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心配

金曜日に更新できなかった分です(o_ _)o))

 そう言ったギオの声は、なんだか憑きものが落ちたかのように清々しいものだった。


「……俺は、殿下を尊敬しております」

「知っております」


 しかし、それはわざわざ言わなくてもジゼルはとっくの昔に知っている。そう思ってそう告げれば、彼はジゼルの頭の先からつま先まで見つめてくる。……何とも、居心地が悪い。


「なので、俺はあなたのような女性が殿下のお側に居ることが嫌でした。……ただ、気が付いたのです」


 ギオがそう言って、ジゼルの目をまっすぐに見据えてくる。その後、口元をふっと緩めた。


「俺が殿下の幸せを決めるわけでは、なかったのですね」

「……ギオ、さま」

「殿下がご自分の望む人間を側に置き、婚約者にする。それが、正しいことでした」


 肩をすくめながら、苦笑を浮かべながらギオがそう言った。……そうか。


(わかって、くださったのね……)


 彼の言葉を聞いて、ジゼルがほっと胸をなでおろす。


 そうしていれば、ギオが軽く頭を下げてきた。


「なので、どうか殿下のことを今後ともよろしくお願いいたします」

「……えぇっと」


 けれど、彼は一体何を言っているのだろうか。


 自分たちは所詮偽装の婚約者で――。


(なんて、ギオ様は知らないから仕方がないわね)


 それに、ここで自分たちは偽装の婚約者なのです、なんて言えるわけもない。


 そう思いジゼルがこくんと首を縦に振れば、ギオはすたすたと歩き始めた。


「殿下の元までご案内させていただきます」

「えぇ、よろしくお願いします」

「……ただ、一つだけ注意があります」


 ふと改まったようにギオがそう言ってくる。そのため、ジゼルはきょとんとしてしまった。エヴァリストに注意するところなんて、あっただろうか?


「実は、少々殿下のご機嫌が悪く……」

「え」

「まぁ、簡単に言えば寝不足なのでございます」


 ……寝不足。それは、かなり心配かもしれない。


「ジゼル様と連絡を取られなくなっていらい、殿下は働き詰めなのでございます」

「……止められないのですか?」

「止めても、殿下が反論されてきますので……。殿下は、口が大層うまいのでございます」

「それはまぁ、知っておりますけれど……」


 エヴァリストの口が上手いことくらい、ジゼルだって知っている。そもそも、あのナデージュを軽々と躱してしまうのだ。それほどまでに彼は口が上手く――かつ、言い方は悪いが人を操るのが上手い。


「ですが、無理矢理にでも……」

「言っておきますが、殿下は大層お強いのですよ? 俺ら従者が束になってかかっても、あっさりといなしてしまわれます」


 ……なんだ、その超人っぷりは。


 ジゼルはそう思ってしまう。一度目のときから、エヴァリストが素晴らしい人物だということは知っていたけれど。


 まさか、ここまでだったなんて……。


「なので、俺から一つお願いが」

「……えぇっと、エヴァリスト様にお休みになるようにと、進言すればよろしいのでしょうか?」

「話が早くて助かります」


 ギオが大きく頷いて、そう言ってくれる。……けれど、エヴァリストがジゼルの言うことを聞いてくれるだろうか? ギオでさえダメなのだから……。


(いいえ、エヴァリスト様は私の頼みは出来る限り叶えてくださるお方よ。……きっと、聞いてくださるわ)


 それに、エヴァリストが倒れてしまえば大変なことになる。彼は王族の中でも屈指の優秀さを誇っているのだ。


 彼がいなくなれば、空いた穴を埋めるのは重労働になるはず。


「では、そちらのお部屋で殿下がお待ちになっております。……俺は、これで」

「……え、ギオ様は?」

「俺は、別でやることがありますので。ジゼル様のためにわざわざ時間を空けただけですので」


 何とも恩着せがましい言葉である。けれど、元を言えばジゼルが突然訪ねてきたのが悪いのだ。ギオを責める資格などない。


「承知いたしました」


 そう思いなおし、ジゼルはギオに会釈をしてエヴァリストが待つという部屋の前に立つ。


 中からは音がしない。それに一抹の不気味さを、覚えてしまう。


(まさか、倒れていらっしゃるとか……!?)


 最悪の想像が脳裏をよぎり、ジゼルは素早く扉をノックした。


 中からは、何の返事もない。……やっぱり、倒れているのでは?


「え、エヴァリスト様、失礼いたします――!」


 これが不敬なことではあると、わかっている。かといって、ここで引き返すことなんて出来やしない。


 それに、緊急事態かもしれないのだ。


 ジゼルが早急に部屋の扉を開ける。……中はきれいに整頓されていた。


「……エヴァリスト様?」


 部屋の中央のソファーで、エヴァリストは横になっていた。……胸が動いており、すやすやと寝息を立てている。……つまり、眠っているのだ。


「よ、よかったぁ……」


 思わず、そんな言葉が零れた。倒れているのかもしれない。寝不足で無茶をしている。その二つの心配から一気に解放され、ジゼルがほっと胸をなでおろす。


 それから、ゆっくりとエヴァリストの方に歩を進めた。

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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