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第3話 デュライムナイト

ここでの主人公、扇場弦郎はいわゆる生粋のラノベ人、というやつだ。


彼の事を語るのなら前文だけで充分だろうが、あえて付け足すのならその姿だ。


髪は短くボサボサの黒髪で、身長は日本人しては高いといったところ。その身長は見事に足と胴で半々だ。


身に付けた青色の作業服はどうしたものかかなり似合っている。


後は少し女らしい目つきが印象的といった所だ。


「これって魔王的な存在を倒したら終わるのかな?それとも自力で帰る方法を見つけるのかな?」


そうは言いつつも、弦郎は『帰る』という選択肢ーーー可能生はないだろうと思っていた。


何しろ彼は元いた世界で死んでしまったからだ。完全に、頭を潰されて。


「キャタピラに頭を潰されるって‥‥‥例に見ない死に方だったな‥‥元いた世界に賠償請求できるかな?」


そんなくだらない事を思っても無駄だということは彼自身がよく分かっていた。


では何故とそう思うのは現実逃避のためだ。もっとも。


「これからどうしろって言うんだ‥‥‥」


懐のポケットに入っていたラノベ一冊、作業服のポケットに入っていたライターと二つのガムーーそれが彼の所持品、を見て弦郎は長々とため息をついた。


こんな装備でどうしろと弦郎は思う。


仮にこのまま街に降りたとしても変人やらそういう類で出ていくハメになるのだろう。


まぁ、そこまでたどり着けるかどうかがそもそもの話になるが。


「多分、今の僕だったら魔法とかの力もないのか‥‥‥このままだったら最弱系主人公って奴になるのかな?」


バッと両手を突き出し、某RPGゲームの呪文を上げるが、それは僅かな小動物に奇妙な目を向けさせるという効果で終わった。はずかしい。


四方八方。あらゆる方向が塞がれた状況だ。


これと言って行く宛もなく、弦郎は苔っぽい何かが生えている獣道を一直線に歩いていく。


歩中に道の側で生えている蛇苺っぽい物を口に含みながら、弦郎は時折祖母の事を思い出していた。


確か、自分が小学校を卒業する年までは、祖母が地元では買えなかったショートケーキを誕生日の時に出してくれていた。


それが、経済的にも肉体的にも厳しいものとわかったのは中学一年の時だった。


故に、その年から自分から拒否した。


今、祖母はどうしているだろうか。自分の帰りを待ってくれているのだろうか。


「‥‥‥‥せめて、恩の一つでも返せたら‥‥」


とぼとぼと歩いているその時ーーー。


「家、が」


何十年も前に建てられた、といった感じを覚えさせる苔むした一軒家が、獣道外れた脇道にそこにあった。


扉の横につけられている窓から中を除いてみれば、中は薄暗く、人がいるような感じではない。


「‥‥‥‥あ、開いてる」


苔むし、ボロボロの木造の扉に手を当ててみると、これと言って力を込めた訳でもないのに、軋みを立てつつも勝手に扉が開かれた。


中に顔を覗き入れてみると、饐えた香りと埃臭さが鼻を突き、噎せた。


それを感じながらも、弦郎は多少罪悪感を感じつつも家主の許可も得ないで中に足を踏み入れた。


僅かながらまだ半身を残している夕日のお陰で、中の様子や配置がまだ見える。


中にはたっぷりとホコリを被った本棚が多数並べ置かれており、所々では小箱が置かれていた。中身を開き見てみれば、装飾品や剣刀が入っていた。


もし、誰もいないようであればこれらは持って帰えるとしよう。


そんなことをうっすらと考えーー奥に、梯子があるのが見えた。


万一にも人がいたことを考えると、湧き出た興味により、上に登って見ることにした。


足を掛け、梯子に軋みを上げさせながらも、腐りかけの足掛けを折れさせないように慎重に登っていきーーー。


「ッおわぁああああああぁーーー!?」


二階の様子が見えた途端、真っ先に見えたものに弦郎は大きくバランスを崩し、盛大に腰から一階に落ちた。


内臓がネジ曲がるような激痛に「ぐきゃ!」と弦郎は悲鳴を上げ、その場でのたうち回る。


床にヒビが刻み込まれ、ホコリがと土煙がブワッと噴き上がった。


「‥‥‥マジで?」


痛みも薄れていき、気がまとまった所で弦郎は目をしたものを疑う。


勇気を出し、また二階へと登り始めた弦郎は『それ』を確認した。



白骨化した屍が背を壁に預けていた。



「‥‥‥‥」


梯子に続き、軋む床を靴裏に感じながら、弦郎は白骨化した屍に歩み寄る。


当然、死んでいる。


だが、この屍を見て不思議に思うことがあった。


このように放置され、何もされなかったはずなのに、虫に食いちぎられたり、腐り落ちたというようなことが見られないのだ。


「‥‥‥‥‥」


屍に向けて手を合わせた所で、この二階を見渡してみる。


どうしたものか、思っていた以上にーーーというより、ここは一階にはあったホコリも汚れも虫もネズミもいない。


ただ、置かれた本の量は一階の比にならない。


唯一開けられた通路とも言えそうな本が置かれていない隙間は、一足分ほどの広さしかない。移動するのも、一苦労と言えそうだ。


「ーーー?」


その道路が、横たわっている屍より奥に続けていることに、弦郎は今更ながら気がついた。


「‥‥‥この先にいるのは人かモンスターか」


ラノベ的センサーが働き、弦郎は固唾を音を立てて飲み込んた。


無論かつ繰り返しのことだが、今の彼には力も技術も経験もない。一歩間違えれば骨になるか捕まるかーーー。


両肩が本棚に擦れながらも、恐る恐る奥へと足を踏み入れた。


ーーーその答えはどちらでもなかった。


「何だこれ」


三畳ほどの大きさの空間、その中心に一つの円卓がポツンと置かれている。


その円卓の上に置かれているのは二つの古臭く、かび臭そうな本、そしてニ枚の『メダル』だ。


指先で摘み上げ、細々と見てみると『メダル』にはモンスターの絵らしい絵が中心に刻まれており、見た感じ、この世界がラノベ的常識のスタンダードな生物しかいないと言うのなら、二つの『メダル』にはそれぞれ『スライム』と『デュラハン』が刻まれている。


そして残りの二つの本、よく見ればその内の一つは手記であることに気がついた。


一旦、『メダル』ともう一つの本は置いておき、この手記に目を通すことにした。



『○月☓日。私の体はどうやら限界を迎えたらしい。魔術をこのおいぼれの肉体で使いすぎたせいか、体が崩れ始めてきた。もし、これを読んでくれた人がいたのなら、この手記の横にあるこれらを使ってほしい。使い方はこの手記に書かれている。ぜひとも私はあの世とやらでこの『実験』が成功したのかを確認したいのだ。』



「‥‥‥‥」


手記を閉じ、弦郎は改めてもう一つの本とニ枚の『メダル』に視線を移した。


何もない自分が手にしたのが、自分の力になるのだと。



(そろそろ出たほうがいいな)


小箱に入っていた装飾品やらを作業服のポケットの中にしまい込み、弦郎は古カビたこの一軒家を出た。


「‥‥‥‥」


振り返り、弦郎はその一軒家に向かって深々と頭を下げた。


それがあの屍がとなった老人に対する敬意なのか思いなのか同情なのかは彼自身も分からなかった。


そして、弦郎は山道を下り、歩を進めた。


あそこで手にした装飾品これら)を街で売ってそれから街の人と関わりを持っていけば普通に関われるだろう。それだけでもかなり精神的には楽になるがーー。


「だけど‥‥‥結構時間が経っちゃったなぁ」


色々漁っている内に、時刻はすでに夜ーーー体感では、八時半といった所か。


夜空に浮かぶ満月が輝いており、前いた世界のそれよりも美しく感じたが、そんなときだからこそ危険なモンスターだ出てくるものだと、弦郎はまたラノベ的センサーで感じ取った。


今、彼が歩く山道は一本道で、辺りを見渡してみれば所々岩肌が露出し、雑に木々が立ち並んでいる。そんな中で唯一人歩く彼は絶好の的でーー。


ガッ。


鼻先に何かがかすり、横に並んでいた木の幹に深々と突き刺さる音が一瞬ながら響き渡った。


「え?」


突き刺さっていたのは、銀製の剣身をが輝くナイフであった。


「ーーー。ーーーーー。ーーんんーーーッ?!」


不理解。不理解。理解、その瞬間弦郎は慌てて叫びそうになった口を両手で押さえて、地面に転がった。


まさか、この場で何者かの襲撃をーーー。


本能的に弦郎はそばにあった茂みの中に身を隠し、場をやり過ごそうとする。


ーーーー襲撃に、次はなかった。


どうしたものかと弦郎は頭部と両目だけを茂みから出し、その先に広がっていた光景を見て先程のは襲撃でなかったことを知る。



「ハァッ‥‥‥ハァッ‥‥‥クソが‥‥買える途中でこいつに遭遇するなんてな!」


おそらく、魔法か何かで生み出したのだろう鋼を自身の両手に纏わせた一人の巨漢が、『そいつ』が連鎖的に放つ鞭打ちをその両腕を駆使して弾き飛ばす。


「あの目玉に一突き刺せれば勝てるんですけどね‥‥‥!」


そう眉間にシワを寄せる少女がポーチからあのナイフを五本ほど抜き出し、それを鋭く弾き飛ばした。呼吸も視線もフェイクで放った不意打ち。


それを『そいつ』ーー巨大な目玉が胴体、体そのものの魔物が地面から生やす触手で弾き飛ばした。


「や、やばいよ‥‥‥逃げたほうがいいんじゃないの!?」


そういうのは桃色の短髪を持った、彼女らの中では最も幼気な少女だ。


ーーその少女が、両手から膨大な爆炎を放ったのだ。


あれ程の火力なら二メートルほどの大きさのあの魔物どころかここら一帯を焼き焦がすぐらい容易であろう。


『ーーー!!』


それを、目玉が放った閃光が真正面から激突し、爆炎に一瞬の輝きを広がらせた。


どう見ても彼女らが目玉に押されているということが分かる。


「‥‥‥くっ。このままでも何にもならねぇだろ、俺!」


その状況を変えるには僕しかいないと、だから彼は力に頼った。



懐に入れていた手記とは違うもう一つのカビ臭い本とあの二つの『メダル』を取り出し、弦郎はカビ臭いその本を開いたーー。


「うぉ!?」


途端、そこから湧き出てきた青白い輝きはものの一瞬にして彼の体を包み込んだ。


見れば、広げたページにあった二つの窪みがその輝きを放っていたのだ。


その窪みの大きさはちょうど彼の手元にある『メダルゲームコーナーと同じだ。


「ーーー。‥‥スライム!!」


その窪みの一つに『スライム』のメダルをはめ込む。直後、水色の燐光が吹き出て、彼の体に纏わりつくように渦を巻き始めた。


「デュラハン!!」


残りの窪みにもう一つの『メダル』、『デュラハン』の『メダル』をはめ込む。


そこから吹き出た燐光は先と同じようにして彼の体で渦を巻き、紫の輝きを放ち続けた。


彼の体で渦を作る二つの輝くは、どういうわけか『混じり合う』ことを望んでいるように見えた。


だが、二つの輝きは混じりあえていない。だからそれを彼自身が行う。


「変身ーーー!!」


叫びを上げ、それをトリガーとした弦郎の姿がーーー。


「‥‥‥‥」


変わらなかった。


どうしたものかと弦郎は二つの『メダル』を嵌め終えた魔導書を睨むような目で見据える。


「ッそういえば」


この魔導書と共に懐に入れておいた手記を取り出し、その内容に弦郎は目を通した。


使い方は子の手記に書かれているというあの屍の言葉を思い出したのだ。


使い方は以下のように書かれてあった。


1、魔導書を開く。


2、そこにある窪みにメダルを二つ入れ込む。


3、嵌め終えたら、《融合双者ライフブレンド》と呪文をあげる。


「ーーー‥‥‥《融合双者ライフブレンド》ーーー!!」


さっきのことをすっかりなかったことにした弦郎は高らかに氏を張り上げた。


それが今度こそ魔術のトリガーとなり、二体の魔物(モンスターが体の中へ消えていくーー。


そして、二つの輝きが混じり合った渦から姿を表した弦郎の姿が現れた。


『ーー《デュライムナイト》!』


その姿を魔導書が名付けたのであった。



「‥‥‥すごい」


自身の変わり果てた姿を見て、弦郎は思わず嘆息した。


作業服に代わり、身に纏っているのは二つの結晶が嵌められた黒染めの鎧。右手には技術も力もない弦郎ですら振りやすい程に軽い長剣。そして余った右手にはスライムの体液らしきものが纏わりつくように渦を巻いていた。


その姿の変わり様に呆然とするが、そこで弦郎は自分のやるべき事を思い出した。


振り向く。


目前、傷を負った彼女らに向けて目玉は十を超える触手を放ちーー。


「スキァったぁああああああ!!」


横から駆け出し、その触手の数々を切り捨てる事に成功した!


「ちょっ!?えっ?ええ?!」


死を覚悟していたであろう彼女らの顔が唖然としたものとなり、桃色の少女に至っては間抜けな声を漏らし、それを割り込んできた人影、弦郎に向けていた。


そんな彼女らのには一瞥もせず、弦郎はその一瞬のスキ、この目玉と向き合う。


一気にこの目玉の手数を切り捨てたおかげか、別の触手が飛んで来ることはなかった。


がら空き。


弱点丸出しの本体そのものの目玉に、握りしめた長剣をぶっ刺すーー


ゴォオオオオオオ!!


その彼の視界を、炎弾が統べる。


予備動作なしに放たれた二メートル以上の大きさを誇る炎弾。それは鋼で包まれた弦郎の体をものともせずに焼き尽くし、その後ろでへたり込む彼女らも焼き焦がすであろう。


「こぉれでぇえええ!!」


直撃の直前、弦郎は左手に握り、纏わりついていた特製スライム液を炎弾に向けてぶちまけた。


瞬間、水の断末魔ーーー蒸発する音が掠れて響く。無力化することは無理だが、火力と速度を弱めることができた。


直撃は直後だ。


その前に弦郎はこの魔物に一矢報いたのだ。


『ーーーーーッ!!』


真正面からとはいかずも、横合いから放った長剣が深々とつばまで突き刺さり、そこから体液と水晶体が噴き出た。


「ーーぅおぁあ!!」


直撃。


爆炎を受け、それが包み込んだ弦郎の体が後ろに吹っ飛び、そのままへたり込んでいた彼女らの元にまで転がった。


「ちょ、大丈夫!?」


そんな弦郎の元に寄る桃色の少女と、まだ何が起こったのか理解しきっていない残りの二人に。


「走ってぇええええええ!」



‥‥‥いったい、どれほどの距離をはしったのだろうか。


「も、もう来てねぇようだな‥‥‥」


そう呟くのはあの目玉との戦いで鋼を生み出していた巨漢だ。


「そ、それにしてもアンタ何者だ?見た感じここらの奴じゃねぇようだが」


その問いを受けた弦郎に周りからの視線が集まった。


「あ‥‥‥えー‥、初めまして。僕は弦郎、何者かって言われてもちょっと困るかな‥‥」


「そうか‥‥とりあえず礼を言わせてくれ。俺はゲロム、こいつのらリーダーをやってるもんだ」


そう名乗って手を差し出してきたゲロムの手を握り返した。そこで彼の隣にいたあの桃色の少女が名乗りを始めた。


「私はティリナ。このパーティーで《魔法使い》を担当してるの。下位魔法しか使えないんだけど『妖精さん』が私をサポートしてくれるの」


「『妖精さん』?」


すると、彼女の髪の間からすり抜けて出てきたのは淡い赤の光を放つ、ティリナの言う『妖精さん』だ。


その赤い輝きを体とするその存在は、あそこまで炎の威力を上げれる超常の力を持つのだ。


そして、このパーティーの存在に気づかせた存在、金の髪を伸ばしたどことなく大人びた少女も己の紹介を始めた。


「私はハンナと言います。ゲンローさん、先程は助けてくださってありがとうございます」


「ぁ‥‥うん、助けれてよかったよ」


ひとまず、このゲロムたちは敵意や疑惑的な想いはなくしてくれたらしい。安心した。


『‥‥‥‥』


自己紹介、終わり。


(ってここで終わったらまずいって!)


この出会いをできるだけ利用してこの世界の事や、近くに街がないかだとか、他にも《能力》だとかの事をーーー。


「‥‥‥なぁゲンロー」


「へ?」


「オメェ見たところ一人なんだろ?こいつを礼と言っちゃあなんだがーーー俺等のパーティーに入らねぇか?」


そういったゲロムの提案に場はしばらく凍りついたのだった。

ステータス


扇場弦郎(《デュライムナイト》時) 破壊力『B』・スピード『B』・スタミナ『B』・攻撃距離『C』・知力『A』・魔力『B』・精神力『B』・防御力『B』・耐久力『A』・体力『A』

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