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求婚

「……エヴァリスト、さま?」


 恐る恐る、彼の名前を呼ぶ。エヴァリストはギャスパルの手がジゼルに触れそうになっていることを見つめながら、「はぁ」とため息をついた。そして、こちらに歩いてくる。


「……ギャスパル。言っておくが、ジゼルは俺の婚約者だ」

「承知、しておりますよ」


 ギャスパルがニコニコと笑って、エヴァリストに応対する。けれど、エヴァリストの表情は何処か焦っている。


 ……多分、なにかがあったのだ。それを、察した。


「エヴァリスト様。……なにか、ありましたでしょうか?」


 エヴァリストに顔を向けて、そう問いかける。すると、彼はジゼルの隣に腰を下ろす。その後、ソファーの背もたれに背を預けた。彼のこういう姿は、大層珍しい。


「割と、面倒なことになったかもしれない」

「と、いいますと?」


 なんだか心臓がどくどくと嫌な音を立てている。でも、それには気が付かないふりをして、エヴァリストの言葉を待った。


 彼は、腕を組む。……なんだか、煮え切らない態度だ。


「俺は、個人で諜報部隊を持っている」

「……え、えぇっと」


 しかし、どうしていきなりそんな話が飛ぶのだろうか。話の転換が急すぎる。


「それで、実のところこっそりといろいろと探らせていたんだけれど……」

「……はい」

「――先ほど、ギオから連絡があった。諜報部隊が手に入れた情報だ。心して聞いてほしい」


 ……その言葉に、ジゼルは自然と息を呑む。エヴァリストのことだ。質の悪い冗談は言わない。


「――バティストが、ジゼルに求婚の手紙を送った」


 エヴァリストの言葉の意味を、すぐには飲み込めなかった。ただ目をぱちぱちとさせる。周囲の空気が、シーンと静まり返った。


(え、え? ちょっと待って、意味が、わからないわ……)


 そもそも、自分はエヴァリストの婚約者だ。バティストが求婚する意味も理由も、それこそ権利さえないはずで。


 だから、安心していたのに。……崖から突き飛ばされたような気分だった。


「ある程度の接触はしてくるだろうと、予想はしていたよ。……でも、まさかこんなことをするなんてね」


 彼が何処となく呆れたような声音で、そう零した。……ジゼルの背中に、嫌な汗が伝う。


(バティスト殿下が、私に求婚。ということは、お父様やお母様は――?)


 どういう判断を、取るのだろうか? いや、違う。そんなの、わかっている。彼らの行動なんて、もう予想済みだ。


 そう思って、自然と手のひらをぎゅっと膝の上で握った。


「……エヴァリスト、さま」

「……うん」

「どう、すれば……」


 わなわなと唇が震えているのがわかる。もう、藁にも縋る思いでエヴァリストに声をかけた。彼は何も言わずに足を組んだ。


「どうもこうもないよね。……ジゼルと俺のたくらみは、失敗したっていうこと」


 彼がはっきりと、そう言葉にする。


「偽装婚約ごときであきらめるわけがなかったってことだよ」


 淡々と、エヴァリストが言葉を続ける。なんの感情もこもっていない声だと思った。……無性に、苦しい。


(だけど、どうしてバティスト殿下が私に求婚されるの……?)


 そう思ったとき、不意にマリーズの言葉が頭の中をよぎった。マリーズは言っていた。バティストはジゼルにただならぬ感情を抱いていると。


「……さて、ここからが本題だ。ジゼル」


 ふと、エヴァリストがこちらに視線を向けてくる。その目の鋭さに、なんともいえない恐ろしさを抱いてしまう。


 ……心臓が、どくんと音を立てた。


「これから、どうする?」


 はっきりとなんのためらいもなく告げられた言葉だった。


 ――これから、どうする?


 それは、どう受け取ればいいのだろうか。もう、この関係を終わらせてしまえということなのか――。


「俺は、ジゼルの意見を尊重する。もしも、この関係を続行するのならば、俺は反対しない。かといって、エルヴェシウス侯爵夫妻がどうするかは……未知数だ」

「……未知数、なんかじゃないです」


 そうだ。未知数なんかじゃない。だって、あの二人ならば――。


「お父様もお母様も、きっと私にバティスト殿下を選べと命じてこられます」

「そう」

「それは、目に見えるようにわかるのです」


 だって、彼らの野望がジゼルを王太子妃に据えることである以上、これ以上に絶好のチャンスはない。


「……じゃあ、ジゼルはどうする?」


 畳みかけるように、そう問いかけられた。……どうする? それは。


(どうするって、問いかけられても……)


 自由に生きたい。そう思っていたのに、いざこんな選択肢を突きつけられると、すぐに答えが出てこない。


 ぎゅっと唇を結んで、俯く。……どうすればいい。


(このままこの関係を続けると言えば、エヴァリスト様にご迷惑をかけてしまう。……それは、避けたい)


 ならば、この関係を解消すると告げたほうが、彼のためにはなる。


 そう思うのに、口がその言葉を発することを拒否した。


「……質問を、変えようか」

「え」

「――損得勘定なしで考えろ。……ジゼルという女性は、今、どうしたい?」

次はあんまりお待たせすることなく更新したい……ですね。


また、本日新連載を始めております~! 作者ページの代表作に設定しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします……! 久々の大長編です。


タイトルは『婚約破棄された前世有能女魔術師は、契約結婚したのでぐーたらしながら研究したい。』というものです。

どうぞ、新作も「あないな」も今後ともよろしくお願いいたします!

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