仲睦まじい婚約者を、演じます 2
そんなことを考えつつ、ジゼルは周囲を注意深く観察した。
貴族令嬢の中には、もちろんエヴァリストを熱っぽく見つめていない者も少ないがいる。大方、その令嬢たちはバティスト狙いなのだろう。
エヴァリストが婚約してしまった今、王家で独身の男性はバティストしか残っていないためだ。
「ジゼル。……そろそろ、人が多くなってきたね」
そうしていれば、不意にエヴァリストがジゼルの耳に唇を寄せそう囁いてくる。
なので、ジゼルはこくんと首を縦に振った。
エヴァリストとジゼルが入場して、早くも二十分程度が経っている。エヴァリストの言葉通り、貴族令嬢が次から次へと入場し、人ごみに入っていくのが視界に映る。
「……そろそろ、バティストもやってくるかな」
ジゼルの腰を抱き寄せながら、エヴァリストがそう呟く。
今回の主役はバティストだ。だからこそ、彼がここにやってくるのは問題ない。ただ。
「ですが、まだバティスト殿下の入場時刻ではありませんよ」
バティストの入場予定時刻は、もう少し先だ。ジゼルが時計を見つめつつそう零せば、エヴァリストはジゼルにだけ聞こえるような音量で囁く。
「――あれは表向き。実際は、バティストはもう少し早くこちらを見に来ているんだよ」
……それは一体、どういうことなのだろうか。
そう思いジゼルが目をぱちぱちと瞬かせていれば、遠くにいた侍女が不意にエヴァリストのことを手招きするのが見えた。
「……行こうか」
「え、あ、ちょっと……」
エヴァリストはそれを目ざとく見つけ、何のためらいもなくジゼルの腰を抱いて移動する。ジゼルは、それについていくことしか出来なかった。
そして、ジゼルがエヴァリストに連れてこられたのは――パーティーホールの控室。
エヴァリストに言われるがままそこに足を踏み入れれば、そこには一人の男性。彼の姿を、ジゼルはよく知っている。
「……バティスト殿下」
彼はソファーにふんぞり返りつつ、ジゼルとエヴァリストを見つめていた。
「あぁ、ジゼル嬢。わざわざこちらに来てもらって、悪かったね」
にこやかに笑う彼の表情が、何処となくおぞましい。
そんな風に思ってしまい、ジゼルは自らの腕を撫でてしまう。
「ところで、叔父上はどうしてこちらに?」
その後、彼はエヴァリストに視線を向ける。その目にはひどく冷たい感情が宿っているようだった。
「……俺がいたら、問題あるのかな?」
「……いえ、そういうわけでは」
エヴァリストの言葉に、バティストが露骨に眉を下げていた。その姿に、ジゼルは微かな疑問を抱く。
(バティスト殿下は、エヴァリスト様をお呼びしたのではないの……?)
先ほどの態度を見るに、彼が呼んだのはエヴァリストのはずだ。しかし、彼は一番にジゼルに挨拶をし、エヴァリストにどうしてここに来たのかと問いかけていた。……それはまるで、ジゼルだけを呼んでいるようだ。
「そもそも、ジゼルの婚約者は俺だ。……こんなことを言っては何ですけれど、ジゼルを呼び出すならば俺の許可がなければ」
話の内容が、いまいちよく分からない。
どうして、バティストはジゼルを呼び出すのだろうか。もしかしたら、彼はまたジゼルに無茶ぶりをするつもりだったのでは――。
(いいえ、そんなはずがないわ。バティスト殿下は外面はとーってもいいもの)
それすなわち、婚約者ではないジゼルには無茶ぶりはしないということだ。
自分自身にそう言い聞かせ、ジゼルはしっかりとバティストを見据えた。
すると、彼は笑った。……一度目のジゼルには見せたことがないほどに、美しい表情だった。
「……叔父上は、過保護ですね」
バティストが立ち上がり、ジゼルの方に近づいてくる。……思わず、一歩足を引いてしまった。
「あ、あの、バティスト、殿下……?」
様子のおかしいバティストに恐れを抱き、ジゼルはまた一歩足を引く。そうしていれば、エヴァリストがジゼルのことを抱き寄せた。彼はそのままジゼルを抱きしめると、バティストのことを強くにらみつける。
「……王太子殿下。お言葉ですが、人の婚約者に手を出すような愚かな行動は……されませんよね?」
エヴァリストの声が、明らかに怒りを帯びている。
それは、彼の口調がよそ行きな時点でジゼルにもすぐにわかってしまった。
「……けれど、叔父上とジゼル嬢はまだ婚約者です。……今後、婚約が解消になることだって、あるでしょう」
「何が、言いたい」
「いえいえ、俺はその可能性を指しているだけです。……えぇ、例えば――」
――叔父上とジゼル嬢が、婚約続行できない問題が、浮き彫りになってしまうとか。
にっこりと笑ってそう言うバティストの姿に、ジゼルは背筋がぞくりと粟立つような感覚に襲われてしまった。
次回更新は……多分、明後日です(o_ _)o))
どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!




