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やりたいことはたくさんで

今回から第2章です(n*´ω`*n)

日刊ランキングジャンル別4位、総合5位ありがとうございます♡

 それから、瞬く間に時間が過ぎた。


 エヴァリストはエルヴェシウス侯爵家に速攻で求婚の手紙を送ってきたらしい。それは執事から聞いたことであり、ジゼルが知ったのはエヴァリストに偽装婚約を取り付けてから三日後のことだった。


 マリーズ曰く、両親は求婚を受けるかどうか相当悩んでいたらしい。エヴァリストからの求婚を無下にすることは出来ない。かといって、受け入れてしまえばジゼルを王太子妃にするという企みは消え失せる。そういう意味での葛藤だったそうだ。


 結果的に、両親はエヴァリストの求婚を受け入れることにしたそうだ。


『ジゼル。エヴァリスト殿下はバティスト殿下には劣るが、王位継承権がある。彼の心を何としてでもつなぎとめるのだぞ』


 両親にそう言われたとき、ジゼルは心の中でガッツポーズをしてしまった。もちろん、両親の前では大人しい人形のままである。


 いつかはこの両親の魔の手からも逃れたいと思っている。しかし、今はそのときではない。


(そうよ。お父様やお母様から逃げるのは、まだ先でいい。剣術や魔法、それに商売を学んでからではないと、生きていけないわ)


 エヴァリストと婚約をしたと言っても、彼と将来を共にするつもりはこれっぽっちもない。だって、これは『偽装』婚約なのだから。時が経てば、遠慮なく解消する婚約なのだ。彼に頼り切るのは、いささか問題がある。


「それにしても、お嬢様」

「なぁに、マリーズ?」

「……いえ、エヴァリスト殿下からのお呼び出し、何でしょうね」


 ジゼルの髪の毛を整えながら、マリーズが苦笑を浮かべてそう問いかけてくる。


 そのため、ジゼルは「さぁ?」ととぼけた。


 とぼけたとはいっても、エヴァリストの考えはジゼルにはこれっぽっちもわからない。


(剣術や魔法、商売の教師を探してほしいとはお願いしたけれど、そんな早く見つかるようなものでもないし……)


 こんなこと、両親にお願いするわけにはいかない。そう思いエヴァリストに頼んだのだが、彼は快く引き受けてくれた。少しのためらいも、彼は見せなかった。正直なところ、少しくらい躊躇われるかと思ったのに。


「けれど、エヴァリスト殿下の婚約者になった以上、バティスト殿下の婚約者になる道は潰えたわ。……きっと、これで大丈夫」


 もちろん、完全に大丈夫だとは言い切れない。けれど、きっとバティストはかの伯爵令嬢を婚約者に選び、愛をはぐくむのだろう。


 その間、自分は剣術や魔法、さらには商売を学ぶ。両親の魔の手から解き放たれて、自由に生きるためにそれは必要なことなのだ。


 そう思いつつ目の前の鏡を見つめれば、そこには美しい令嬢がいた。茶色の髪はきれいに編み込まれており、真っ赤なリボンがあしらわれている。ドレスは橙色のものであり、ジゼルの魅力を存分に引き出していた。


「お嬢様、とてもよくお似合いですねぇ」


 マリーズがころころと笑ってそう言ってくれる。……思えば、ジゼルのことを手放しでほめてくれたのはマリーズくらいだった。ほかの人間は、下心から褒める。もしくは貶してくるばかりだったから。


(やっぱり、マリーズのことは絶対に守らなくちゃならないわ)


 ぎゅっと手のひらを握りしめて、ジゼルはそう決意を固める。


 その後、ジゼルはマリーズの方に振り返り、にっこりと笑う。最近では固まっていた表情筋も少しずつ滑らかに動き始めるようになった。マリーズは、それを喜んでくれたほどだ。


「では、行きましょうか」


 口元を緩めて、マリーズにそう声をかけた。すると、彼女は目を細めて首を縦に振ってくれる。


 マリーズを連れ、部屋を出る。エルヴェシウス侯爵家の屋敷は、その権力を存分に見せつけるかのように煌びやかで、広い。正直なところ使われていない部屋も多いので、もう少し屋敷を圧縮した方が良いとジゼルは思っていた。が、両親にそんなことを言えば「バカをいうな」と叱責されるのは目に見えている。なので、言ったことはない。


 すたすたと歩いていれば、使用人たちが深々と頭を下げてくる。この家の使用人たちは主である侯爵夫妻を恐れている。金と権力にしか興味のない彼らにとって、使用人たちは道具以下の存在なのだ。


(彼らの再就職先も、あっせんした方が良いのかしら?)


 ジゼルがここを出て行くとき。望んだ者には新しい就職先をあてがった方が良いのかもしれない。


 心の中でそう思いつつ、ジゼルは玄関に向かって歩き続ける。そのときだった。


「ジゼル」


 後ろから、名前を呼ばれた。この声に、ジゼルは聞き覚えがある。いや、聞き覚えしかない。


 恐る恐る振り返れば、そこにはジゼルの母であるエルヴェシウス侯爵夫人が立っていた。


 彼女は笑顔の仮面を貼り付けながら、ジゼルを見つめてくる。……その目には、絶対零度のオーラが宿っている。


「どちらに、向かわれるの?」

本日余裕があれば夜にもう一話更新したいと思っております。


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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