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退屈させないで(エヴァリスト視点)

 ◇


 エヴァリストは一言で言えば大層な女性嫌いである。


 理由など単純明快であり、鬱陶しいから。以上。


 そんなエヴァリストから見たジゼル・エルヴェシウス侯爵令嬢はいわばきれいなお人形だった。


 自分の意思を全く出さず、両親の言いなり。いつも何かに耐えているような。そんな表情を浮かべる彼女のことを、エヴァリストは遠目から認識していた。


 抱いた感情は好意でも嫌悪でもなく、憐れみ。彼女は両親にとって自分が道具だということを受け入れつつ、それをしっかりと果たそうとしている。いわば、健気な娘だと思ったのだ。


 しかし、結局はそれだけだ。それ以上の感情など、抱かなかったというのに……。


『私のことを、思う存分利用してくださいませ』


 そう言った彼女には、途方もない魅力があるような気がした。


 しっかりとした目。はっきりとした言葉。彼女ならば、自分を楽しませてくれるかもしれない。そんな感情を、抱いてしまった。


 女性に対してエヴァリストがそう思ったのは、生まれて初めての経験だった。


(……ジゼル・エルヴェシウス、か)


 そもそも、彼女はエヴァリストから見て甥であるバティストの婚約者候補の筆頭だ。そんな彼女が自分と偽装婚約をする。……なんと面白い話だろうか。


(兄上も、どんな顔をするだろうか。エルヴェシウス侯爵家の娘と俺の婚約。……きっと、嫌がるに違いない)


 エヴァリストは一言で言えば兄が嫌いである。息子をバカみたいに甘やかす姿も、エヴァリストのことを見下すような態度も。強いものに媚びへつらい、弱者は見下すその姿も。


 バティストは、いわばそんな兄の被害者だと言える。その所為なのだろうか。エヴァリストはバティストには同情的だった。


(まぁ、ジゼル嬢の言うとおりになったら、それはそれで面白いかもだけれど)


 ジゼルはエヴァリストのことを本来は優しい人だと言った。でも、それは間違いなのだ。


 エヴァリストは自身の本質を知っている。自分が優しい人間ではないということを。……気に入った人間以外には、優しくしないということを。


 そんなことを考えていれば、不意にエヴァリストの後ろから「殿下」という声が聞こえてきた。そのため、そちらに視線を向ける。

 すると、そこには美しい一人の男性が立っていた。


「……どうしたんだ、ギオ?」


 彼の名前を呼べば、その男性――ギオの眉間にしわが寄る。彼はエヴァリストに対して深々と礼をした後、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。


「いや、盗み聞きは悪いと思っていました。ですが、どうしても聞こえてしまって……」


 ギオの態度を見るに、彼はエヴァリストとジゼルの話を聞いていたらしい。それを悟りつつ、エヴァリストはくすっと声を上げて笑った。


「つまり、ジゼル嬢は俺には似合わない、と言いたいんだ」

「……簡潔にまとめれば、そうなります」


 エヴァリストとギオの付き合いは長い。ギオは伯爵令息でありながらも、エヴァリストの従者を務めている。昔は学友として。今は主従として。一番エヴァリストの近くにいるのがギオなのだ。


「どうして、殿下はあの女の提案を呑んだのですか。……言っては何ですが、殿下に失礼すぎます」


 彼は多少なりとも思い込みの強い部分がある。その所為で、視野が狭い。ついでに言えば、勘違いされやすい。


「あんな風に軽々しく殿下に……」

「ギオ」


 少しだけ肩をすくめて、エヴァリストはギオを嗜めた。そうすれば、ギオの目が大きく見開かれる。


「俺はね、自分のメリットにならないことは一つもしないよ。……ただ、俺のメリットになる。そう思ったから、ジゼル嬢の提案を受け入れたんだ」

「……それ、は」

「それとも、ギオは俺の判断を間違っていると、決めつけるのか?」


 意地の悪い問い方だとわかっていた。けれど、何故か不思議と――ジゼルのことは悪く言ってほしくないのだ。


 エヴァリストの目を見て、ギオはゆるゆると首を横に振っていた。……納得はしていないようだが、理解はしてくれたらしい。


「まぁ、俺の判断が正しいかは、いずれ分かるさ。……今は、分からなくてもいい」

「……はい」

「……それに、さ」


 ――多分、彼女は俺の退屈を紛らわせてくれる存在になると、思うんだ。


 ギオの目をまっすぐに見つめてそう言うと、彼は少しだけ悔しそうな表情を浮かべていた。


「……俺、は」

「なに」

「……やっぱり、認められませんから。ジゼル・エルヴェシウス様のことを……認めませんから」


 それだけを言って、ギオは早足で場を立ち去った。


(全く、ギオも悪い奴じゃないんだけれどね。思い込みが激しくて、突っ走りやすいだけだ。……さぁて、俺はジゼル嬢の望むことでも叶えようかな)


 利害の一致。利用し合うだけの関係。ならば、その関係を存分に楽しませてもらおう。


 エヴァリストは、そう思っているのだ。


(まずは……剣術と魔法学の教師探し。その後は、都合のよさそうな商人でも探そう)


 ジゼルは言った。学びたいと。その真意が何であれ、エヴァリストは努力をする人は応援したいタイプだったりするのだ。

日刊ランキング10位ありがとうございます……!(n*´ω`*n)

今回で第1章が終わりました。次回から第2章に入ります(まぁ、ストック切れちゃったんですけれどね……はは)


毎日2話更新で今後も頑張って行こうと思いますので、どうぞ引き続きよろしくお願いいたします……! 自転車操業頑張ります!

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