このままじゃ、ダメだから
なんとか更新できました……(´・ω・｀)
（こんなにもまっすぐに、人を想えるのね……）
ジゼルはエヴァリストと利害の一致から婚約関係を結んだ。
けれど、ギオはそんな利害の一致も、何も考えていない。ただ純粋にエヴァリストを慕っている。
それがわかるからこそ、ジゼルは彼に一種の羨望を抱いてしまったのだろう。
「俺は思います。……それは、貴女じゃない、と」
そう言ったギオの声音は刺々しかった。まるで突き刺すような、胸の痛みをジゼルに与えてくる。
でも、構わない。……自分とエヴァリストは偽装の関係であり、心の底から愛し合う仲じゃないのだから。
――なのに、そう思った瞬間、何故か胸がチクリと痛んだ。
「聞いているのですか？」
ジゼルが俯きがちになっていると、ふとギオがきょとんとしながらそう問いかけてきた。
そのため、ジゼルはハッとして彼の顔を見つめる。……きれいな、顔だった。
「え、えぇ、聞いております」
一応彼の言っていたことは、聞いていた。
そういう意味を込めて首を縦に振ってそう返事をすれば、彼は何処となく不満そうな表情を浮かべる。
「まぁ、聞いているのならばよろしいです。なので、貴女はご自分の身の振り方を考えた方がいいかと」
それすなわち、エヴァリストとの婚約を解消しろ。そう、遠回しに言っているのだ。
彼は彼の理想とするエヴァリストでいてほしいのだ。だから、ジゼルを遠ざけたい。
「……ギオ様」
彼の気持ちは痛いほどに伝わってくる。だけど、それでも。
ジゼルにも引けないわけがある。そもそも、エヴァリストが納得してくれている以上、ギオにとやかく言われる筋合いはないのだ。
「私は、エヴァリスト様との関係を解消するつもりは、これっぽっちもありません」
「……は？」
彼の表情に驚愕の色が宿る。きっと、今の話を聞いてどうしてそう思うのかと言いたいのだろう。
それは、ジゼルにも痛いほどに伝わってきた。
「そもそも、これは私とエヴァリスト様の問題です。ギオ様に口を挟まれることでは、ありません」
はっきりと、しっかりと。
ジゼルがまっすぐにギオの目を見て言葉を告げた。その瞬間、ギオの目が露骨に彷徨う。
……彼にも、自分が口を出すことではないという自覚はあったのだろう。
「これは私とエヴァリスト様の問題です。……貴方には、関係ありません」
そうだ。エヴァリストに何かを言われるのならばまだしも、外野にどうたらこうたら言われるのは嫌だ。
外野に振り回されるのは……もう、ごめんだ。
「……ジゼルさ、まは」
ギオが手のひらを握ったのがよくわかった。もしかして、暴言を吐かれるのだろうか？
心の中でそう思いぎゅっと唇をかみしめれば、彼がそっと手のひらを解く。
「そう、ですね。……俺が、出過ぎた真似をしただけ、ですよね」
そう言ったギオの言葉は、まるで何もかもをあきらめたかのような雰囲気だった。
「こんな俺が、殿下のお側に居るのは、ダメですね。……このままだと、殿下の幸せを壊しかねない」
「……え、えぇっと」
何も、ジゼルはそこまで望んじゃいない。
そう言おうとしたのに、ギオは一人でブツブツと呟いて、一人で完結させようとしている。
ジゼルには痛いほど、それがわかる。
（一人で完結させるのは、時と場合によって意味が違うわ。……一人で完結させることが必要なときもあれば、そうじゃないときだってある）
そのうえで、今は間違いなく後者なのだ。
エヴァリストはギオを大切に思っている。逆もまた――しかり。
そして、ギオは自分の気持ちを押し殺そうとしている。ならば、自分が出来ることは――。
「ギオ様っ！」
「……は」
とりあえずとばかりに、思いきり声を上げた。
その瞬間、ギオが大きく目を開いたのがわかった。
そんな彼に、ジゼルは顔をぐっと近づける。……至近距離で見れば見るほど、整った顔をした人だ。
「そのお気持ち、しっかりとエヴァリスト様にお伝えしましょう！」
「……はぁ？」
ギオの口から零れたのは、確かな戸惑いの声だった。
でも、これくらいで引くわけにはいかない。エヴァリストとギオのためだ。……こうなったら、自分が一肌脱ぐしかない。
（これが、せめてもの恩返しになれば、いいのだけれど）
エヴァリストは何度もジゼルを助けてくれた。だから、今度は――自分が、彼を助ける番なのだ。
強くそう思い、ジゼルはギオに顔を近づける。……ギオが、ジゼルから逃げるように顔を引いた。
「……あの、近いんですけれど」
ジゼルの顔が至近距離にあるためか、ギオが躊躇いがちにそう言葉を上げる。
しかし、ジゼルにはそれよりも大切なことがある。……ギオとエヴァリストの今後について、だ。
（そうよ。お二人の関係が、このままでいいはずがない）
そう思うからこそ、ジゼルがギオに手を伸ばしたときだった。
不意に部屋の扉が開いたのだ。
そして、そこには……。
「……は？」
ただぼんやりと立ち尽くす、エヴァリストの姿があった。
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……！
今後は定期更新していこうと思っておりますので！（来週から）
