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エヴァリストの嫉妬

(……え? どういうこと?)


 ジゼルが心の中でそう呟き、目を瞬かせる。


 そんなジゼルをまっすぐに見つめつつ、エヴァリストは目を細める。


 これっぽっちも、意味がわからない。


「ジゼルがギオといて、とても妬いた。……こう言えば、伝わる?」

「そ、それは……」


 伝わるも何も、言葉の意味くらいはジゼルだって知っている。


 ただ、どうしてエヴァリストが嫉妬したのかが、妬いたのかがわからないのだ。


 その気持ちはエヴァリストにも伝わっていたらしく、彼は口元を緩めた。その笑みがとても色っぽくて、ジゼルは彼をぼうっと見つめてしまう。


(こんなにもまじまじと見つめると……やっぱり、このお方は美形なのよね)


 バティストとはまた違う美形だと思う。


 だからこそ、貴族令嬢がこぞって熱を上げるのも分かると思ってしまった。……バティストと人気を二分割しているだけは、ある。


「どうしてこんなに妬くのかは、いまいちよく分かんないんだよ」

「……そ、れは」

「俺とジゼルは偽装の婚約者だ。……こんな感情持っても、無駄だってわかっているのにね」


 彼の眉が、悲しそうに下げられる。その姿を見ていると、ジゼルの胸が何故か高鳴ったような気がした。


 ……多分だが、ジゼル自身もエヴァリストのことを『偽装の婚約者』として、見れなくなり始めているのだ。


 ナデージュから助けてくれたときも。バティストから助けてくれたときも。きっと、彼を意識していた。


(でも、私はこのお方を利用しているだけなのよ……)


 そう思ったら、この気持ちを素直に口に出すことは出来そうにない。


 そのため、ジゼルはゆるゆると首を横に振って、エヴァリストに向き合う。


「そう、ですね」


 ただ、それしか口にできなかった。


 彼の言葉を蹴り飛ばすことは、ジゼルにはできなかった。


 その所為でそっと目を伏せていれば、エヴァリストがジゼルの頭を撫でてくれた。……まるで、子供にするような仕草だ。


「それでいい」


 まるで、これ以上は言ってくれるなというような雰囲気だった。


 だから、ジゼルはこくんと首を縦に振る。ここは、彼に従っておいた方がいいだろう。


「俺は、ジゼルにもっともっと輝いてほしい」

「……え?」


 しかし、続けられた彼の言葉の意味が全く分からない。


 目をぱちぱちと瞬かせて入れば、エヴァリストは静かに笑った。


「ジゼルに、もっともっと幸せになってほしい。……どうして、そう思うのかはいまいちわからないけれどね」


 ……ジゼルの幸せを、彼は望んでくれているのだ。


 その所為なのか、ジゼルの胸が温かくなる。……彼に偽装の婚約者を頼んだのはやはり正解だった。でも、それ以上に――間違いだとも、思ってしまった。


(だって、このままだとエヴァリスト様を傷つけてしまう結果になってしまう……)


 こんなにもエヴァリストに心が惹かれてしまうのならば、こんな関係にならなければよかった。


 胸がぎゅっと締め付けられるような気がして、ジゼルの唇が震える。


 エヴァリストが妬いたと言ったとき。ジゼルは戸惑いと共に別の感情を抱いていた。それこそ――確かな、喜びだった。


「……まぁ、いいや。帰ろうか」


 エヴァリストがなんてことない風に手を差し出してくる。その手に、ジゼルは恐る恐る自身の手を重ねた。


「……いつまで、こうやっていられるかな」


 彼がふと思い出したようにそんな言葉を紡ぐ。……ジゼルの胸が、軽く痛む。


「それは、わかりません。ただ、私たち双方がこの関係を必要ないと思ったら。……それが、終わりの合図なのでしょう」


 なんてことない風に、何も気にしていないように。ジゼルは淡々とそんな言葉を口にしたつもりだった。


 なのに、自分でも驚くほどにその声は震えている。……終わりの合図など、来なくていいのに。確かに、そう思ってしまう。


(私が、エヴァリスト様を縛り付ける権利など、ないというのに……)


 それはわかっている。嫌というほど理解している。


 今回の人生はバティストと婚約しない。それが一番の目標であり、他だと好きなことをするというのが目標だった。


 自分を殺さずに、自分の好きなことをする。……ジゼルは、それを望んでいる。


 そして、もしかしたら――ジゼルが望んでいるのは、エヴァリストとずっと一緒にいることなのかもしれない。


 胸の中に芽生えてしまった一つの感情が、ジゼルを傷つける。


 ……こんな気持ちになるのならば、利用しなければよかった。


 そんな感情が胸を支配して、消えてくれない。


 結局この後、エルヴェシウス侯爵家の屋敷につくまで、エヴァリストとジゼルは一言も会話を交わさなかった。

私は、年上のヒーローが年甲斐もなく嫉妬するシチュエーションが大好きです!!(結局私の性癖)

また、次回はエヴァリスト視点です。どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!(n*´ω`*n)


あと、現在こんな作品も書いております。


評判の悪い辺境伯に嫁ぐことになった出戻り娘ですが、辺境伯は生意気盛りの子供でした(どうやら、子育て要員として呼ばれたらしいです)


現在私の代表作に設定しておりますので、よろしければどうぞ……!

こちらもヒーローは年上の男ですので!


次回更新は火曜日を予定しております。

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