ぐちゃぐちゃ、めちゃくちゃ
昨日間に合わなかったので、今日更新しております(o_ _)o))
そんなジゼルの思考は、マリーズにしっかりと伝わったらしい。
彼女は観念したように首をゆるゆると横に振る。
「なんと言いますか、バティスト殿下は……」
「……殿下は?」
「お嬢様に、ただならぬ感情を抱いているように、思えるのです」
マリーズがジゼルの目を見てはっきりと言ってくる。
そんな彼女の目が、不安からなのか揺れていた。
「なんというか、愛情とも、嫌悪感とも言えないような。すべてがぐちゃぐちゃで、めちゃくちゃで。人間の醜い感情を混ぜ合わせてごった煮にすれば、あんな感情が生まれるのかと。そう思えるほどの、歪な感情です」
「……そう」
マリーズの言っていることは、わかるようでわからない。
だから、ジゼルは目を伏せる。
(バティスト殿下が私にただならぬ感情を抱いているのは、ある程度察しつつあったわ。……多分、普通の嫌悪じゃないのよね)
そうじゃなければ、彼はジゼルを手に入れるなんて言わないはずだ。エヴァリストとジゼルの仲を、引き裂こうとはしないはずだ。
「申し訳ございません。こんな、抽象的もいいところな言葉で……」
「いえ、いいのよ」
少し申し訳なさそうにするマリーズにそれだけを告げて、ジゼルはもう一度歩き出す。
周囲を注意深く見渡して、バティストと鉢合わせないようにと気を付ける。
(……エヴァリスト様にお会いするのに、どうして私はバティスト殿下のことばかり考えているのかしら?)
なんだか、それってとっても歪じゃないだろうか?
そう思って、ジゼルは足を踏み出していく。
そして、しばらく歩いた先。エヴァリストに指定された部屋の前。ジゼルは、一旦深呼吸をして扉をノックする。
「……どうぞ」
しばらくして、エヴァリストの声が返ってきた。そのため、ジゼルはそっと部屋の扉を開けた。
「ジゼルです」
部屋の扉を開けて深々と一礼をして、そう言う。すると、部屋の中からくすくすという笑い声が聞こえてきた。
そっと顔を上げれば、そこにはエヴァリストがいる。彼は長い脚を組みながら、ジゼルを見つめていた。
「全く、いつまでも俺にそんな風にしなくてもいいのに」
彼は立ち上がり、ジゼルを部屋に招き入れてくれた。
「いえ、礼儀は、礼儀ですので……」
エヴァリストの言葉にジゼルがそう言えば、彼は「真面目だね」なんて言いながらまた笑う。
「ところで、なんだけれどさ」
「……はい」
「今日、バティストに会った?」
どくん。
彼の問いかけに、ジゼルの心臓が嫌な音を立てた。会ったか会っていないか。それは微妙なところだ。
(見かけたのは見かけたけれど、隠れたし鉢合わせてはいないのよね……)
こういう場合、どういう風に答えるのが正解なのか。
そう思ってジゼルが悶々としていれば、エヴァリストは眉を下げていた。
「困らせるようなこと、言ったよね。ごめんね」
「い、いえ……」
「ただ、今日は王城にバティストがいてさ。もしかしたら、鉢合わせちゃったかもなぁって心配していて……」
どうやら、彼は心配からそう声をかけてくれたらしい。
それにほっと胸を撫でおろしつつ、ジゼルはエヴァリストに言われるがままにソファーに腰掛ける。
「えぇっと、お見かけは、しました」
「……それで?」
「咄嗟に隠れたので、鉢合わせてはおりません」
ゆるゆると首を横に振ってそう言えば、エヴァリストが安心したような表情を浮かべる。
「あいつ、今日は外で公務だったんだけれどね。急遽予定が変更になっちゃって……」
「……そう、なのですか」
「できればあいつとジゼルを会わせたくないから、そこら辺考えて予定を組んでいたんだけれどねぇ」
彼がそう言うと、従者がお茶を出してくれた。まだ湯気の上がる温かいものだ。
「俺が迎えに行けたらよかったんだけれど、生憎……ちょっと、ねぇ」
少し困ったように笑いながら、エヴァリストがそう言う。
だからこそ、ジゼルも笑った。
「いえ、そこまでエヴァリスト様にご迷惑をおかけするわけには、いきません」
ほんの少し。ほんの少しエヴァリストとの距離が縮まったとは言っても――まだ、そこまで迷惑をかけるわけにはいかない。
その一心でそう言ったのだが、彼はほんの少し不満そうな表情を浮かべた。
「俺に頼ってって言ったのは、ジゼルだよね。……逆だって、一緒じゃない?」
「……それ、は」
それを言われると、なんだか胸の奥がもぞもぞとする。
「です、が。私の頼る頻度と、エヴァリスト様の頻度は違います」
「そりゃそうだよ。だって、俺のほうがずっとジゼルよりも年上だし。頼ってばっかりじゃ、ダメだと思うし」
エヴァリストの言っていることは、きっと正しいのだ。ジゼルだって、それくらいはわかる。
「だから、俺はジゼルに頼ってほしい。持ちつ持たれつ、ってね」
紅茶の入ったカップを手に取って、エヴァリストが笑う。……なんだか、ジゼルの胸が高鳴ったような気がした。
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!
追記:新しい短いお話を始めました。
『ストーカー令嬢ルビナの受難。』というものです。作者ページから飛べますので、よろしければどうぞ……!




