさー、5年間も付き合ってただけになー、ショックだよなー」

「なんだよいきなり、気持ちわりーな」

「心配してやってんのにその言いようはひどくない?」


でもコイツらが俺の心配をするなんて滅多にない事だ、そりゃ気持ち悪くも思うだろう。


「まぁさ、ここで落ち込んでも時間の無駄って気もするだろ?だからな、こんなの作ってきたんだ」


そう言って総悟はカバンをゴゾゴゾ漁り、1冊のノートを取り出した。そのノートには付箋やらなんやら付いており作るのに時間が掛かったことは一目でわかった。


「そのノートは?」

「うん、僕と柊で作った『振られてからやりたい十のこと』ってノート、ほら、智昭って中学に入る前から佐藤さんと付き合ってただろ?だからこの3人で遊ぶ機会も少なくなって……

それで、智昭とやりたいことノートに書いてみたんだ、1人になった今なら存分にできると思って……」

「お前ら……」


照れくさそうに笑う総悟の気遣いに俺は、つい涙を流しそうになり、気づいた。


「俺、振られたのついさっきなんだけど?」

「「……」」

「こんなの1時間やそこらでできるノートじゃないよな?」

「「……♪♪〜」」


2人揃って明後日の方を向き口笛を吹く。柊については音すら出てないんだが。

てか、こんなもん持ち歩いて総悟も尚更タチが悪いだろ。


「本当にお前らいい性格してるよ。

まぁ、いいや総悟の言い分も正論っちゃ正論だしな、1人になった今なら好き勝手遊んでも文句言う女なんていねーし」

「自分で言って自分で傷ついてるよ、この人」

「うるせーよ、黙ってプロテイン混ぜてろ」


とりあえず今はこうやって馬鹿言える友人がいることが有難かったりするのは確かだ。

付き合っていた当時は彼女にかかりっきりだったってのも事実だし、何より今はなにかして気を紛らわしたかったりもする。


そう思った俺は振られたらやりたい十のこと、1ページ目を開いた。


振られたらやりたいことその1

ソー〇ランド


「おい、誰だこんな馬鹿みたいなノート書いたやつは」

「お、おいおい怒るなよ智昭」

「貴様だなクソメガネ、わざわざ振られた時に行くとこじゃねーだろ、俺にNTR属性はねーんだよ、勃つものも勃たんわ!!」

「だって彼女とかいたら尚更行けないだろ!?」

「馬鹿が、そもそも俺らまだ学生なんだよ!!」


総悟はまだ何か言いたそうだったが、学生の身分で行ける訳もないので、この話は終わりにしておいた。

ただし、数ページに渡り網羅されている〇ープランド情報は卒業後に使えるかも知れないので、ノートは俺が持っておくことに決めた。


気を取り直して、2つ目。


振られてからやりたいことその2

ジム


「「1人で行ってろ」」


「え……」


若干、可哀想だとは思うが俺は運動音痴だ。

筋トレなんかした次の日には、動けないことは確定だろう。


「っていうか、これお前らがやりたいこと書いただけのノートじゃねーかよ。別に3人揃わなくったってできるだろ」

「だってせっかく行くなら3人で行きたいだろ?風俗」

「うむ、みんなで筋肉鍛えたいじゃないか」

「どっちも却下だ」

「「えぇー……」」


不満そうな声を上げる2人を尻目に俺は次のページをめくる。



振られたらやりたいことその3


ナンパ



「これは、」

「僕が書いたやつだね」


挙手する総悟、


「ほんとにお前はこればっかだな、脳みそ頭じゃなくて玉袋にでも入ってんの?股間でしか物事考えられないの?」

「し、失礼だな!そんなこと無いよ!僕だってちゃんと考えてそれを書いてるんだ!」

「ほぉ?じゃあどんな風に考えればこれが出てくるんだ?言ってみろよ」


そう煽ると総悟は、ため息を付いて語り始めた。

その仕草にイラッとしつつも耳を傾ける


「いいかい?智昭、これは君のためを思って言ってるんだ」


とてもそうは思えないが、


「君は今振られたばかりで寂しさも多いだろう!じゃあ埋めてくれる存在が必要だ!!」


……ふむ、たしかに。


「そんでもって、智昭はモテる。今まで彼女がいるというだけで、何人の女子たちが諦めたことか。」


え……!?そうだったのか?実は俺はモテていた?


確かに、思い当たる節がないでもない。


いつも笑顔で挨拶してくれる三上さん。

好きなタイプは韓国系って聞いたこともあるが、日本も韓国も同じアジア人だ。俺のことが好きなのだろう。


この前、消しゴムを拾ってくれた深田さん。

好きな子以外の、落し物なんて拾うか?

俺のことが好きなのだろう。


あと、担任の涼森先生だろうか、彼女はやたらと理由をつけて職員室に俺を呼び出す。これはもう確定演出だろう。アラフォーではあるが、全く問題ない。余裕でストライク圏内だ。


「……グフフ……」


「おい、智昭が変な笑い方してるが、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。今、彼は妄想の世界に飛び立ってるんだ。そっとしといてやろう。ここで機嫌を崩されると、ナンパでこいつのおこぼれを貰う作戦がパーになる」

「おい、何か言ったか?」


妄想がなんだ、おこぼれ作戦だなんだと聞こえ、問い詰めるも「気のせいだろ」と受け流される。


「ッチ……、まぁいいや。で、いつ行くんだ?できれば土曜日がいいんだけど……」

「うん、賛成。僕も土曜日なら空いてるよ」

「俺もジムに行くのは土曜日だからな。土曜日なら行けるぞ」

「じゃ、土曜日に決定だね!明日は美容院に行ってー、それから服も買わなきゃ!それから〜〜」

「うむ、俺も土曜日までに身体を仕上げるか……、まずは大胸筋を中心に腹、太ももの順に〜〜」


完全に浮かれてる2人を見ながら物思いにふける。

コイツらは、なんだかんだで俺に気を使ってくれているのかもしれない。

1人だったら今頃、どんな暗い気持ちだったかも分からないが、コイツらのお陰で、何とか冷静を保っていられる部分もある。

感謝しなくちゃ、いけないな……。


「ぐへへっ……!可愛いあの娘とあんなこと、こんなこと……!」

「……一緒に……ジム……、汗で……、透けて……!」


コイツらに感謝しなくちゃいけないのかぁ……、

やだなぁ……。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□



すったもんだあって、ようやく土曜日。

俺たちは町のショッピングモールに来ていた。

流石、休日なだけあって人が多い。


「さぁ!智昭、どの子から行く?」

「ど、どの子から行くって言ったって……、出来れば年上のお姉さんとかがいい」

「ほぉ、じゃああの人は?」


総悟が指さしたのはニットワンピにショルダーバックを引っ掛けた、遊び慣れてる感じの人だ。


「おぉ……、いいんじゃない?早速声をかけて見るか」


俺は早くなる鼓動を抑えつつ、エッチなお姉さんに近づく。


「そこの綺麗なお姉さん!暇なら、俺とお茶でも行きません?」

「えー?、なになに?ナンパー?ちょうど私も暇だっ……た……え……?」

「……え?」


エッチなお姉さんは涼森先生だった。


「お、お前ら……、なにしてんの?ナンパ?」

「せ、先生こそ……何してるんですか、もしかしてナン…」

「断じて、ナンパ待ちとかじゃないぞ!!」

「……はぁ、そうですか」

「もうすぐ40にも関わらず、彼氏の1人もいないから出会いを求めてとかじゃ、全然ないからな!?」


聞いてもない言い訳をベラベラと垂れる我らが担任、涼森先生。

教師としてそれでいいのだろうか。

でもいいや。だって先生は俺の事が好きだから。

このままいけない恋とかしちゃったりして。


「じゃあ、もう先生でもいいや。俺と遊びません?」


「なんで休日まで、わざわざ問題児の面倒を見なきゃならん」


「あはは!先生ったら、ツンデレかな?」


「おい、なんでそうなる!?私にだって選ぶ権利ぐらいあるはずだろ?第1、私はお前みたいな手のかかるガキは好きじゃないんだが?」


「え……?先生が……、俺を……、好きじゃない…………、?あんなに……呼び出して置いて……?」


「な、何にショックを受けてるんだ?呼び出したのもお前がちゃんと、課題を出したりしていながらだろ。っておい!何泣いてるんだ!?わ、悪かったよ!手のかかるとか言って悪かった!!だから、な?そんな公衆の面前でうずくまって泣くんじゃないよ。あ、そうだ、これで美味いもん食え。ほら、樋口さんだぞー」


「あ、ども。あざっす」


俺は先生の手から5000円札を受け取ると、立ち上がる。


「は?え?お前、今、泣いてたじゃんね?え……?」


「先生……、俺の茶番に付き合って貰ってありがとうございました。あと、その格好で白のパンティって、意外と純情なんですね、ご馳走様でした。」


顔を赤くしてバッとスカートの裾を抑える先生。

いやー、やっぱ年上の色気って凄いね!


「まてぇクソガキー!!!」


俺は先生の咆哮を後に逃げるように、総悟達の元へ帰った。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□


「で、結局ナンパしたのは自分の担任であるアラフォー先生だったと。お前、熟女も行けるって守備範囲どーなってんの?」


「うるせー、熟女を悪く言うんじゃねえよ。悪いのは俺のストライク圏にいる先生だ」


暇を持て余した俺たちは、先生から貰った5000円で昼飯を食っていた。

男3人で飯を食べている訳で、もちろんナンパは全くもって成功してない。


「なぁ、総悟、柊よ。俺ってモテるんじゃなかったのか?」


「んー?あぁ、それ小6までの話だったわ。今全然そんな話聞かねーしな」


「うむ、最近まで美人な彼女いたから、実はまだモテるんじゃないかと思っていたが見当違いだったらしい。俺はもうナンパは諦めてる」


「はぁ!?てめぇら嘘つきやがったのか!?」


「嘘ではないだろ、小学生まではモテてたんだし」


「いや、待ってくれ、そういやまだ希望はある。深田さんとか毎朝、笑顔で挨拶してくれるし。この前は三上さんから消しゴム拾って貰ったんだぞ!?」


「「それはモテてるって言わない」」


どうやら、全部俺の勘違いだったようだ。


「それにその2人、彼氏持ちじゃんよ」


希望は完全に絶たれたわ。


「わーったよ。じゃあもう辞めにして遊ばねー?」


「そんなぁ!!僕の彼女はどーなるんだ?」


「知らねぇ!2次元にでも作っとけ!!」


「100人目は3次元でって決めてるんだよ!!」


「もう99人いるのかよ!?」


全く、よくそれで彼女だナンパだと胸を張れたもんだ。


「なぁ、柊、お前もジムで知り合った女の子の方が話も合うはずだし、そっちのがいいんじゃない?」


「俺は1から鍛えてやりたい派なんだ」


「もうお前はよく分からん。帰れ。っておい!!無言でプロテイン入れんな!!悪かったよ!帰れっつって悪かった!」


そもそもバカ2人を連れてナンパなんて出来る訳がなかったんだ。


「悪かったなバカで」


「うるさい、思考を読むな」


「なぁ、さっきも言ったが成功するかもわからんナンパより、普通に遊んだ方が有意義に過ごせるんじゃないか?」


「「……確かに…………」」


渋々納得してくれる2人。

やっと俺の切実な思いを分かってくれたか。


「「じゃああと1組いってみようか」」


「ほんっとお前ら諦めないのな!!じゃ!行ってくる!!」


こうなりゃヤケクソだ。

俺は1番最初に目についた3人組に声をかける。


「ねぇ、お姉さんたち今ひま?」


「はぁ?」


「ひぃ!?」


絶対零度の目だ。

3人のうち1番小さい娘だが、眼光は誰よりも鋭い。


「なに?なんぱ?」


「あ……、いえ……その」


「こんな昼間から、人の往来も多いこの場所でナンパですか?と聞いているんですが?」


グサッ(-1HP)


「そもそも、いい歳して知り合いでもない女子に声掛けようなんて頭おかしいんじゃありません?」


グサッグサッ(-2HP)


「ていうか私、彼氏いるんで。あなたのようなモテない人達と同じに見ないで貰えます?」


グサッグサッグサッ(-3HP)


────KO────


バタン……

完膚なきまでに言葉の暴力でボコボコにされた俺は、何も言い返せずその場にへたり込む。


「……キュー…」


「じゃ、そういう事だから、消えてください」


そう言い残すと、冷徹女は取り巻き2人を連れて歩いていってしまった。


こうして、週末の大事な1日をナンパに費やした挙句、成功しないまま男3人悲しく帰路に着いたのだった。


ちくしょう。

どーも、Momijiです。

5時頃にもう1話投稿します。

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