表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/59

合わない考え

また時間が空いてしまいました(´;ω;`)ウッ…

いつも更新しようとはするんです。ただ、寝落ちするんです……言い訳ですね、はい。

 ジゼルの父、エルヴェシウス侯爵が帰宅したのは、夕食の時間の少し前だった。


 執事から帰宅の知らせを受け、ジゼルはすぐに身なりを整えた。……父のことだ。絶対に、ジゼルのことを呼び出すだろうから。


 その予想は当たり、十五分後くらいに執事がジゼルの元を再度訪ねてくる。


「旦那様が、お嬢様をお呼びでございます」


 長年このエルヴェシウス侯爵家に仕えてくれている執事は、表情一つ崩さずにそう言い切った。


 彼は仕事熱心な人だ。それゆえに自分にも他人にも厳しく、冷淡な男性という印象を与えてくる。


 それでも、実際はとても温かい人だとジゼルは知っていた。


「えぇ、すぐに行くわ」


 それだけの返事をして、執事に業務に戻るようにと言っておく。


(……彼はもう年だし、新しい就職先よりも退職金を多めにするほうがいいかもしれないわ)


 彼がもうそろそろ引退を考えているのは、ジゼルも知っている。というか、今から二年ほどが経った頃。彼は隠居を理由に引退するのだ。なんでも、脚の悪い妻と避暑地に移住し、老後の生活をゆったりと過ごすとか、なんとか……。


(彼にも、お世話になったわね)


 彼は幼少期のジゼルが食事を抜かれたりした際に、こっそりとパンなどを差し入れてくれた。一度ではなく、何度も、何度も……。


 成長するにつれ、徐々に関係は希薄になったものの、彼への感謝は忘れたことなどなくて。


 だから、彼にも幸せになってもらいたいと願う。


「よし、行きましょう」


 鏡で自身の姿を最終チェックして、ジゼルは部屋を出て行った。


 マリーズには、父が帰宅した知らせを受けて、休憩に向かってもらった。


 今からの父の行動によって、今後のジゼルが取る行動は変わる。マリーズには、疲れを持ち越さないようにと一旦休んでもらうことにしたのだ。


 しばらく歩いて、父の執務室の前に立つ。


 何度か深呼吸をして、胸の前に手を当てる。どくどくと駆け足になる心臓に気が付いて、自分が緊張していることに否応なしに気が付かされた。


(でも、いつまでもこうしてはいられないわ。……行くわよ)


 自分自身にそう言い聞かせて、ジゼルは重厚な扉をノックする。しばらくして、入室の許可が耳に入る。


 なので、ジゼルは扉を開けた。


「失礼いたします。ジゼルです」


 頭を下げて、定型文の挨拶を口にする。


「あぁ、ジゼル。……少し、そこに座りなさい」

「……はい」


 父に言われるがまま、ソファーに腰を下ろす。少し俯いて、膝の上で手を握る。それから顔を上げれば、父の顔が見える。


 なんの感情も宿していないような、無表情だった。


「一つ言っておくが、私もナデージュも。お前の幸せを誰よりも願っている。それは、わかるな?」


 そんなもの、嘘っぱちだ。


 目の前にいる父は、いとも簡単に偽物の言葉を紡ぐような人物である。


 それを理解しつつも、ジゼルは頷いた。ここは、頷いておいたほうがずっといいと知っているから。


「お前の幸せは、王太子妃になることだ。そしていずれは王妃になり、この国の国母となるのだ」


 父の語るのは、所詮は机上の空論だ。ジゼルが王太子妃に、王妃に。――国母になることなど、未来永劫ない。


 ジゼルはそう言い切れるのだから。


「そういうわけだ、ジゼル。……お前は、エヴァリスト殿下との婚約関係を解消し、バティスト殿下と婚約しなさい」


 ――やっぱり、来たか。


 心の中だけでそう呟いて、ジゼルは眉間にしわを寄せた。


「……返事を、しなさい」


 その態度を見た父が、低い声でそう指示する。けれど、ジゼルは返事をしなかった。


 しびれを切らしたかのように、父が目の前のテーブルをバンっとたたいた。


「ジゼル!」

「――嫌でございます」


 再度返事を促され、ジゼルは顔を上げて、はっきりとそう言った。


 瞬間、父の表情が崩れた。先ほどまでの何処か余裕を漂わせる無表情から、驚きに染まった表情に変わる。


「私は、エヴァリスト様との婚約関係は解消しません。そして、バティスト殿下とは婚約しません」


 ここで流されてしまえば、全てが終わる。また、あの結末を迎える羽目に陥る。


(――ここが、分岐点なの!)


 じっと強い目力で、父を見つめた。


「私は、エヴァリスト様を好いております。彼以外の人と、添い遂げる未来は考えられません」


 自分の意思を、しっかりと伝える。怯むことなく。恐れることなく。


 そうだ。自分の気持ちを伝えるのに、恐れることなんて必要ない。


 それを教えてくれたのは、間違いなくエヴァリストなのだから。


「お前は、なにを」

「私は私自身の幸せのために生きていきます。合わせ、私の幸せは――自分で、決めます」


 両親の言いなりになるのが幸せだと信じていた。だが、やっぱりそれは違うのだ。


 自分の幸せは自分で決めて、自分の幸せは貪欲に手を伸ばしてつかみ取るべきだ。


「ですから、私は誰がなんと言おうと、エヴァリスト様との関係を続行させていただきます」


 はっきりと言い切った。目の前の父が、わなわなとこぶしを震わせている。俯いている所為で、表情は見えない。


「お話はこれだけでしょうか? では、私は失礼――」


 そう言って立ち上がろうとしたときだった。不意に、ジゼルの足が動かなくなる。


(……な、に?)


 自分の意思とは関係なく、動かなくなった足。


 恐る恐る、そちらに視線を落とした。……足首には、赤い鎖のようなものが絡みついている。


「……ジゼル。お前の意思など、必要ない」


 父がそう言うとほぼ同時に、鎖がジゼルの身体を上っていった。


 逃れようと身をよじっても、逃れられない。徐々に身体の自由が奪われていく。


「お、とう、さま……?」

「お前の価値など、バティスト殿下の妃になる以外、あるわけがないだろう!」


 絡みついてくる鎖。しまいには立てなくなって、その場に倒れこむ。


「さて、とりあえず――」


 父がなにかを呟いている。


 意識をそちらに集中させようとするものの、どんどん意識が遠のいていく。


(……これ、多分、魔道具――)


 けれど、人を拘束する類の魔道具なんてエルヴェシウス侯爵家の力を使っても、そう簡単に手に入れられるようなものではないだろうに――。


 そう思うとほぼ同時に、ジゼルは意識を手放していた。

そういえば、本日コンテストに出すための新連載を始めました。


【転生王女ジェーンは運命に従わない~絶体絶命から始まる、奪還ライフ~】

というものです。作者ページから飛べますので、よろしければどうぞ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ