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闇の中の光

(どうしましょう、一週間しかないとなると、作戦を練るのに時間が足りないわ)


 せっかく過去に逆行したかもしれないというのに、これでは同じ未来をたどってしまうかもしれない。


 もう二度と、あんな惨めな未来を。もう二度と、あんな目には遭いたくない。


 そう思っても、今の段階ではどうにもなりそうにない。


(一週間で別の婚約者をあてがってもらう……というのも、無茶ぶりだものね)


 そもそも、両親はジゼルがバティストの婚約者に収まることを望んでいる。それ以外の道など小さな頃から用意されていなかった。


 つまり、すべてにおいての道がふさがれているといっても過言では、ない。


(いいえ、何とかすれば道はあるはず。ふさがれているのならば、それを蹴破ればいい)


 しかし、心の中でそう思いジゼルは必死に考える。


「お嬢様? 本日はいつもとは少し違いますね」


 そんなとき、不意にマリーズがそう声をかけてきた。彼女はジゼルの髪の毛を櫛で梳きながら、きょとんとした表情でそう言う。


(そっか。この頃の私は、お父様とお母様の言いなりで、自分の意思など顔にも出さなかったものね)


 すなわち、マリーズからすれば普段のジゼルとは違うということである。


 ……もしかしたら、マリーズならばジゼルの話を笑わずに聞いてくれるかもしれない。


 ジゼルのことを案じてくれた、マリーズならば。


「……ねぇ、マリーズ」


 顔をマリーズに向けて、ジゼルは彼女の名前を呼ぶ。そうすれば、彼女はその青色の目を真ん丸にした。


「笑わないで、聞いて頂戴」


 けれど、ジゼルのあまりにも真剣な面持ちと言葉に、彼女も何かを悟ったらしい。こくんと首を縦に振ってくれた。


「先ほど、夢を見たの」


 さすがにいきなり逆行したかもしれないとは言えない。だからこそ、ジゼルは少しだけ雰囲気を変えて伝えることにした。


「夢、ですか?」

「えぇ」


 マリーズが小首をかしげたのがわかった。でも、ここで引いてはならない。


「今後、私の身に起きてしまうかもしれない、最悪な事態の夢よ」


 その後、ジゼルはマリーズに未来のことを話した。もちろん、これはあくまでも予知夢ということにしてある。


 バティストの婚約者に選ばれてしまえば、自分がどうなるのか。それをある程度大雑把に伝えると、マリーズが自身の口元を手で押さえる。


「……お嬢様が、殺される?」

「そうなの」


 淡々と返事をすれば、マリーズは悲痛な面持ちになった。さすがに二十五歳の若さで殺されて亡くなるなど、マリーズにも刺激が強すぎたらしい。


「……だから、私はバティスト殿下の婚約者にはなりたくないわ。だって、あのままの道をたどるのは嫌だもの」


 ゆるゆると首を横に振ってマリーズにそう告げれば、彼女は真剣な面持ちになる。


「ですが、さすがに旦那様や奥様が納得してくださるか、どうか……」


 マリーズもジゼルと考えることは同じだったらしい。


 あの二人は権力と金にしか興味がない。ジゼルのことを王太子妃に、王妃に据えることしか頭にないのだ。


 そのため、婚約解消されたジゼルのことを慰めもせずに、物置に閉じ込めた。


「それは、分かっているわ。でも、私はバティスト殿下と婚約したくない。……何か、いい方法はないかしら?」


 こんなことを相談できるのは、現状マリーズだけだ。藁にも縋る思いでジゼルがマリーズに視線を送れば、彼女は「うーん」と唸って考えていた。


「お言葉ですが、これはすぐに解決できる案件だとは、私は思いません」


 が、やはりマリーズも考えることはジゼルと同じらしい。


「一番手っ取り早いのは、別の婚約者を見つけてくること、なのですが……」

「それは、考えたわ。だけど、あと一週間でほかの男性を見つけるのは無理だわ」


 特にジゼルはバティストの婚約者候補筆頭なのだ。彼を差し置いてジゼルに求婚してくれる男性など……いない、と思われる。


(……うん?)


 だが、不意に一人の顔が思い浮かんだ。


 ジゼルのことを時折気にかけてくれていた。さらに言えば……彼ならば、バティストの身分に釣り合う。


 多少なりともジゼルと年齢が離れているが、この際それくらいは構わないと言えよう。


(……そうよ。殿下、殿下よ!)


 まるで闇の中に差した一筋の光。


 バティストの身分と釣り合い、かつ彼自身にとってもジゼルとの婚約は悪くない話になるはずだ。


 もちろん、その人物がジゼルの求婚を受け入れてくれるかは怪しい。


 でも、一か八かやってみる価値はあるはずである。


「そうよ!」


 そう思ったら、ジゼルは声を上げてしまった。


 すると、マリーズが驚いたように目を見開く。それに気が付きつつも、彼女の肩をジゼルは強くつかむ。


「王弟殿下、エヴァリスト殿下ならば、きっと私の話をバカにせず、かつ一時的な婚約を結んでくださるはずだわ!」


 エヴァリスト・ラ・フォルジュ。


 現国王の弟に当たり、極度の女性嫌いと言われている人物。けれど、彼は未来のジゼルをなんだかんだ言いつつも気にかけてくれた貴重な存在の一人なのだ。

早速ブクマありがとうございます(n*´ω`*n)

もうすぐヒーローが出てきますので、どうぞお付き合いいただけると幸いです!

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