意識してしまって、仕方がない
その可能性に気が付き、ジゼルは唇をわなわなと震わせてしまう。
あんな結末を今回も迎えるなんて、絶対に嫌だ! そう思ってはいるのに、手を打つ方法がわからない。
「……ジゼルは気が付いていないかもしれないけれど、さ」
そんなとき、不意にエヴァリストが声をかけてくる。彼に視線を向ければ、彼はとても真剣な表情をしていた。
「俺がバティストの婚約者を決めるパーティーにジゼルを連れて行こうとしたのは、そこも関係しているんだ」
「……え?」
「ジゼルがどうして予知夢の中で殺されたのか。……その理由を探るには、バティストと対面してもらった方が早いんだよ」
エヴァリストのその言葉に、ジゼルは目を大きく見開く。……確かに、それは一理あるかもしれない。ただ、ジゼルは思いつかなかった。……いや、違う。
考えないようにしていた。バティストと、対面したくなくて逃げるという選択肢を選んでいた。
「もちろん、ジゼルが嫌な思いをする可能性だってある。……でもさ、手っ取り早くあいつの感情を知るには、これしかない」
彼の言っていることは間違いない。バティストと二人きりで対面することも出来るが、それは一種の悪手である。まだ多数の中に紛れ込む方が、印象だって残りにくい……と思いたい。
「エヴァリスト、様は……」
「うん」
「そこまで、私のことを考えてくださっていて……」
口は自然とそんな言葉を告げていた。ジゼルはエヴァリストのことを利用しようとしているだけだというのに。なのに、彼は真剣にジゼルのことを考え、助けてくれようとしている。自分の感情が浅ましいと知らされるような感じだ。
「……あのさ、ジゼル」
ジゼルの言葉を聞いたためか、エヴァリストが声を上げる。彼の声はとても真剣なものであり、ジゼルはきょとんとしてしまった。
「俺は、誰彼構わず助けるほどお人好しじゃない。……それは、初めて対面したときに言ったよね?」
「……えぇ」
彼は確かにそんなことを言っていた。ジゼルがエヴァリストのことをとても優しい人物だと称したとき、彼はそう言っていたのだ。
「俺はね、ジゼルに面白そうな可能性を見出した」
「……え?」
「だから、助けてあげようと思っているんだ。……あと、純粋に偽装とはいえ婚約しているんだからね。婚約者の助けになりたくて」
なんてことない風に彼はそう言う。……ジゼルの心臓が、とくんと大きく音を立てたような気がした。
(エヴァリスト様って……無意識にそんなことをおっしゃるお方……だったのね)
こりゃあ、女性にモテるのも納得だ。心の中でそんなことを思いつつ、ジゼルは頬に熱が溜まっていくのを感じてしまう。
「……ジゼル?」
「い、いえ、何でもありませんっ!」
エヴァリストが顔を覗き込んでくる。彼にはそのつもりがなかったとしても、ジゼルの心臓はとくん、とくんと大きく音を鳴らしている。……変に意識してしまったようだ。
彼から顔をプイっとそむけ、頬を押さえる。顔に熱が溜まったように熱いのは、気のせいだと思う。……そう、思いたい。
「そ、その、調子も戻りましたので、そろそろ……その」
「……わかった」
そういえば、ここに来た理由はこんな話をするためじゃない。それを思い出し、ジゼルはエヴァリストにそう声をかける。すると、エヴァリストは特に異を唱えることなく立ち上がる。
そして、ジゼルに手を差し出してきた。
「どうぞ、俺の婚約者」
彼が唇の端を上げて、笑いながらそう言ってくる。……大人の色気がたっぷりと含まれたその容姿で、そんなことをされると……やっぱり意識してしまうじゃないか。
「……は、はぃ」
恐る恐る、彼の手に自分の手を重ねる。あんまり、こういう風に触れ合うのは慣れていない。その所為なのか、ジゼルの動きはたどたどしかった。
(バティスト殿下だったら、こんなことはなかったのに……)
バティストと社交の場に行くとき、ジゼルは何度か彼エスコートされていた。そのときは手が触れてもなんとも思わなかったのに。どうして、エヴァリストだとこんなにもドキドキしてしまうのだろうか。これは、恩人に向けるような感情には到底思えない。
「王城の応接間に、いろいろと用意したんだ。……気に入ってくれると、いいけれど」
ちらりとジゼルに視線を向けて、エヴァリストがそう言ってくる。……やっぱり、反則だ。
(こんなの、恋愛経験値ゼロどころかマイナスの私には、耐えられないわ)
今度は自由に生きる。そのためには、エヴァリストとの関係はいずれは終わらせないとならないものだ。
……こんな風に意識していたら、別れるときに何となく無性に悲しくならないだろうか? いや、絶対になる。
(そのためには、意識しないように頑張りましょう……)
彼と重ねた手が、やたらと熱い。顔にもさらに熱が溜まっているように感じられる。……気のせいだと、突っぱねることは出来なかった。出来たら、どれだけ楽だろうか。そんなことを、ジゼルは思った。
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