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気紛れ短編シリーズ

登校拒否

作者: 華月 愛

 何もしたくない日。それは誰にでもあるものだと思いたい。

 そうでなければ、私は恥ずかしさのあまり、今後も学校に通えなくなるだろう。


 ◇


 何でもない日常を送っている、と思っていた。

 高校生になって、勉強、部活、友達づきあいまで結構頑張ってきたつもりだ。困難な課題を前に、友達と多少の愚痴を言い合いながら「お互い頑張ろうね」と最後は徹夜になってもやり遂げる。

 週明けには自由が待っているから。これを乗り越えたら楽になれるから。

 そんなふうに、面倒くさく思える授業も厄介な人間関係も、それなりにこなしてきたつもりだった。

 だから、嫌だと言いながらも、私は逃げずに毎日学校へ通っていた。


 最近、遅刻してくる人が多かった。


 いっそ「周りに感化された」と、人のせいにしてしまいたい。


 クラスメイトの遅刻の理由は様々であったが、私が耳にした多くは“サボり”である。当時、私が学校でその話を聞くと「授業に遅れてしまわないだろうか」と自分のことでもないのに不安になった。指定校推薦を求めて入学した人が、高二の冬になって遅刻してくる気が知れなかった。遅刻どころか平気で欠席する人だって居た。


 だが、今なら分かる。

 リスクを冒してでも学校へ来ない、否、来られないその気持ちが。


 ◇


 理由など何もない。だから「どうして」と聞かないでほしい。

 ただ、『行きたくなかった』。


 体調が優れなかったわけではない。家の用事があったわけではない。いじめられているわけではない。勉強したくないわけではない。


 理由はない。

 ただ、どうしても嫌だと思う気持ちに逆らえなかった。


 母は憤慨していた。

 最初、私が学校へ行きたくないと告げたとき、私の言葉を本気であれ冗談であれ、本当に学校へ行かないとは考えてもいなかっただろう。形式的に「学校へ行きなさい」と告げては、そのうち嫌々でも家を出ると思っていたことだろう。

 だから、私が何度も訴えて、支度を一つもしないところを見て、やっと母は私の言葉を呑み込み始めた。

「学校へ行きなさい」

 その言葉は真剣味を帯びていた。

「学費払ってるんだから」「もう指定校とれないよ」「今までの努力が水の泡になるよ」

 とってつけたような説得に私は頭を抱えた。

 髪を巻き込んで、両手でグシャッと顔を覆った。

 そして、


 崩れ落ちた。


 ◇


 分かってる。そんなこと。

 だから、今日一日でいい。

 中学生と違って、指定校推薦を狙う高校生の一日が大きなものであることも分かっている。

 専門学科だから、一般高校と違ってほとんどが指定校推薦を狙っている。

 私が学校を休んでいる間に、皆は勉強に励んでいる。

 分かってるよ。


 じゃあ何で?理由は何?


 そんなの、私だって分からないよ。


 ◇


 遅刻確定の時刻。

 私がリビングへ戻ると、

「遅刻しても行くんでしょ」

 と、母は休むことを許さなかった。


 格闘している。罪悪感と。

 私はどうしたらいいのだろうか。

 社会に出たら「行きたくない」の一言で休めるわけではない。私が休んで、迷惑がかかるのは自分ではなくて周りだ。

 今日だけでいい。そしたら明日も明後日も頑張るから。進学しても、就職しても、どんなに辛くても頑張るから。

 お願い。


 許して。


 ◇


 月曜の朝十時。私はオンラインで授業を受けている。

 遅刻か、欠席か。

 オンラインで授業に出席していても、書面上の記録では出席にならない。

 遅刻か、欠席か。

 私は今からでも、学校へ向かうべきだろうか。

 遅刻か、欠席か――――。


 私はどうしたらいいのだろうか。

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