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監視命令(エヴァリスト視点)

 ◇


 ジゼルがエルヴェシウス侯爵家の屋敷に戻り、十数分後。


 エヴァリストの後ろからどたどたという慌ただしい足音が聞こえてきた。


(あぁ、これは)


 心の中でそう思いつつ、エヴァリストは立ち止まる。すると、その足音も止まった。


「どうした、ギオ?」


 振り返ることなくそう問いかければ、その足音の持ち主――ギオはエヴァリストの前に回り込んでくる。


 彼のその目は鋭さを帯びており、まるで怒っているようだ。


「……殿下、正気でございますか?」


 男性にしては高い声を持つギオの、地を這うような声。普通の人間ならば怯むのだろうが、生憎エヴァリストはそんなやわな精神を持ち合わせていない。


 そのため、エヴァリストはギオの額を軽くたたいた。


「俺はずっと正気だけれど?」

「ですがっ! あの令嬢は、殿下に無礼すぎます!」


 ギオはエヴァリストに誠心誠意仕えてくれている。それはわかっているのだが、少々思い込みが激しいところがある。そこが、玉に瑕だろうか。


 心の中でそう思いつつ、エヴァリストは腕を組む。


「……今、俺の前にいる男の方がジゼルよりもずっと無礼だけれど」


 静かな声でそう言えば、ギオがハッとしたように頭を深々と下げる。……こういう素直なところは、嫌いじゃない。


 けれど、ジゼルを悪く言われるのは何となく嫌だった。


「そもそも、ギオはジゼルの何を知っているんだ?」

「……それ、は」

「俺に似合わないとか、ジゼルに直接かかわってから決めてほしいな」


 はっきりとしっかりと、ギオにそう宣言する。そうすれば、彼は露骨に項垂れていた。……どうやら、きつく言いすぎたらしい。


「まぁ、いいんだけれどさ。……ジゼルは、ギオの思うような女性じゃない。それは、関わればよく分かるよ」


 ゆるゆると首を横に振りながら、エヴァリストはギオの肩をポンっとたたいてそう告げる。


 その言葉に、ギオはじっと俯いているようだ。


「……殿下」


 エヴァリストのことを呼ぶギオの声は、微かに震えている。それを悟りつつ、エヴァリストは黙って彼の言葉の続きを待つ。


「殿下は、変わってしまわれましたね」


 目を瞑ったギオが真剣な声音でそう言葉を発する。


「変わった、か?」

「えぇ、昔のぎらぎらとした殿下とは、もう全然違います」


 ギオがなんてことない風にそう言うが、それは当然だとエヴァリストは思う。


 エヴァリストは三十を目の前にしている。昔のようにぎらぎらとすることなど出来やしない。


(とはいっても、俺は女が嫌いだったから、そこまでじゃないけれどさ)


 しかし、心の中でそう付け足す。まぁ、昔のエヴァリストがぎらぎらとしていたのは自覚している。……主に、権力面で。


「……ですが、殿下。お気を付けください」


 そう思っていれば、不意にギオが真剣な声音でそう言葉を発する。だからこそ、エヴァリストは彼にちらりと視線を向けた。


「女性は豹変する生き物でございます。……俺は、そういう人間を――」

「――多数見てきた。そう言いたいんだろ?」


 彼の頬を掴みながら、エヴァリストがそう問いかける。ギオは、首をこくんと縦に振った。


「そもそも、今のジゼルもすでに豹変したに近いんだよねぇ」

「……はぃ?」

「いや、こっちの話」


 エヴァリストの知るジゼル・エルヴェシウスはあんなにも感情を表にするような令嬢ではなかった。


 そういうことを思えば、今のジゼルは豹変したといっても過言ではない。……まあ、いい方に、だが。


「まぁ、ギオの言葉もありがたく受け取っておく」

「……殿下!」

「けれど、今後ジゼルを悪く言うことは許さない」


 上げて落とす戦法にも似ているかもしれない。そう思いつつエヴァリストがそう告げれば、ギオは少し困ったような表情を浮かべた後頷いた。……わかってくれたのならば、それでいい。


「……あとさ」

「はい」

「バティストの行動、監視しておいてほしいんだ」


 ふと思い出したことをギオに命じる。その言葉を聞いたギオは目をぱちぱちと瞬かせていた。


「いや、なんとなく嫌な予感がしてさ。……あいつ、自分勝手だから」

「……さようでございますね」

「何を起こすかわかったもんじゃない」


 バティストがジゼルを見つめる目には、仄暗い感情が宿っているようにも見えてしまった。……杞憂で済めばいいのだが。


(なんて、俺らしくないな)


 王太子に無礼を働こうとするなんて、自分らしくない。今までは、兄夫婦にも甥にも逆らおうとはしなかった。


 だって、そっちの方が平穏だから。エヴァリストは面倒なことが嫌いなのだ。


(でも、こうやってやろうと思ったのは――)


 ――きっと、ジゼルの照れたような表情が、とても可愛くて美しかったからだろうか。


 心の中でそう思いつつ、エヴァリストは唇の端を吊り上げた。その表情を、ギオは苦い表情で見つめていた。

これにて第2章は終了です(o_ _)o))次回から第3章に移ります。

また、ブクマの方が5600を超えました(n*´ω`*n)

本当にありがとうございます! 今後ともどうぞよろしくお願いいたします……!


(あと4月7日にこちらの姉妹作品を投稿予定です。詳しいことは活動報告にも書きますが、気が向いたら覗いていただけると幸いです!)

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