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仲睦まじい婚約者を、演じます 1

 それからしばらくして、馬車が止まる。窓の外には王城があり、そこに列をなすようにして馬車が止まっている。


 あの馬車たちには、貴族の令嬢が乗っているのだ。王城の使用人たちが一人一人の身分確認を行い、通していく。


 とはいっても、いかんせん人数が多すぎる。そのためか、馬車は完全に渋滞と化していた。


「……」


 エヴァリストはその様子を冷たい視線で見つめている。その横顔がとても美しく、ジゼルは思わず見惚れてしまった。


 冷たく淡々とした顔立ち。その顔立ちに冷たい視線は、とても似合ってしまうのだ。


「……ノエル」

「はい」

「裏に回れ」


 彼は冷たい声で、御者にそう指示を出した。そうすれば、御者は深く頷き馬をもう一度走らせ始めた。


「……あの、エヴァリスト様」


 その様子を見つめていると、ジゼルは心配になってしまった。皆が皆、ああいう風に待っているのならば、自分たちも待つべきではないのだろうか。一瞬そう思ったが、ジゼルは思い出す。……彼は、王弟なのだと。


「あぁ、別にいいんだよ。……普段の御者だったら何も言わずに裏に回るんだけれどね。今日は、新入りなんだ」

「……そう、でしたの」


 確か、年若い御者だったと思う。王家が雇うには少々若すぎると思うが、もしかしたらエヴァリストの専属なのかもしれない。

 そんな想像を、張り巡らせてしまう。


「裏から回れるのは、王族。もしくは王家の血を引く公爵家の特権なんだよ」

「……わた、しは」

「ジゼルは俺の婚約者だから大丈夫」


 ジゼルの心配を汲み取ってか、エヴァリストは肩をすくめてそう言ってくれた。……彼がこう言ってくれているのならば、問題ないのだろう。


 そもそも、咎められたところでエヴァリストが上手いこと切り抜けてくれる……はず、である。


 そう思っていれば、王城の裏手に馬車が止まった。その後、御者が扉を開け、エヴァリストが地面に足をつける。


「どうぞ」


 エヴァリストがそう言って手を差し出してくる。そのため、ジゼルはその手に自身の手を重ねて馬車を降りた。


(……ここが、王城の裏手)


 正直なところ、ジゼルは王城の裏手に来たことはない。バティストの婚約者だったとはいえ、王家の一員ではなかったためだ。裏手は王家に仕える使用人。もしくは王家の人間や配偶者。血を引く者、またはそのいずれかの人物が認めた人物しか入ることが許されない。


 その理由は簡単であり、王家の人間たちが人目を忍んで休憩する際に使用されるためだ。


「行こうか、ジゼル」

「あ、はい」


 ジゼルがいろいろなことを考え込んでいると、エヴァリストがゆっくりと歩き出す。


 ジゼルはドレスを汚さないようにと気を付けて歩いた。エヴァリストにプレゼントしてもらったものだから、というのももちろんある。ただ、一番の理由は高価だから。このドレスは、エルヴェシウス侯爵家でも買うのをためらうような一品。それは、ジゼルとて容易に想像が出来る。


 パーティーホールに入れば、そこはまだ閑散としていた。どうやら、やはりというべきか入場の身分確認に手間取っているらしい。パーティーホールにいる貴族令嬢たちは飲み物を手に話に花を咲かせていた……のだが。


「まぁ、エヴァリスト殿下よ……!」


 エヴァリストの登場によって、その視線が一斉にエヴァリストに。そして、その隣にいるジゼルに注がれた。


 令嬢たちは熱に浮かされたかのような熱い視線でエヴァリストを見つめている。かと思えば、その隣にいるジゼルをまるで親の仇でも見るかのようなほどににらみつけてくる。……まったく、分かりやすいことこの上ない。


 それを見たエヴァリストはどう思ったのだろうか。ふとジゼルと絡めていた腕を解き――ジゼルの腰を引き寄せてくる。


 その瞬間、ジゼルが驚いて彼の顔を見上げてしまった。……エヴァリストは、目で「何も言うな」と伝えてくる。


(きっと、仲睦まじく見せる作戦なのね)


 多分だが、彼はジゼルと不仲だと思われたくないのだろう。ついでにいえば、偽装の婚約だともバレたくないはずだ。


 彼のその考えを読み取ったジゼルは、そっと彼に寄り添うような行動を取る。……もちろん、本気で寄り添ってはいない。はたから見ればそう見えるようにしているだけである。


(こうしていれば、バティスト殿下だって私に興味は持たれないはずだものね……!)


 そうだ。これは互いを利用しているだけだ。だから、どちらかが罪悪感を抱く必要もなければ、困る必要もない。


 周囲の令嬢たちはエヴァリストとジゼルの様子を見て、悔しそうな表情を浮かべていた。が、文句を言いに来る者は誰一人としていない。大方、エルヴェシウス侯爵家の令嬢には勝てないと、ジゼルには勝てないと判断したのだろう。


 貴族令嬢は勝てない相手には勝負を挑まないのが美徳。必ず勝てるとにらんだ相手にしか、喧嘩は売らないのだ。

次回更新は……多分明後日です(o_ _)o))


どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

(あと、よろしければこちらのシリーズ作品も、どうぞ)

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