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執着愛

 あれ以来、ジゼルとエヴァリストの距離はほんの少しだけ、縮まったような気がした。


 もちろん、完全に縮まったとは言えないと、ジゼルは思う。二人の間に芽生えた新しい感情が何なのか。それを、知る術がないのだから。


 そしてこの日、ジゼルは王城を訪れていた。というのも、ほかでもないエヴァリストに呼び出されたのだ。


 彼曰く、ジゼルの教師役の一人を見つけたので、一度顔を合わせてみてほしいということだった。


「ですが、お嬢様。本当にそんなことをされるのですか?」


 側を歩くマリーズが、そう問いかけてくる。そのため、ジゼルは彼女に視線を向ける。その後、笑った。


「えぇ、きっと、いつか役に立つわ」


 その『いつか』がいつなのかは、はっきりとはしない。むしろ、役に立たないかもしれない。


 だって、『いつか』というのはその日を自分で作らない限り来ない日なのだから。


(いつか、一人になったとき。私のことを支えてくれるのは、今まで培ってきた知識と人脈だものね)


 エヴァリストとの関係を解消したとき。ジゼルを一番に支えてくれるのは培ってきた知識と人脈のはずだ。


 だからこそ、ジゼルは学ぶ。魔法を、剣術を。――商売を。到底、貴族令嬢に必要のないことだって、吸収していくつもりだった。


(一度目の私は、自ら学ぼうなんて思いもしなかった。ただ、言われたことを全うするだけだった)


 それは他者から見れば向上心がないように映ったかもしれない。


 今更ながらにそう思って、苦笑さえ思い浮かぶ。


「ところで、本日はどちらで顔合わせを……?」

「エヴァリスト様が使用されている応接間だそうよ」


 マリーズと会話をしながら、ゆっくりと歩く。すると、前から見知った顔の人物が歩いてくるのが見えた。


 ……咄嗟に、ジゼルは近くの柱に身を隠した。


「お嬢様……?」

「マリーズも、こっちに」


 怪訝に思うマリーズを手招きして、ジゼルは柱に身を隠す。


「……それにしても、叔父上は本当に邪魔をするな」


 ふと、ジゼルの耳に届いたのはそんな声だった。


(バティスト殿下)


 彼の名前を、心の中で呼ぶ。ジゼルの視線の先には、そのきれいな顔を悔しそうに歪めるバティストがいた。


「ですが、殿下……」

「叔父上からジゼル嬢を奪うことは、得策ではないと言いたいのだろう?」


 バティストが誰かと会話をしている。耳をすませば、その人物は男性らしかった。……多分、国の重鎮。大臣とか、そういう役職の人物だろう。


「えぇ、エヴァリスト殿下は、とても優秀です。彼と真正面から対立することは、止めたほうがいいと思われます」

「だが、そうなればジゼル嬢を手に入れられない。……このままでは、おかしくなってしまいそうだ」


 彼の声音に、確かな執着がうかがえた。その所為だろう。ジゼルの背筋に冷たいものが走る。


「では、殿下には……」


 そこで、会話は小声になる。……もう、彼らの会話はこの距離では聞こえそうにない。


 でも、それよりも。……ジゼルは自身の胸元に手を当てて、激しく音を鳴らす心臓の鼓動を肌で感じた。


(バティスト殿下は、一体何が狙いなの……?)


 前々から思っていたが、バティストはジゼルに執着している。一度目での無関心が嘘のように、執着している。


 それはまるで蛇のようにジゼルに絡みついてくる。気持ちが、悪いと思ってしまった。


(そもそも、私はエヴァリスト様の婚約者なのよ? そんな私を手に入れるメリットなど、ないでしょうに)


 確かにエルヴェシウス侯爵家の権力は魅力的かもしれない。でも、それだけだ。


 国にはエルヴェシウス侯爵家よりも財力を持ち、歴史だってある家がいくつかある。なにも、ジゼルである必要などない。


 じぃっとその場で考え込んでいれば、バティストがその誰かと共に何処かに歩いて行った。


 なので、ジゼルはそこでほっと息を吐く。


「マリーズ、行きましょうか」

「……あ、はい」


 マリーズにそう声をかけて、ジゼルは足を踏み出す。


 ゆっくりと歩を進めて、エヴァリストに指定された場所を目指した。……けれど、なんだかマリーズの様子がおかしいような気がする。


「……マリーズ?」


 彼女の顔を覗き込んで、そう問いかける。すると、彼女はハッとしたように笑った。


「い、いえ、何でもありません。お嬢様が気にされるような、ことでは……」


 顔の前で手をぶんぶんと振ってそう言うマリーズに、ジゼルは眉をひそめてしまった。


 ……多分、彼女は何か気になることがあるのだろう。それを、悟る。


「ねぇ、マリーズ。あなたの思っていることを、教えてくれないかしら?」

「……え」


 ジゼルのその言葉に、マリーズがきょとんとしたのがわかった。


「もしかしたら、あなたの感じたことが、何かの役に立つかもしれないじゃない」


 王太子妃となるべく、教育を受けていたとき。人の上に立つ者は、他者の意見をしっかりと聞き取り入れることが必要だと言っていた。それが、信頼される方法だと。


(それに、私は――)


 ――少しでも、バティストの思考回路を知りたいのだ。

次回更新は金曜日の予定です(o_ _)o))


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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