おじさんはいつも困っている
通りを歩いていると、向こうからおじさんがやって来るのが見えた。「困った、困った」と呟きながら足早に歩いてくる。おじさんはいつも何かに困っているのだ。
ボクはおじさんに声をかけた。
「おじさん、こんにちは」
「やあ、こんにちは。しかし困ったねえ」
「今日は何に困っているんですか」
するとおじさんは歩を止めると、手を頬にあてて考え込んでしまった。「はて、わたしは何に困っていたんだっけ。むむ、思い出せんぞ。これは困った」
そして踵を返すと来た方に向かって歩き出してしまった。「いちど帰って思い出さなくちゃならん。これは困ったぞ」
「それじゃあ、また。思い出せるといいですね」
おじさんは足早に歩きながら左手をあげてひらひらと振った。きっとまた「困った、困った」と呟いているに違いない。おじさんは、ほんとうにいつも何かに困っている。