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尊敬と……

 そのままエヴァリストに手を引かれて、パーティーホールを出る。


 エヴァリストはジゼルの歩幅と合わせて歩いてくれているらしく、とてもゆっくりと歩いてくれた。


 それにほんの少しの罪悪感を抱いていれば、エヴァリストが介抱用の部屋に連れてきてくれた。


「……とりあえず、そこに座ろうか」


 彼はそう言うと、ジゼルの身体をソファーに腰掛けさせてくれた。


 かと思えば、ジゼルの背中を優しく撫でてくれる。その手つきがまるで慈しむようなものであり、ジゼルの心が落ち着いていく。


「ギオ。悪かったね、準備させて」

「……いえ、俺は殿下のためならば、何でもする覚悟ですので」

「ははっ、頼もしいな」


 ギオと呼ばれた男性が、エヴァリストに深々と頭を下げている。


(……なんて、美しい人なのかしら)


 ジゼルがギオを見て感じたのは、そんな感想だった。


 とても美しいのに、触ってしまったら壊れてしまうような。そして、何よりも。彼の醸し出す視線は、絶対零度ともいえるほどに冷たいものだった。


「……何か?」


 ジゼルの視線を感じてか、ギオが鋭い声音でそう問いかけてくる。


 なので、ジゼルはハッとして口をつぐんだ。彼からしっかりと視線を逸らす。


 このまま彼を見つめていたら、なんとなく嫌なことが起こるような気がしたのだ。


「ギオ」

「承知しておりますよ、殿下」


 エヴァリストがギオの名前を呼べば、彼はやれやれといった風に額を押さえる。その様子は、間違いなく苦労人だ。


 しかし、ギオがエヴァリストを見る目は尊敬のまなざしだった。きっと、彼は心の底からエヴァリストを敬っているのだ。


 ……そして、彼がジゼルに絶対零度の視線を向けてくる理由も、何となく想像がつく。


(大方、エヴァリスト様に近づいた女って思われて、警戒されているんだわ……)


 彼はもしかしたらエヴァリストに心酔しているのかもしれない。だとすれば、彼の側に変な女――この場合はジゼル――がいることが気に食わないのだ。


 こういうタイプは理想を壊されると一気に怒りを露わにする。けれど、彼はまだ理性的らしかった。


 ……ジゼルに攻撃してこないだけ、まだマシだ。


「ギオ。従者に飲み物を預けているんだ。……取ってきてくれ」

「……はい」


 ジゼルとギオの間に漂う空気があまり良いものではないと感じ取ったのか、エヴァリストがさりげなくギオに別の部屋に行ってほしいと頼んでいた。


 彼もエヴァリストの命令には従うらしい。深々と頭を下げて、部屋を出ていく。残されたのは、ジゼルとエヴァリストだけ。


「ごめんね、ジゼル」


 ギオが出て行ってすぐに、エヴァリストは何故か謝罪をしてきた。意味が、わからなかった。


「……え?」

「ギオが、無礼なことをしたでしょう? ……あいつは、昔からああなんだよ」


 彼が肩をすくめながら、何処か懐かしむように宙を見つめる。どうやら、エヴァリストとギオは割と古い付き合いらしい。


「俺の側には、選ばれた人間がいるべきだって、思っているみたいで」

「……そう、なのですか」

「そうだよ。ただ、一番厄介なのはギオ自身が自分をその中に入れていないことかな。……あいつは、自分よりも有能な従者を見つけたら、遠慮なく職を辞すつもりらしいから」


 エヴァリストのその言葉には、何となく寂しさのようなものがこもっているようだった。


 それがわかるからこそ、ジゼルはぎゅっと手のひらを握る。


(ギオ様は、間違いなく私のことが気に食わないのだわ。そして、自分のことも)


 どうしてだろうか。ジゼルには、ギオの気持ちがわかるような気がした。彼は、自分がエヴァリストの側に居てはならないと思っているらしかった。……それは、少なからずジゼルも感じている感情だ。


 ――自分が、エヴァリストの側にずっといてはならない。


 その感情が胸の中に芽生えたのは、一体いつだったか。


(私は、エヴァリスト様に迷惑をかけたくなかった。だから、いつも彼の手を取らなかった)


 差し出された手は、完全に厚意からだったとは考えにくい。


 でも、彼の目は確かに、ジゼルのことを心配してくれていた。


 誰も気が付かないジゼルの苦しみや孤独を、彼だけは理解してくれていた。


(もしかしたら、ギオ様はご自分がエヴァリスト様の迷惑になるかもしれないことを、理解されているのではなくて……?)


 彼の中には、彼の理想のエヴァリストがいるはずだ。そして、その理想を一番崩してしまうのは、自分だと理解している。だから、彼はエヴァリストの側を離れようと思っているのかも、しれない。


 真意は、よくわからないが。


「……あの、エヴァリスト、さま」


 おずおずとエヴァリストの目を見つめる。すると、彼はきょとんとした表情でジゼルを見つめてきた。


「しっかりと、ギオ様とお話をされた方がいいかと、思います」


 ギオがエヴァリストのことを敬っているのと同等に。いや、それ以上に。


 エヴァリストがギオを信頼しているのだと、言葉にした方がいいような気がした。


(きっと、これはお節介なのよね。けど……)


 ジゼルは知っている。これから数年後のエヴァリストの側には――ギオは、いないということを。

お久しぶりです……震え声。


調子を崩したりしておりました。毎週更新できるように、頑張ります……(震え声)

あと、予定よりも長くなりそうです、この作品。


今後ともどうぞ「あないな」をよろしくお願いいたします……!

(こそっと宣伝すると現在『婚姻届け片手』という作品を連載しております。作者ページから飛べますので、よろしければ、どうぞ。明るく楽しいラブコメ(予定)です。)

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