第8話 言い訳と遭遇
上手に割れましたー。という声が聞こえそうな位キレイに割れた。冗談で言ったつもりだったが本当に<幸運>の効果があったのかも知れない。1メートル程あったアルマの体はバスケットボール位の大きさになっていた。目や口がそれぞれ別の破片に付いて気持ち悪いことになることを危惧していたがちゃんと一番大きな破片に顔のパーツが付いてくれた。
アルマはフシューという声をあげ、気絶している。爆発でもするんだろうか?
「うーん···あれ寝ちゃってました。えーと確かアルマさん···」
ルーンさんが起きてきた。相変わらず寝起きは弱いようで目が明後日の方向を向いている。
「がはっ!あては···そうだユウほんまひどいわ!やめて言うたのに割るなんて!」
アルマも起きてきた。相変わらずうるさく口が喧しさの限界を越えている。
「ふあー、優さん、アルマさん何かあったんですか?」
「おーやっと起きたか!聞いてやルーンちゃん、ユウがな、あてのこと割ったんよ。ひどいやろ!」
「あっ、本当だ。確かに小さくなってますね。優さん何で割ったんですか?」
ルーンさんがジト目で見てくる。上手くできておらず、薄目を開けているように見える。
「アルマの体が重くて不便そうだなーっと思ったので···」
「嘘こけ!遅かったから言うとったやんけ!目がおもいっきり泳いどるやんけ!」
「なるほど、でもアルマさん、重くて不便なのは本当じゃないんですか?ジャンプして移動するから軽いほうが楽そうですし」
ちなみに転がっての移動を提案したら顔がぐちゃぐちゃになるから嫌だと言われた。
「まーそれはそうなんやけど、それならそうで移動する前に割った方がいいし、何よりいきなりやで!怖かったわー」
「うーん、俺はイベントムービー、1回目はスキップせずにみる派だからなあ。2回目からはガンガン飛ばすけど。まあごめん。アルマ」
「ええで!」
嘘だろ、急に許された。一瞬でその辺の岩とすり変わったとしか思えない速さだ。
「いいんですか?」
「エエんや。謝ってくれたしな。それに商人は心が広いねん」
「ありがとう、それじゃあ改めてよろしく、アルマ」
「ああ、よろしゅうな。そうやユウさっき言った『いべんとむーびー』とか『すきっぷ』ってどういう意味や?西の方の言葉か?まさか別の言語か?そんなわけあらへんか。あっはっは」
勘のいい岩は嫌いだよ。はー、ミスった。というかこの世界にもある言葉とない言葉の区別がつかない。後でルーンさんに確認しておこう。···どうやればアルマに聞かれずにできるんだ?睡眠薬でも飲ませてみるか。
「ああ、西の方言だ。イベントムービーは出来事、スキップは省略、という意味だ。だから、さっきの言葉の意味はアルマがゆっくり移動するっていう出来事を1回は省略せず我慢して見たが、2回目からは省略しないって意味だ」
「なるほどな、って結局自分の都合やないか!まあその話はもうエエわ、さっき許したしな。とりあえず動こうや。ちゅうかユウこんな森の中に何しに来とったんや?」
「あー、えーと···なんだっけ?」
「魔物を狩りにきたんですよね!優さんが言い出したのに何で忘れてるんですか!」
「年ですかね?」
「まだ20才ですよね!」
「まーまー、二人とも、もめんなや。にしてもほんま仲エエなあ。夫婦みたいや」
ルーンさんの顔が赤くなる。アルマの場をまとめる能力は評価するが、一言多い。
「そんな夫婦なんて···」
「おやおや、ルーンちゃん顔が赤いでー」
「アルマ、あんまりルーンさんをからかうな。投げるぞ」
「はいはい。わかっとるわ、それじゃあ行こうや魔物狩りに。手伝ったるわ」
「えっ、魔物に投げて良いのか?」
「良い訳ないやろ!」
「よっ、はっ、とう!」
「凄いな!ルーンちゃん、ユウはなんかスキルでも持っとるんか?あんな動き見たことないわ」
「優さんの持っているのはは<幸運>という運がよくなるスキルだけです。動きの凄さは優さん自身の技術みたいですよ」
「へー、ほんまユウは凄いんやな。···危険やけど」
「アルマ、ちょっと体借りるぞ」
「はっ?」
アルマの体を持って3匹のゴブリンを殴り止めを刺す。これで魔物を倒した時の魔素がアルマにいくだろう。というかこの世界に来てから倒したのが四連ゴブリンか、別の種類の魔物を狩りにきたのにゴブリンが出てきた。
「何すんねん!」
「ちょっとした実験。アルマ、もとのレベルいくつか分かるか?」
「んん、前にステータス見たときは、たしか7やったかなぁ」
「ルーンさん、アルマの今のレベル見てくれますか?」
「はい。えーと今は9になってますね」
「よし。成功」
「なんの実験なんや?」
「俺のスキルの実験だよ。俺のスキル、<幸運>は魔物を倒した時に得られる魔素が増えるんだ。だけど他の誰かに止めを刺したときは得られる魔素が増えないことがわかった」
これでレベルの調整が出来る。上がり過ぎるのは困るから良かった。
「ほーん、良かったやん。ちゅうかユウのスキル強すぎんか!レベルもりもり上がるやんけ!冒険者や各国の兵士がこぞって欲しがるやろ!」
「ああ、それだけじゃなく魔物の魔石の質も上がるぞ」
「なんやそれ!あてもめちゃくちゃ欲しくなったわ!どうやって手に入れたんや?そんなスキル!」
「気づいた時には持ってたぞ。多分生まれつきだと思う」
嘘は言っていない。多分は多分でしかなく、生まれつきじゃなくとも嘘にはならない。
「はーエエな。勘の鋭さといい、さっきの凄い動きといい、神様に愛されとるんちゃうか。まああて女神教と違うから神様信じてへんのやけど」
「そうかもな」
勘のいい岩は嫌いだよ。神というか『管理者』さんからはお節介受けてるな。まあ<幸運>以外は俺の才能なんだが。それより気になるのは···
「アルマ、女神教ってなんだ?」
「なんや女神教知らんのか。うーん説明めんどいなあ。ルーンちゃん分かる?」
「もちろん、分かりますよ」
「じゃあ代わりに説明頼むわ」
「はい。分かりました。女神教というのはその昔、天から降りてきた、女性から掲示を受けた男が始めた信仰で、その女性を女神として崇めて、加護を貰おうとする信仰です。女神の名前はアテナ。長年経った今でも東の諸国を中心、多数の人びとに信じられています」
とんだ茶番である。てかそのアテナって『管理者』さんのことだろうか?もしそうだとしたら『管理者』さんが女装してこの世界に降り立ったことになる。正直痛い。
「因みにアテナというのは、この世界担当の『補佐官』のことです。私も良く知ってます」
ルーンさんが耳うちで教えてくれた。うん納得。ほんとに茶番だな。まあ宗教というのは恐ろしいから女神教の人の前ではできるだけこの話題はやめておいた方がいいな。
「まー正直胡散臭い信仰やけどな。始めに見た男以外は見たことないらしいし、例え本物だったとしても、そいつが神とは限らんし、信仰したところで加護が受けれるとは思えんし」
「なるほどなー」
本当に勘がいいな。この岩。むしろアルマが信仰の対象になった方がいいかも知れない。なんかパワーストーンっぽいし。
「二人ともありがとう。それじゃあそろそろ町に行こうかもう疲れたし」
「「せやな(そうですね)」」
「もにゅ!」
全員から了承がとれたし、宿代分の魔物でも狩って···ん、もにゅ?
「もにゅー」
後ろを向くとデカイ水色の塊がいた。何故かすでに、合体の終わった某スライムの王がいた。