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バティスト・ラ・フォルジュ

 そんな声が聞こえてきた。


 ……この声。そう思い、ジゼルはそっと身を縮める。そして、エヴァリストの陰に隠れた。


「あれ、バティストか。……今日は忙しいんじゃなかったっけ?」


 エヴァリストが柔らかい声音で声の主にそう問う。


「はい。もうすぐ婚約者を決めるパーティーですから。……たまたま叔父上を見かけたので、声をかけただけとも言いますから」


 彼――バティストはジゼルには見せたことがないほど、穏やかな笑みでエヴァリストと会話をしている。


 彼のその様子に一抹の不気味さを覚えながら、ジゼルはそっと過去のことを思い出す。


 バティスト・ラ・フォルジュ。彼はこのフォルジュ王国の現国王夫妻の唯一の子であり、王太子である。


 きれいな漆黒色の短い髪と、吊り上がった青色の目を持つ彼は、貴族令嬢から高い人気を誇っていた。エヴァリストと人気を二分割しているといっても過言ではない人物だ。


(どうして、ここにバティスト殿下がいらっしゃるの……?)


 エヴァリストの陰に隠れながら、ジゼルはバティストのことを観察する。穏やかな表情の裏には、様々な感情が見え隠れしていそうだ。もちろん、それはバティストだけではない。エヴァリストも、同様である。


「……ところで、そちらの女性は?」


 しかし、さすがに隠れ続けるのは無理があったらしい。バティストの視線が、ジゼルに注がれる。


 だからこそ、ジゼルは少しためらったのち、彼の前に立つ。


 その瞬間、不意にエヴァリストがジゼルの肩を抱き寄せた。


「俺の婚約者だよ。エルヴェシウス侯爵家のジゼルだ」


 ポンポンと軽く肩をたたかれたかと思えば、エヴァリストはそう声を発する。その手はまるでジゼルを安心させるかのようであり、その気遣いにジゼルの心が仄かに温かくなる。


「そういえば、叔父上は最近ご婚約されたそうですね。……そうですか。エルヴェシウス侯爵家の令嬢と……」


 バティストが何かを考え込むような仕草を見せる。かと思えば、顔を上げてジゼルを見つめてきた。……その青色の目には、何処とない不気味さが宿っている。


「こんなことを言っては何ですけれど、彼女は俺の婚約者候補の筆頭……でした、よね?」


 まるでエヴァリストを責めるような口調だった。


 その言葉を聞いて、ジゼルは咄嗟に口を開いた。


「わ、私の方が、エヴァリスト様に惚れこみましたの」


 このままでは、エヴァリストが悪者になってしまうような気がした。そのため、慌ててこの婚約はジゼルの意思だと言葉を紡ぐ。


 バティストは一度目のジゼルを殺した張本人である。何をするか、分からない。


(エヴァリスト様に危害が及ぶのは、避けたいものね)


 ジゼルと婚約したからエヴァリストに危害が及ぶのはなんとしてでも避けたい。


 そう思い、ジゼルはエヴァリストに笑いかける。……少しでも、仲睦まじい婚約者を演じよう。そうすれば、バティストもすぐに興味を失うだろうから。


(それに、バティスト殿下はかの令嬢と恋に落ちてしまうもの。……今回は、愛の障害がない分どうなるかはわからないけれど)


 バティストとかの伯爵令嬢の恋が燃え上がったのは、きっとジゼルという愛の障害があったからだろう。


 なので、今回のようにジゼルがいない場合彼ら二人が恋に落ちるかはわからない。が、そんなことジゼルが知ったことではない。彼らが恋に落ちようが、落ちなかろうが。ジゼルは自分の身が守れればそれでいいのだ。


「……そう、なのか」


 ジゼルの言葉を聞いたバティストが、少し落胆したような声を出す。……こんな声、ジゼルは一度目で聞いたことがなかった。


「まぁ、いいです。……ご婚約おめでとうございます、叔父上、ジゼル嬢。王太子として、お二人の婚約を祝福します」


 だが、すぐに誰もが見惚れそうなほど美しい笑みを浮かべ、バティストはそう言った。胸の前に手を当てて、本気で祝福しているかのようにも見えるその仕草。


 ……けれど、ジゼルはバティストの声が微かに震えているのがわかった。


(もしかして、ご自分の婚約者候補の筆頭が別の人と婚約して、いろいろと思われているのかしら……?)


 そして、そんな結論に達する。


 ……まぁ、かといって彼に同情するということはあり得ない。なんといっても、彼は一度目のジゼルを身勝手な理由で殺したのだ。恨むことはあれど、同情することなどない。


「そう、ありがとう。……じゃあ、俺はジゼルと散歩の途中だから。……またね、バティスト」

「……えぇ」


 エヴァリストの言葉に、バティストが淡々と言葉を返す。


 そんな彼を気に留めることなく、エヴァリストはジゼルの肩を抱いて移動していく。……その足取りは、何処となく速い。


「面倒なことに、なりそうだよ」


 その後、エヴァリストはジゼルの耳元でそう囁く。その言葉の意味を、ジゼルが知るのは――もう少し、先。

昨日更新できていなかったので、その分になります(o_ _)o))

上手くいけばあと2話で第2章は終わる……と思います。まぁ、予定は未定ですけれどね。


あと、本日こちらのシリーズに新しい作品を追加しました!

『関係の改善は、望みませんので』(略してかんのぞ)という作品です。こちらと似た感じの『やり直し×ざまぁもの』ですが、ヒーローの属性が全然違います。


よろしければ、そちらもどうぞよろしくお願いいたします……!(シリーズから飛べますので)


引き続きどうぞよろしくお願いいたします……!

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