微妙な距離
今回から第4章です(n*´ω`*n)
二人の距離が少しずつ変化していく章になります!
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!
(……エヴァリスト様)
自身の部屋から窓の外を眺め、ジゼルが心の中でエヴァリストのことを呼ぶ。
もちろん、返事はない。それどころか、口に出すことさえできなかった。
(やはり、余計なことをしてしまったのよね……)
そう思うと、項垂れてしまいそうになる。胸がちくちくと痛んで、まるで失恋してしまったかのようだ。
心の中でそう思い、ジゼルは唇をかみしめる。
あの日から、早くも二週間の日が過ぎた。あれ以来、エヴァリストからジゼルへの接触はない。それどころか、手紙さえ届いていない。噂によれば、エヴァリストは現在忙しくしているということらしい。なので、仕方がないと言えば仕方がないのだが……。
「……どう、しよう」
もしも、このままエヴァリストとの関係が崩れてしまったら――と思うと、気が気じゃない。
本当に、認めざるおえないのだ。ジゼルは、エヴァリストに微かな好意を抱いていると。
「……一度、きちんとお会いして謝罪しなくちゃ」
そう思うのに、自分から手紙の一つさえ出せない。彼が忙しいのだから……と言い訳をして、一歩が踏み出せない。
このままでは、大嫌いな自分のままだ。周囲に流され、両親が用意したレールの上を歩くだけの、ジゼル・エルヴェシウスのままだ。
「王城に、行ってみたら……」
きっと、エヴァリストに会えるはずだ。婚約者なのだから、アポなしの突撃もある程度は許される立場である。けれど、やはりアポを取るべきだ。そのためには、まず手紙を出して……。
「……お手紙」
ボソッとその単語を言葉にして、ジゼルは尚更凹んでしまった。
エヴァリストから、一つや二つ手紙が合ってもいいはずなのに。忙しくて、手紙を書ける暇もないのだろうか? そうだったとしたら、彼の身体が心配だ。
一人で悶々とし続けるジゼルの側には、マリーズがいる。彼女はジゼルのことを心配そうに見つめてくれていた。……ジゼルも、しっかりと気が付いている。
「……お嬢様」
しまいに見かねたらしく、マリーズがそう声をかけてきた。そのため、ジゼルはハッとして笑みを作った。もちろん、ぎこちないものだ。
「な、何でもないわ。私、元気だからっ……!」
「……まだ、何も言っておりませんが」
どうやら、ジゼルはあまりにも冷静ではないらしい。そりゃそうだ。エヴァリストのことを考えると、食事も喉を通らない。ついでにいえば、ろくに眠れてもいないのだから。
「お嬢様。そんなにエヴァリスト殿下のことが気になるのでしたら、お手紙を出してみてはいかがでしょうか?」
マリーズも、思うことは同じらしい。
でも、ジゼルにその一歩を踏み出す勇気が出ない。
(お手紙を出して、返事をもらえなかったら余計に……)
どうして、自分はこんなに柔らかいメンタルをしているのだろうか。もっと鋼のように、強いメンタルだったらよかったのに。
なんて、考えても無駄なのに。
「……お嬢様」
マリーズがジゼルの方に近づいて、その肩を軽くたたいてくれた。ハッとして顔を上げれば、彼女の表情はとても悲痛そうだ。
「お嬢様がそんな浮かない表情をされていると、私も悲しいのです」
「……そう」
「ですから、悩みは早めに取り除きましょう」
それが出来ていたら、苦労しないと言うのに。
心の中でそう思ったものの、マリーズの言っていることは正しいのだ。悩みは早めに取り除かないと、大きなストレスとなってしまう。
「……エヴァリストさまに、ね」
「はい」
「余計なことを、言ってしまったの」
ぽつりぽつりと、あの日のことをマリーズに話す。マリーズは、相槌を打ちつつ聞いてくれた。
だからこそ、ジゼルも少し詰まりつつも話をすることが出来た。彼女は、聞き上手だ。
「というわけで、もしもこの関係が終わっても、私の所為、なのよね……」
言葉にすると、惨めで惨めで。いっそ笑いさえこみあげてくるほどだった。
「だって、エヴァリスト様は悪くないもの。私が、エヴァリスト様を不快にしてしまったのだもの」
ジゼルはネガティブ思考だ。だから、こういうときに悪い方へ悪い方へと考えてしまう。それもきっと、両親にきつく育てられたからなのだろう。それは、分かる。
(それに、バティスト殿下の顔色を窺って生きてきたものね……)
彼が何を望んでいるのか。それだけを見て、生きてきたに等しかった一度目の人生。あの記憶がある以上、ジゼルは積極的にはなれそうにない。
「だから、私がエヴァリスト様にお会いする資格など――」
「――お嬢様っ!」
ジゼルが言葉を続けようとすると、ふとマリーズが大きな声を上げた。それに驚いてジゼルが顔を上げれば、彼女は呆れていた。
「お嬢様は、生真面目すぎます。会う資格がないなど、おっしゃらないでください」
「……でも」
「お嬢様は、エヴァリスト殿下のことがお好きなのですよね?」
真剣な問いかけだった。何と答えようか。
(いいえ、ここで答えるべきは)
そう思い、ジゼルがゆっくりと口を開く。
これ、第2部7月末に完結できるのか……と不安になっておりますが、頑張ります……!




