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ギオの本音

 それから約一時間半後。ジゼルは王城の前にいた。


 アポなしの訪問ということもあり、出迎えはない。けれど、それでいい。


「行きましょう、マリーズ」


 一緒に連れてきたマリーズに声をかけ、ジゼルは王城の中に入ろうと見張りの騎士に声をかける。


 見張りの騎士はいきなりジゼルがやってきたことに驚いてか、完全に恐縮していた。それに関してはジゼルも悪いと思う。でも、今行動しなければ――エヴァリストが離れて行ってしまうと、思ったのだ。


「では、どうぞ」


 その後、騎士が確認を取りジゼルとマリーズを王城に入れてくれる。


 だからこそ、ジゼルは彼に続いて王城の中を歩いた。王城の中は閑散としている。時折使用人たちが歩いているが、何となく活気がないような気がする。


(けれど、きっと気のせいだわ)


 しかし、ジゼルはそう思いなおし騎士の案内に続いた。


「こちらから先は、私たちではいけませんので……」

「えぇ、承知しております」


 騎士がそう言ったのは、王族の仕事スペースの手前だった。


 ここより先は、王族に相当信頼されている人間しか入れない。それくらい、ジゼルだって知っている。王族の婚約者を長年やってきただけはある。


(なんて、エヴァリスト様と婚約したのはほんの少し前なのだけれど)


 心の中でそう思いつつ、ジゼルは騎士にここで待つようにと言われ、ただ立ち尽くしていた。


 騎士曰く、ここからは別の者の案内になるそうだ。


「それにしても、王城って本当に美しいですよね」


 ふと、マリーズがそう声をかけてきた。そのため、ジゼルはこくんと首を縦に振る。


「えぇ、とっても」


 きらきらとしたステンドグラスを見つめつつ、ジゼルはそう返事をする。……このステンドグラスは、何代か前の王が気に入って異国の職人を呼び寄せ、作らせたものだったはずだ。


 色とりどりのガラスが反射して、きらきらと輝いている。


 それをぼうっと見つめていると、不意に「ジゼル様」と名前を呼ばれた。


 なので、ジゼルがそちらに視線を向けると――そこには、ほかでもないギオがいた。


「……ギオ様」


 ゆっくりと彼の名前を呼べば、彼は頭を下げてくる。それから、ジゼルの方に一歩を踏み出してきた。


「俺が、案内させていただきます。殿下は、殿下専用の執務室でお待ちでございます」

「え、えぇ」


 不気味なほどに、いつも通りだった。


(いいえ、少し違う。……私に向けられていた敵意が、少し減っている、ような)


 それは本当に微々たるものだと思う。でも、間違いない。


 ぎゅっと手のひらを握って、ジゼルはギオに続いて歩いた。


「……ジゼル様」


 歩いていると、ふとギオがジゼルのことを呼んだ。


「……はい」


 その言葉に、静かに返事をする。そうすれば、彼はほんの少しだけ口元を緩めた。


「あの日、あの後のことを、お話します」

「……あの後」

「えぇ、ジゼル様に殿下と向き合うようにと言われた、あの日のことでございます」


 いや、それはわかっているのだけれど……。


 そう思いつつジゼルが眉を下げていれば、ギオがこほんと一度だけ咳ばらいをした。


「あの後、俺と殿下はきちんと話を……しま、した」

「どうして、そんな歯切れが悪いのですか……」


 何となく、ギオの言葉の歯切れが悪いような気がした。だからジゼルがそう問いかければ、ギオはまるで忌々しい記憶でも引っ張り出すかのように眉間にしわを寄せる。


「歯切れも悪くなります。殿下はあろうことか俺と酒を飲もうと言ってきたのです」

「……え」


 思わず、声が漏れた。


(噂によれば、エヴァリスト様は大層お酒に強いような……)


 彼はいわばざるであり、どれだけ飲んでも酔っぱらわない。共に飲んだ人間が酔いつぶれても、けろっとしているという噂だ。


「俺は殿下の側近です。なので、殿下より先に潰れるわけにはいきません」

「……は、はぁ」

「けれど、殿下に勝てるわけがないのです……!」


 悔しそうにこぶしを握り締めたギオが、そんなことを熱弁してきた。……ある意味、哀れだ。


「え、えぇっと、どうなりました……?」


 一応続きが気になるので、そう問いかけてみる。すると、ギオは「俺が、先に潰れました」とあっけらかんと答えた。


「しかも、あろうことか……」

「あろうことか?」

「本当の気持ちを、殿下に投げつけてしまったらしく……」


 彼の語尾が「らしく」なのは、きっと覚えていないのだ。それを、ジゼルは悟る。


「翌日から、殿下の目がどれほどまでに温かくなったかっ……!」

「それは、よかったのでは……?」


 酒の力を借りてでも、彼が本音を話すことが出来たのは喜ばしいことではないのだろうか。


 ジゼルがそう思っていれば、ギオはただジゼルを見つめた。その目は、何とも言えない感情を宿している。


「俺は、殿下のお側には完璧な人間がいるべきだと、今も思っております」

「……ギオ、さま」

「そして、殿下よりも先に酔いつぶれる俺は、完璧ではありません」


 何処まで行っても、彼は真面目なのだ。そうじゃないと――そんな言葉、口から出てこない。


「ですが、俺は、気が付きました。……完璧じゃなくても、殿下のお側に居たい、と」

次回更新は金曜日の予定です(o_ _)o))


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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