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守っていきたい、いかなくちゃならない

 エヴァリスト・ラ・フォルジュ。


 彼は色気たっぷりな容姿と、高い身分から女性人気が天井知らずな男性である。


 貴族令嬢の中には正統派王子のバティストよりも、色気たっぷりなエヴァリストの方が良いという者も少なくはない。


 しかし、そんな彼は――極度の女性嫌いだと有名だったりするのだ。


(……善は急げと思って、王城に来たけれど……)


 あれから数時間後。ジゼルは王城の前にいた。王城は貴族ならば基本的に誰でも訪れることが出来る場所である。なので、ジゼルは両親の目をかいくぐって王城を訪れていた。


 両親はジゼルのすべてを管理したがる。それこそ、勝手な外出さえも制限されていた。


 が、この日両親は偶然にも領地に出向く用事があり、朝食を摂ったらすぐに屋敷を出て行った。まさに、幸運だ。


「お嬢様。……エヴァリスト殿下はアポなしで会ってくださるでしょうか?」


 隣に立つマリーズがそう声をかけてくる。


 だからこそ、ジゼルはゆるゆると首を横に振った。


「わからないわ。……でも、やってみる価値はあると思うのよ」


 実際、これは懸けだ。王弟である彼は公務に当たっているし、留守の場合だってあるだろう。その場合はアポを取ってもらおうと思っているが、もちろん一番の理想は彼が王城にいるということである。


「まぁ、エヴァリスト殿下は貴族令嬢の訪問をすべて断っていらっしゃるというし、これはいわば負け戦だわ」


 王城を見上げ、ジゼルはそう呟く。


 けれど、負け戦でも挑まなければならないときがある。そう自分自身に言い聞かせ、ジゼルは一歩を踏み出した。


 その後、王城に入り近くにいた従者を取っ捕まえる。彼にエヴァリストに会いたいという要望を伝えれば、彼は露骨に眉を顰めた。


「お言葉ですが、エヴァリスト殿下は貴族のご令嬢とは会いませんよ」


 どうやら、彼はこういうことに慣れているようだ。


 彼のその表情は疲れというよりも、呆れ。またかという感情がこもっている。


 それを目ざとく見つけながら、ジゼルはこくんと首を縦に振った。


「知っているわ。……ただ、お話を通してくれるだけでいいの」

「……はぁ」

「あと、私の名前はジゼル・エルヴェシウスよ」


 一応名乗っておこう。


 そう判断しジゼルがそう言えば、従者は深々と頭を下げた。


「そこまでおっしゃるのでしたら、一応お話は通します。ですが、ダメ元ということは承知の上でお願いいたします」

「ええぇ、分かっているわ」


 従者ににっこりと笑いかけ、ジゼルはそう返事をした。


 そうすれば、彼はすたすたと歩いていく。隣に控えていたマリーズが、ジゼルの耳元に唇を寄せる。


「本当に、お会いできますかね……?」


 マリーズは何処となく不安そうだ。そりゃそうだ。この作戦が失敗すれば、ジゼルはバティストの婚約者に収まる可能性が高い。


 それすなわち、死を意味しているようなものなのだ。


「わからないわ。……わからないけれど、やってみなくちゃ何も始まらないの」


 一度目の時間軸のとき。ジゼルはすべてをあきらめていた。両親の言いなりとなり、バティストを支えるためだけに頑張ってきた。自ら行動することなど……滅多になかった。


 だから、分かるのだ。行動するということの、大切さが。


「後悔して死ぬのは、こりごりなのよ……」


 ぎゅっと手のひらを握りしめて、ジゼルはそう言葉を零す。


 その言葉は幸運にもマリーズには聞こえていなかったらしく、彼女は不安そうに王城の内装をきょろきょろと見渡していた。


「マリーズは、王城に来るのは初めてなのよね?」


 その様子が何処となく面白くて、ジゼルは彼女にそう問いかける。


 すると、彼女はこくんと首を縦に振った。


「王城って、平民は入れないので……」


 彼女のその苦笑を見つめながら、ジゼルは肩をすくめた。


 王城は貴族には幅広く解放されているが、その点平民を拒絶する場所である。平民が王城に入るためには、王城仕えの使用人になる。もしくは、貴族の護衛や使用人になる必要があるのだ。


「そうよね」

「あ、ですが、お嬢様が王家に嫁がれることがあれば……」


 どうやら、マリーズは今後もジゼルに仕えてくれる意思があるらしい。


 それを聞いて、ジゼルの心は曇っていく。……こんなにも優しい人が、窃盗の罪を着せられて解雇されるのか。


(そんな未来も、壊さなくちゃ。マリーズを路頭に迷わせることなんて、絶対にしないわ……!)


 せめて、彼女が結婚するまでは。ジゼル自身が側に居て、守りたいと思う。


(これは、いわば償いの人生なのかもしれないわ。……私の所為で不幸になった人たちを、幸せにするための)


 もちろん、そんなことはただの妄想に過ぎない。でも、そう思ってしまうほど。そう思ってしまうほどに、ジゼルは追い詰められていたのかもしれない。そんなことに縋りたくなるくらい、精神が消耗していたのかもしれない。


「……あ、お嬢様……」


 そんなとき、不意にマリーズが声を上げる。彼女の視線はジゼルではないところに注がれており、ジゼルも自然とそちらに視線を向けた。すると、そこには一人の男性がいた。

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