表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/59

胡散臭い王弟殿下

「……え、えぇっと」


 ナデージュが戸惑うのがわかる。もしかしたら、ジゼルが告げ口したかもしれない。その恐怖からなのか、口がパクパクと動いている。その姿が何とも間抜けだと、ジゼルは思ってしまう。


 彼女は権力と金にしか興味がない。王族の悪口など言っているのがバレてしまえば、ただじゃすまない。それを誰よりも理解しているのだ。


「エルヴェシウス侯爵夫人が何を思われているのかは知りませんが、俺は本当にジゼル嬢を迎えに来ただけですので。……失礼しますね。行こうか、ジゼル嬢」

「え……あ、はい」


 彼の手がジゼルの腰に添えられ、颯爽と歩き出す。そのため、ジゼルも渋々彼に続いて歩いていく。


 エヴァリストは馬車にジゼルを押し込むと、一度だけナデージュの方に視線を向けた。その後、ただ軽く頭を下げて馬車に乗り込む。


 どうやらエヴァリストはもう一台馬車を走らせてきたらしく、そちらにマリーズを乗せていた。……なんとまぁ、用意周到なことだ。


 エヴァリストの指示で、馬車がゆっくりと走り始めた。ナデージュは相変わらず間抜けな表情で馬車を見つめている。……滑稽なことこの上ない。


「……あの、エヴァリスト殿下」


 とりあえず、無言は辛いので声をかけてみた。


 その気持ちが彼には伝わってしまったらしく、彼は頬杖を突くとにっこりと笑う。……先ほどのような、胡散臭い笑みだった。


(エヴァリスト殿下って、こんなにも胡散臭い方だったかしら……?)


 ジゼルが見てきたエヴァリストが、ただの一面でしかないことは理解していた。けれど、完璧な王族である彼が偽装のための婚約者であるジゼルに深いところまで見せるとは思えない。……だから、こういう表情をするのが謎だと思ってしまった。


「どうした、ジゼル嬢?」


 彼が肩をすくめてそう問いかけてくる。だからこそ、ジゼルはゆるゆると首を横に振った。


「いえ、何でも、ありません……」


 さすがに笑みが胡散臭いなんて言えるわけがない。相手は王族なのだから。


 そう思いつつジゼルが愛想笑いを浮かべれば、目の前にいる彼は噴き出した。


「俺のこと、胡散臭い男だって思ったでしょ?」


 ……読まれている。


 心の中でそう思い、ジゼルはそっと彼から視線を逸らす。ポーカーフェイスは得意な方だと思っている。だが、ここでポーカーフェイスを使うのは少々感じが悪いような気がしたのだ。


「まぁ、俺だって自分が胡散臭い男だって知っているしさ。……ジゼル嬢が思うほど、俺は優しくないんだよ」


 ジゼルの方に身を乗り出し、その唇に自身の人差し指を押し付けて、エヴァリストがそういう。


 今の彼の表情は、とても美しいものだ。唇の端を吊り上げている姿は、まさに悪い男性といった風にも見える。


「……それとも、偽装婚約、解消したくなった?」


 しかし、彼のその言葉はいただけない。そんな風に考え、ジゼルはぶんぶんと首を横に振る。


 エヴァリストはジゼルにとってまさに救世主。易々と関係を解消していいはずがない。


「いえ、そんなことはありません。……私は、エヴァリスト殿下の役にも立とうと思っております」

「そっか」


 しっかりと彼の目を見つめてそう宣言すれば、彼が表情を緩めたのがよく分かった。


 彼のその表情は、一度目の時間軸でよく見たものだ。


「……そうだな。そうそう、その殿下ってのは、辞めてもらおうかと思っているんだけれどさ」

「え?」

「俺たち、偽装とはいえ婚約者だし。一応様付けにしてほしいんだ」


 確かに、婚約者ともなれば王族を様付けで呼ぶことは可能だ。でも、頭の中にその考えはなかった。


(バティスト殿下は、その許可を出してくださらなかったから……)


 だからきっと、その考えが頭の中になかったのだろう。


 内心でそう思うジゼルを怪訝に思ったのか、エヴァリストがきょとんとした表情を浮かべる。嫌がられたと、受け取られたのかもしれない。


「ジゼル嬢?」

「い、いえ、何でもありません。こっちの考えでございます」


 ぶんぶんと首を横に振って、そう告げる。


「様付けしてもよろしいのであれば、そうお呼びしたいのですが……」


 控えめに眉を下げて、ジゼルはそう言ってみる。すると、エヴァリストは唇の端をまた吊り上げた。


「いいよ。……そもそも、俺からの提案だしね。俺の方も、ジゼル嬢じゃなくてジゼルって呼んでも、いいか?」

「は、はい。それは、全然構いませんが……」


 そんなことをしていると、仲睦まじい婚約者に見えてしまわないだろうか?


 これは偽装の婚約なのに。別れる際にどう思われるかを、彼は考えていないのではないだろうか?


(……まぁ、ここはエヴァリスト殿下のお考えに、合わせましょうか)


 けれど、そう思いなおしジゼルは口を開く。ゆっくりと「エヴァリスト様」と呼べば、彼は良く出来ましたとばかりにジゼルの頭を撫でてくれた。……撫でられた箇所が熱く感じるのは、どうしてなのだろうか?


(こんな風に、されたことがないから、よね……)


 今まで、頭を撫でられたことなんてなかった。そのためなのだろう。彼の行動に――ドキドキしてしまったのは。

総合評価9900ありがとうございます(n*´ω`*n)ブクマも3100を超えました。本日の日刊ランキングでも表紙入りしており、とても嬉しく思います!


本日は私の不調の所為で1話のみの更新になります。明日も1話は更新したいと思っておりますが、どうなるかちょっと未定です……。申し訳ございません。


どうぞ、今後も引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ