表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/59

私のことも、利用してください

 彼の態度は当然のことである。王太子の婚約者に選ばれたくないから、王弟と偽装婚約をする。


 それはなんと自分勝手なことであり、相手のことを考えていないと思われても仕方がないのだ。


 けれど、今のジゼルにはそれしかない。


「……それで、俺が納得するとでも?」


 その後、エヴァリストは表情を整えて、そう問いかけてくる。


 確かに、今の提案だとジゼルにしかメリットがない。エヴァリストには、これっぽっちもメリットがない。もしも彼が王族ではなかったら、エルヴェシウス侯爵家とのつながりを持てるという縁が出来る。しかし、彼は王族だ。エルヴェシウス侯爵家とのつながりなど、特に欲していない。


 が、ジゼルは知っている。彼が『一番欲しい』であろうものを。


「もちろん、これでは私にしかメリットがありません。……なので、エヴァリスト殿下にもしっかりとしたメリットを用意します」

「……そっか」

「私のことを、思う存分利用してくださいませ」


 もう一度胸に手を当て、ジゼルはそう言い切った。


「エヴァリスト殿下は、女性がお嫌いだとお伺いしました。ならば、私のようなかりそめの婚約者がいれば、女性避けになるとは思いませんか?」


 一度目の時間軸のとき。彼は「防波堤になるような婚約者でも作ろうかな」と笑いながら言っていたのだ。


 今こそ、それを利用するべきときではないだろうか?


 ジゼルの言葉を聞いて、エヴァリストが口ごもる。その様子に、ジゼルは手ごたえを感じた。


「私は腐ってもエルヴェシウス侯爵家の娘です。私を蹴落としてエヴァリスト殿下の婚約者に収まろうとする不届き者は、滅多に現れないでしょう」


 今まで自分の家のことを疎ましく思ってきた。だが、こういうときにこの身分は便利だと思う。交渉材料に使えるのだから。


「まぁ、それもそうか。けれど、ジゼル嬢は良いのか?」

「……何を、でしょうか?」

「俺は二十九だ。ジゼル嬢とは十二も年が離れている。こんな男を婚約者として、悲しくないのかと問うているんだ」


 そう言ったエヴァリストの目は、真剣だ。……やっぱり、彼はとても優しい。


 それを再認識し、ジゼルはにっこりと笑った。その笑みは、とても美しいもの。人形だとは思えないような心の底からの笑みだった。


「構いません。……それに、私は知っております」

「……何を」

「エヴァリスト殿下は、本来はとてもお優しいお方だということを、です」


 誰もが見て見ぬふりをする中、エヴァリストはジゼルのことを気にかけてくれた。冷たい目で見つめられ、両親に責められ続けたあの日々の中で、エヴァリストの気にかけがどれだけ嬉しかったか。それを知るものは、ジゼルしかいない。


「……ふぅん」


 彼が、目を細める。それから、ジゼルのことを吟味するように見つめてきた。頭の先からつま先までを見つめられ、心臓がどきどきと音を立てる。ぎゅっと手のひらを握って彼の回答を待っていれば、エヴァリストはおもむろに噴き出した。


「ははっ。……そこまで言われたら、仕方がないな。偽装婚約、しようか」


 そして、彼が少し意地の悪そうな笑みを浮かべてそう言ってくれる。


「……本当、ですか?」

「あぁ。こっちにもそれ相応のメリットを用意してもらっているし、何よりも甥が愚かな罪を犯さずに済むのならば、万々歳だ」


 肩をすくめて、エヴァリストがそう言った。


 なので、ジゼルはぱぁっと表情を明るくした。その表情を見たためか、エヴァリストが目をぱちぱちと瞬かせていた。


「それにしても、噂と全然違う人だな」


 ジゼルの笑みを見た後、エヴァリストがそう声をかけてくる。


「噂では、まるで人形のような令嬢だと聞いていたが……」


 ――案外、噂とはあてにならないものみたいだな。


 エヴァリストがそう続けたので、ジゼルは苦笑を浮かべることしか出来なかった。


(実際、その噂は真実なのよね……)


 ジゼルは今まで感情を押し殺してきた。それが、最善だと思ったから。


 しかし、それは間違いだった。感情を殺して生きてきて。あの結末を引き寄せてしまった。


 ならば、ジゼルがすることはたった一つだ。今度は全く違う生き方をする、ということ。


「あの、出来れば、もう一つお願いがあるのですが……」


 ゆっくりとジゼルがそう声を上げる。すると、エヴァリストは頬を緩めた。


「いいよ。……俺に叶えられることならば」


 どうやら、彼は偽装の婚約者にはある程度甘くなってくれる人種らしい。それをありがたく思いつつ、ジゼルはまた口を開く。


「私、いろいろとやってみたいことがあるのです。そう、例えば――」


 ――剣術、魔法学、それから商売などなど、いろいろなことに挑戦したいと思っております。


 そう言ったジゼルの表情は、まさしく満面の笑みだっただろう。

本日お昼の日刊ランキングで17位になっておりました!(n*´ω`*n)誠にありがとうございます……!

次回で多分第1章は終わりです(本当に多分ね)


ざまぁはもう少し後になりますが、どうぞよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ