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王弟殿下は割とやり手だった

 そんな風に思い、ジゼルはうつむく。それが面白かったのか、エヴァリストは声を上げて笑っていた。


「……ジゼルは、褒められることになれていない感じ?」


 彼が何でもない風にそう問いかける。


 どう、答えようか。


 一瞬ジゼルはそう思ったが、実際ジゼルは褒められることに慣れていない。両親は出来て当然という態度だったし、家庭教師たちも両親に習えの人間が多かった。もちろん、褒めてくれた人はいたのだがそれは圧倒的に少数派である。


「じゃあ、今後は俺がいっぱい褒めてあげる」

「……あの」


 エヴァリストの言葉に、ジゼルは声を上げた。


 何故、彼はこんな風にジゼルを褒めてくれるのだろうか。そもそも、何度も言うように別れるときに不信感を抱かせるだろうに。


「どうして、エヴァリスト様は、私と親しくされようとするのですか……?」


 小首をかしげて、自身の疑問を口にする。すると、エヴァリストはきょとんとした表情をほんの少しだけ浮かべた。


 しかし、すぐにいつものような表情に戻ると、視線を窓の外に移した。


「いや、仲睦まじく見えておいた方が、いろいろと便利なんだ。……割り込んで来ようとする輩が、少なくなるでしょ?」

「……まぁ、それは、そうなのですが」


 相思相愛の婚約者の間に、入ろうとする人間は少ない。もちろん、ゼロとは言わない。でも、常識のある人間は入ってこないというものだ。だから、彼の言葉は正しい。


「それに、俺はジゼルに面白さを見出している」

「面白さ、ですか……?」

「あぁ、俺のことを退屈させないように、せいぜい頑張って」


 エヴァリストの手が伸びてきて、ジゼルの頬をほんの少しだけ撫でた。……触れられた箇所が、ほんのりと熱く感じるのはやっぱり気のせいではないはずだ。


(っていうか、婚約者に退屈させないでって……言うの、普通なの?)


 ジゼルはエヴァリストのことを優しい人だと思っていた。誰もが見て見ぬふりをする中、彼だけがジゼルのことを気にかけてくれた。

 なのに、今の彼は……ほんの少し、違うかもしれない。あのときの、エヴァリストとは。


(とか、思っちゃダメよね。私が提案したことなのだから、しっかりとしなくては)


 今更提案の撤回なんて出来るはずがない。それに、エヴァリスト以上の人間を見つけられることなど、今後ないだろう。


 両親だって、ジゼルに求婚してきたのがエヴァリストだから納得しただけであり、ほかの人間ならば突っぱねていただろうから。


「……あ、本日、どうして私のことを呼び出されたのですか?」


 そういえば、どうして呼び出されたのかを聞いていなかった。


 それを思い出し、ジゼルがきょとんとしてエヴァリストを見つめる。そうすれば、彼は「あぁ」と声を発した。


「実は、もうすぐ甥……王太子の婚約者を決めるパーティーが、あるでしょ?」

「……えぇ」


 実際、バティストの婚約者を選ぶパーティーはあと二日に迫っている。あと二度眠れば、バティストの婚約者を選ぶパーティーの日を迎えてしまうのだ。


「そのパーティーに、ジゼルも参加してもらおうと思ってさ」

「……え?」


 エヴァリストがにっこりと笑って、とんでもないことを言う。


 その所為で、ジゼルは目をぱちぱちと瞬かせてしまうことしか出来なかった。


(バティスト殿下の婚約者を選ぶパーティーに、婚約者のいる令嬢が参加する必要、ある……?)


 頬が引きつるのがわかる。エヴァリストのことを見つめれば、彼は何でもない風にジゼルを見つめていた。


「……あの、私が参加する意味は」

「ないよ。……でもさ、俺は王族として王太子のバティストの選択を見届ける必要がある」


 それは確かに、そうなのかもしれない。が、そこにどうしてジゼル自身が……。


(って思ったけれど、エヴァリスト様の婚約者として、パーティーに参加する必要があるといえば、あるのよね……)


 基本的にパーティーや夜会、舞踏会などは婚約者同伴である。つまり、エヴァリストの婚約者としてジゼルも参加する必要があるということ。……そこまで、頭が回っていなかった。


「まぁ、あの甥も婚約者のいる令嬢に手を出そうとは思わないだろうから。ジゼルは俺の側にいるだけでいい」


 エヴァリストはそういうが、バティストはジゼルがいながらも堂々と浮気をした前科のある男である。信じられるわけがない。


「それでさ、ドレスくらい仕立ててあげようと思って、今日は呼び出したんだ」

「……あの、ドレスを仕立ててくださるのは良いのですが、パーティーは二日後ですよね……?」


 そんな急ピッチで仕立ててくれる仕立て屋など、あるのだろうか?


「仕立て屋やお針子についてはもう押さえてある。あと、いくつかのドレスも仕立ててあるんだ。あとは、ジゼルの体型に合わせて微調整……ってところまで、ね」


 どうやら、彼は相当出来る人のようだ。それを察し、ジゼルは心の底からこの人を敵に回すのは良くないとも悟ってしまった。


「どうせだしってことで、いろいろなタイプのドレスを仕立ててもらったから、あとはジゼルが自由に選べばいいよ」


 そういったエヴァリストは、まるで婚約者のことを心の底から好いているようにも見えてしまった。……これは所詮、偽装婚約だというのに。

ブクマ3700&総合評価12000ありがとうございます(n*´ω`*n)

今後ともどうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!

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