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第四話 第二十一課

           1


その後、見事彼女らが結成するチームに加わることになり、僕らはゲロムたちが住を置く街に着いた。


時刻はもう一日が終わる目前だというのに、街は街灯の中で輝く鉱石に照らされており、人々(主に戦闘職らしが結構な数、活動している。


僕らがその通りを歩いていると偶にゲロムたちの友人らしき人に声を掛けられ、僕について聞いてくるけど、ゲロムは「新しいメンバーだ」と、ハンナは『風来坊さんとのことです』と、ティリナは『無職』と答えており、聞いた人を戸惑わせている。


「っと、おいゲンロー、悪いんだがこん後俺と一緒にギルドに行くぞ」


「ギルド?‥‥異世界(ここ)に本当にあったんだなぁ‥‥」


「ーーー?たりめーだろうが。なかったら冒険者なんて職、成り立ってねぇ」


肩を竦め、ゲロムは『あっこだあっこ』と少し遠くにある屋根に鐘つきの縦に長いレンガ製の建物を差した。


「アッコに行って、俺らん所に入隊した事を伝えんのと正式な職を取って貰わねぇとな」


薄く笑い、そう言ったゲロムはティリナとハンナに『報酬、先に受け取っていてくれ』と頼み、僕はそのままゲロムに連れて行かれた。



冒険者ギルド。



その薄暗い店内ーーー所々明かりはあるーーーにて、受付に並ぶ列に並び、やっとの思いでというとこもなくすぐに番が回ってきた僕らは受付人から説明を受けていた。


「‥‥‥というように、レベルはモンスターを倒すたびに少しずつ上がっていきます。レベルは後に説明するステータス上げにも関わってくるのでぜひともがんばってください」


説明を聞くに、結構分かりやすい設定になっているらしいです。この世界は。


「‥‥おいゲンロー、しっかり話ぃ聞いとけよ。次はもっと大切なことだからよ」


「ーーーっ。悪い、つい‥‥」


「では、ステータスについての説明を始めますね。ステータスには十の項目があり、その項目ごとにはランクが四つ存在しています。E、C、B、A‥‥偶にその上にSというように上がっていき」


その後に続けた説明を要約すると、こういう事であった。


まず一つ目、破壊力は主に打撃、斬撃の火力の事を指すらしい。


二つ目、スピードは名の通り移動速度を指すが、他にも攻撃発生スピードのことも指している。


三つ目、スタミナは体の持続力、体にある魔力マナの保有量を指す。


四つ目、攻撃距離は魔法攻撃や投擲攻撃の射程距離を指す。


五つ目、知力も名の通りだが、機転の良さも指している。


六つ目、魔力は魔法攻撃の威力だけでなく、習得できる数も指す。


七つ目、精神力は名のとおりだが、ここでは成長のしやすさも指している。


八つ目、防御力はどうやらこの世界ではバリアーーー《障壁ウォール》と呼ばれる防御術があるらしく、その生み出せる数と強度を指す。


九つ目、耐久力は防御力とは違い、肉体の強度を指す。


そして最後に、体力がある。この世界では、RPGにあるようなHPゲージがあるらしく、その量、回復速度を指す。


ちなみに魔法には属性があり、火、水、土、光、闇の五種類存在する。


「最後に《能力》について話しておきますが、魔法とは別物の力を手にするというのが一般的ですが、それを手に入れる確率は少ないです」


ようやく説明が終わり、僕は受付人から一枚のカードを差し出された。唯一この世界で科学を感じる一品だ。


「そのカードを持っているといつでもレベルやステータスを確認できます。‥‥まぁ最初はレベル一から‥‥‥あれ?珍しいですね。レベルが十からなんて。‥‥まぁ、そのレベルで倒せるモンスターは少ないですけど」


上げ下げ僕の気持ちを揺さぶってくる受付人から目を反らして、僕はゲロムにお前はどうなんだとカードを見せてもらう。


レベル十八。


(‥‥‥なんだろ、これ)


後であの二人にもカードを見せてもらおう。


そう思いながら、僕は作業服のポケットにカードを入れ込んだのだった。


 

「僕の人生こんなもんなの?」


「そう落ち込むな。レベル一から始めるよりはいいだろ?」


ハンナとティリナを加えた四人で街の大通りを歩く中、そうゲロムが僕の肩を叩いて慰めてきた。


報酬を手にしたティリナたちと合流し、二人にステータスを見せてもらった。


ハンナはレベル十六。


ティリナはレベル十四。


‥‥とりあえず、僕はこの面子で最弱らしい。


「しかもこれどうなってるんだ?」


免許証ーー正しくは身分証ともなっている、あの受付人から渡されたカードの項目に目を通す。


だが、何度も確認しても僕のカードにあるステータスの項目には『何も』表示されていない。


《能力》の部分にも同じように何も。


と、僕のカードを盗み見ていたらしいティリナがカードの一部を指さしながら。


「そういえばゲンロー、今はそんな姿だけど、あの騎士みたいな姿って何なの?」


その一言にゲロムとハンナも全員こちらに視線が向けてきた。


上から下まで僕の体をジロジロ見てきて色々恥ずかしい。


ティリナがさすさすと僕が着ている作業着を触っていることを考えるとこういう素材とかは珍しいのかなと思う。


「あ、見せるの忘れてたね」


そう言って腰のポーチから僕は、あのニ枚のメダルを。懐からは魔導書を取り出した。


「山歩いてる時に見つけて、このメダルをこれにはめ込むとあれになれたんだ」


改めて僕も見てみると、本当に一つ一つが妙で不思議な道具だなと思う。


この二つのメダルに、どのようなメカニズムがーーーいや、異世界ならマジックニズムが宿っているのだろうか。


「ふーん‥‥服といい、不思議な物ばかりですね。ほら、この靴とかブニョブニョですよ」


‥‥というか、そんなものを遊ぶのはやめて欲しい。


「‥‥ねぇ、もう朝の二時だよ。もう寝ようよ」


と、ティリナが突如そんなことを言ってきた。


てか、そういえば僕ってこの人たちと生活を共にすることになるけど、住んでる所とかはどうなるんだろう?


「ちょっといい?ゲロムたちが住んでる所ってどこなの?やっぱり冒険者だから馬小屋とか?」


そう問いかけるとゲロムーー否、他の面子も全員が呆れた様子を見せて。


「冒険者は全員貧乏とでも思ってんのかよゲンロー」



そうして案内されたのは街の中央ーー市役所近くに建てられた、明治あたりを思い出す警察署風の建物だった。


聞くにこの街の冒険者、勇者といった戦闘職はクエストを請けたり、モンスターを討伐したりするだけでなく、工事の手伝いや野菜の収穫といったアルバイトのような仕事をすることもあるらしい。その代わりとしてこの建物に備えられた宿に住めたり、補助金をもらったりできるそうだ。


中に入るとすでに光は(鉱石のような物が容器に入っていた)消えており、まるで夜の学校に侵入したかのような気分だ。


「意外ときれいだね」


「なんでも珍しい木材を使ってるから汚れが付かないらしいですよ」


そうハンナが解説してくれた。


そのまましばらく歩いてくと、彼らが音止まりしている部屋にたどり着いた。


ゲロムが開けた木製の扉の横を見てみれば、『第二十一課』と書かれた札が掛けられていた。


先程、『第二十四課』と書かれた札を最後に見たのを思い出して、この面々はかなり後に結成されたチームなのかもしれないと僕は思った。


中に入ってみると、外と同じように部屋の中も綺麗だった。


席はフローリング質でその大半をカーペットが覆っており、クローゼットは四つ、二段ベッドが二つも設置されていた。


チームは基本四人だという事をゲロムから聞いてはいたが、そういう事なんだろう。


「じゃ、私達は先に入ってるね」


そう言ってティリナとハンナは着替え等を片手に抱いて部屋を出ていってしまった。


風呂は先程に一回案内されたから、場所は分かるのだがその前に一つやらねばならないことがある。


「ーーんだあそりゃあ?」


そんな声を吐き出し、俺が開いた『日記』をゲロムが隣から覗き見る。


そう、あのメダルや魔導書と共に置かれてあった『日記』だ。


あのときはチラッと内容を見ただけで、まだ目を通していないところが沢山あったのだ。


僕がそれを独り言のように読み上げると、この場の空気を察してゲロムが押し黙った。


『変身する際に注意してほしい事がある。それは強力なダメージを一気に、もしくはダメージが大量に蓄積した時だ。そのどちらかが起こった場合、《融合》の姿が解除されて元に戻ってしまう。そこからしばらくの間は再変身は不可能となる。しかし、《融合》の姿となった状態で別の《融合》を行うことは可能だ」



「‥‥面倒臭そうな話だが、おもしれぇな」


手の上に置いた二つのメダルに視線を落とす。そのチャンスも、今まででは少しの力だ。今まで見てきたラノベの情報からして、この双者盤はたいした力もない。


あの目玉との戦いを通して分かった《一つ(デュライム)融合(ナイト)》の力は魔法の威力減少を可能とする体液の放出、剣術とは縁のなかった僕でも二流に剣を操れる、といった所だ。


「ゲロム、明日にでも新しいメダルを作りにいかない?」


「‥‥‥勘弁してくれや、明日はオフのつもりだったんだが‥‥‥‥ま、いいぜ。俺も興味あるしなぁ」



          2



朝日も昇ってから数時間が経過した頃。


「‥‥すげぇ。ここまで活気あるなんて‥‥」


「当然だぜ。何しろこの街の八割の戦闘職の奴らが集まってんだからな」


身支度を済ませ、『第二十一課』から皆に遅れて出た僕は、その光景に目を輝かせていた。


この建物ーーーチュッダ警察署の受付は他の課に囲まれる形で設置されているのだが、その十畳ほどの広さしかないのにまるでバーゲンセールのデパートか、と言わんばかりに人気と活気があるのだ。


「お前らーっ!今日はクエストが多いぞーっ、さっさとこなしやがれーーー!!」


親方らしき厳顔の人物が声を張り上げ、バンバンと依頼が載せられた紙が貼られた提示板を平手でぶっ叩く。


そこに、すぐさま他の冒険者たちが飛びかかった。


「ゲンロー、早くしないと依頼なくなっちゃうよ」


「あ‥‥ご、ごめん」


そう言うティリナに腕を引っ張られて僕は提示板に連れてこられた。


さっきゲロムが言った発言の通り、戦闘職の人々がどれほどいるのか分からないが八割もの戦闘職持ちが集まっているが故に街中からの依頼が殺到するのだろう。


(とは言っても‥‥多すぎたろ‥‥)


雑に貼られた依頼書は、とても見ただけでは数えきれない。


そんな中で、ハンナがまた無造作にこれ無造作にと数枚の依頼書を剥がし取り、僕らに見せつけてきた。


「モンスターを討伐して、メダルを作るのでしたらこれぐらいがいいかと」


『ーーー野生化したアトラス族の巨人(レベル十八)を討伐してほしい。達成報酬は九万八千円』


『ーーー製造に失敗した工場用のゴーレム(三体、レベル十五ずつ)の討伐ーーー報酬は一体二万三千円ーーー』


『ーーー縄張りを広げている灰色熊(グリズリー)を倒してほしい。ーー達成した報酬として十五万を用意している。しかし、レベルが二十三なので駆け出しの人は注意してほしい。』


『ーーー山丘に現れたマガグリフォンの討伐。ただ、マガ属性がつけられているので、高レベルでなれけばならない。レベルは三十六、報酬は三十七万用意している。』


「ハンナ、冴えてるな。パワー系の《融合(へんしん)》をしてもらおうってかーーだが、"マガ"は今の俺等じゃ無理だな」


「これで選ぶんだったら報酬のいいアトラスと灰色熊(グリズリー)にしようよ。ゴーレムはちょっとお金が少ないし‥‥」


「そうですね。ですが、一日で二つのクエストを行うのは大変ですからね。一日一つずつで請けることにしましょう」


「あ‥‥うん」


勝手に話が進んでいき、ハンナの提案に流されるように僕は全員が賛成した所で、その二つの依頼書を取り上げたゲロムがその内のアトラス討伐の依頼書を受付に提出し、残った二つの依頼書を掲示板に貼り直した所で、僕らは受付を後にした。



ーーー初のクエスト、開始!!



「‥‥‥‥」


人が入り乱れる受付広場の中に、漆黒の人影が入り込んだ。


だが、そもそも人がただでさえ多いこの広場の中、その人影一つにいちいち気を向ける者はなかった。


「ーーー」


手を伸ばし、人影はゴーレム討伐の依頼書を手に取り、ボソリと虫の羽音程でもない大きさの囁き声を呟いた。

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