ギオという男
なんか詰まってしまって、なかなか更新できませんでした(´・ω・`)
次もちょっと間が空くかもです……すみません汗
それからしばらくして、部屋の扉が開く。
もしかして、エヴァリストが戻ってきてくれた……?
そう思いジゼルがそちらに視線を向けるものの、そこにいたのはエヴァリストではなく、ギオだった。
「……」
彼は、無言でジゼルを見つめてくる。その視線にいたたまれなくなり、ジゼルはそっと視線を逸らす。
「……ジゼル・エルヴェシウス侯爵令嬢、でしたね」
名前を呼ばれ、ジゼルはこくんと首を縦に振る。
すると、ギオは「はぁ」と一度深くため息をついて、ジゼルの側にやってくる。その手には、飲み物の入ったグラスが握られていた。
「どうぞ」
端的にそう声をかけられ、ジゼルはためらったのちグラスを受け取る。
いろいろな意味で喉がカラカラだったこともあり、ジゼルはグラスの中のジュースを口に運んだ。
甘みと酸味のバランスのいい、美味なジュースだった。
「……ありがとう、ございました」
その後、ぺこりと頭を下げてギオに向き直る。……彼は、何も言わずにジゼルを見つめていた。その目は、明らかにジゼルのことを品定めしているようだ。
それがわかるからこそ、ジゼルはギオの視線に何も言わなかった。普通の令嬢ならば、品定めされるような視線を向けられていい気はしない。けれど、この視線には敵意は入っているが、蔑みなどは入っていない。
(蔑みがないだけ、マシなのよね……)
心の中でそう思い、ジゼルは背筋を正した。
「……殿下、は」
数分後。ふとギオが口を開く。その声は確かに震えており、ギオの中にいろいろな葛藤があるということは、容易に想像が出来る。
だからこそ、ジゼルは何も言わずにギオを見つめた。
「殿下は、素晴らしいお方だ」
「……はい」
ギオの言葉に、ジゼルはこくんと首を縦に振って返事をした。
エヴァリストが素晴らしい人間だと言うことは、ジゼルだって理解している。一度目のジゼルを気にかけてくれたほど、優しい人物だと。
もちろん、彼が優しいだけの人物ではないということも、よくわかっているつもりだ。でも、優しさがあることには間違いないし、王族としての気品が備わっていることも間違いない。
「だから、ジゼル・エルヴェシウス侯爵令嬢では、殿下には似合わない」
「……そう、ですね」
ギオの言葉を、否定することはできなかった。
だって、ジゼルの心の奥底にも、自分はエヴァリストに似合っていないという感情があったからだ。
「私は、エヴァリスト様に似合っていません。それは、自覚しております」
そっと目を伏せてそう告げると、ギオは息をのんだ。かと思えば、ジゼルの対面のソファーに腰を下ろす。
「……じゃあ、どうして殿下に近づいた」
彼のその声は、刺々しい。でも、悪意はこもっていない。純粋な、疑問。
それだけで、ギオはジゼルにそう問いかけているのだ。
「ジゼル・エルヴェシウス侯爵令嬢は――」
「待ってください」
ギオが何かを言いかけたものの、ジゼルはそれを止める。……先ほどから、ずっと訂正したいことがあったのだ。
これが、場違いな指摘であることは、ジゼルだってわかっている。だけど、一応指摘したかった。
「私のこと、フルネームで呼ぶのは止めてください」
胸の前に手を当て、凛とした姿でそう言う。
すると、ギオは眉をひそめた。
「……どうしてだ?」
「だって、長いじゃないですか」
ギオの問いかけに対するジゼルの答えは、こんなものだった。
実際は、ジゼルがエルヴェシウスという家名を好いていないということも、関係している。が、そんなことギオには関係ないのだ。
ならば、それっぽい理由を付け足すに限る。
「一々ジゼル・エルヴェシウス侯爵令嬢なんて呼んでいたら、疲れてしまいます」
「……じゃあ、何と呼べと」
その言葉に、ジゼルは黙り込んでしまった。エルヴェシウスという家名では、呼ばれたくない。けれど、いくら何でもファーストネームで呼んでもらうのは、いかがなものだろうか……?
(いきなりジゼルと呼んでほしいなんて、言えるわけがないわ……)
そんな親しい仲では、ないのだから。
そう思いつつジゼルがためらっていれば、ギオがまたため息をついた。
「……ジゼル様。これで、よろしいでしょうか?」
「え、えぇ……」
何処となくあきらめたような声音だった。
「ですが、俺は決して、決してジゼル様を認めたわけではありませんからね」
「……はい」
どうしてそこを強調するのかは、いまいちよくわからない。
しかし、そこを指摘する元気は、生憎ジゼルにはなかった。
「俺は、殿下の側には素晴らしい人間がいるべきだと思っております」
どうやら、話は元の路線に戻ったらしい。それに、ジゼルはほっと息を吐く。あれ以上問いかけられたら、こっちがおかしくなってしまいそうだったからだ。
「俺は、殿下の妃となる女性は、才に溢れ、美貌を持ち、誰からも好かれる。そんなお方じゃないと、務まらないと思っております」
そう言うギオの姿は、何となく面倒な男にしか見えない。
なのに、ジゼルは彼に嫌悪感を持つことはなかった。……ただ、一種の羨望を抱いてしまっただけだ。
今後もどうぞ「あないな」をよろしくお願いいたします……!
あと、今メインで書いている作品で「軟派な聖騎士と寝不足聖女」というものがあります。こちらはあんまり長くないお話なので、よろしければどうぞ。
ちなみに「あないな」は結構長いです。はい。




