第7話 誤魔化しと回想
「な、何ですか!あなた⁉」
「何って岩やで。いわくつきのな」
初っぱなから極寒のダジャレをかましたのは本人、いや本岩が行った通り岩であった。1メートル位の岩に顔が着いた人面岩が俺たちの目の前に佇んでいる。一応ツッコんでおこう。何で関西弁やねん。よし。
「えーと、うん、とりあえず名前を聞いても?」
「あては、アルマ·エリック。エリック家の第一子や。よろしゅうな!」
うん。どう聞いても人間の自己紹介だ。よろしくしたくない。あとこの世界、名が先なんだな。それっぽく名乗っておこう。
「俺は···ユウ·オオミヤです。こちらは···」
ルーンさんの姓がわからない。そもそも天使に姓なんてあるのだろうか?
「私はルーン·オオミヤです」
んん⁉い、いや機転の効かせ方としてはいいのだが、多分勘違いされる。
「なんやあんたら夫婦なんか。にしてはえらい、たどたどしいなあ。あとオオミヤなんて珍しい家名やな。西の島国の方の出か?」
ほら。勘違いされた。というかミスった。そりゃこの世界にオオミヤなんて姓があるわけない。西の方にはあるらしいが、珍しがられるだろう。気をつけないといけない。それはそれとして勘違いをどう正そうか。
「いえ、夫婦ではありません。私にはもともと姓がありませんでした。ある日私は優さんに多大な迷惑をかけてしまいました。それなのに優さんは私を許すどころか旅にまで連れていってくれたんです。なので私はオオミヤを名乗っているんです」
ルーンさんがこっちを見て微笑む。とてつもなくさらりと嘘を着いたな。いや、抽象化してるだけで言ってることに嘘はないか。朝の隠し事を誤魔化した時とは比べ物にならない位上手く誤魔化したな。助かった。
「ほーん。嬢ちゃん、ドジやりそうやしな。ええやつに拾って貰えて良かったな」
それは違う。やりそうではなく、やる。
「な!そ、そんなドジなんてやったことないですよ!」
それは違う。やったことないではなくすでにやられた。
「本当かー?ま、ええわ。なあ兄ちゃん」
「ん、何ですか?」
「あても連れてってくれや」
「えっ!」
「良いですよ」
「えー!いいんですか優さん⁉」
「はい。絶対変な野郎ですけど、会話してみた感じ人をみる目がずば抜けてます。それに面白いじゃないですか。岩なんて」
「はあ。優さんがそう言うなら、仕方ないです」
「ありがとうな、兄ちゃん。こう見えてもあて、商人やねん。そこの嬢ちゃんよりは役に立ったるわ」
「むー私の方が優さんの役に立って見せます!あと嬢ちゃんじゃなくてルーンと呼んでください!」
「わかったわかった。よろしゅうなルーン嬢ちゃん」
「だから嬢ちゃんはやめてください!」
どう見えてなのかはわからないが商人らしい。ということは予想はあっているのだろう。早速聞かせてもらおう。
「アルマさん、岩にされた時のこと教えてもらえますか?」
「なんや、気付いとったんか兄ちゃん。あっぱれやな。せや、あてのことアルマって呼んでエエで、敬語も要らんわ、特別や。あても兄ちゃんのことユウって呼んだる」
「は、はあ」
よく分からないが気に入られたようだ。
「気付いとるなら話しが早いわ。あてはな、もともと人間だったんや。個人で商人やっとってな、商人の間ではわりと有名だったんやで。そんでなラプント王国でわりとでっかい取引があってな、めっちゃ儲けたんよ。その帰り道うっきうきでここ歩いとったらな、なんややたら黒い服着た2人がな、地図かなんか見て喋っててん。そいでな、なんやろなと思って、こっそり後ろから覗いたんよ。そしたらえらいびっくりして、なんや魔法撃ってきてん、そんで気付いたら石になっとたちゅう訳や」
細かいところはともかく、あらましは予想通りだな。
「それってどのくらい前のことだ?アルマ」
「せやなー、岩になってからどんだけ寝とったかにもよるけど1週間位ちゃうか」
「そんなに経ってたのに、助けを呼んだりしなかったんですか?」
「ふっふっふ、ルーンちゃん、あてといっしょに旅するんやったら覚えとったほうがええ。商人にはなあ、ぐっとこらえてじっと待たんと行けんときがあるんよ」
絶対それは今じゃないがまあいいか。
「分かりました。覚えておきます」
「まあ正直誰か見つけてくれるやろ、って思っとったけどな。洞窟やから、誰か入って来るやろし」
「それは無理だな」
「なんでや?」
「だってこの洞窟入り口無かったし」
「ユウも冗談がうまいなあ。そんなことある訳ないやん、そもそも入り口がなかったらユウも入って来れんやんけ」
「ああ、入り口は俺が作った。だから今はあるぞ」
「嘘や、そこまで言うなら見せてみい」
「OhNoマジやんけ!」
入り口まで一緒に戻り、さっき入る時に崩れ落ちた岩を丁寧に復元してやるとピッタリ入り口にはまった。目の前で復元を見せるとさすがに信じてくれた。
「どえー、じゃああて誰にも見つけられずに土に帰る可能性あったんか。ユウ命の恩人やんけ。ちゅうかユウはどうやってこの入り口見つけたんや?」
「勘。あと観察だな」
「はえー、ユウ凄いなー。おっ、あての服あるやん良かったー」
「なあアルマ、その命の恩人からのお願いなんだが···」
「なんや?何でも聞いたる!」
「割っていい?」
「は?だめだめだめだめ。いやに決まっとるやん。というかなんでや?」
「アルマ、体、重い、動き、遅い」
「何でカタコト?いくら重いって言っても嫌や。割ったらどうなるか判らんし、怖いけ嫌やわー」
「何でも聞いたるって言ったよな!いくら何でも俺の50分の1の速さは遅すぎる」
「言うたけど、それだけは嫌や、ルーンちゃん助けてくれ!」
「zzz···」
「寝とる!嘘やろ待って、近づいてこんでくれ、頼む!」
「大丈夫。俺には幸運が付いてる。痛くない。痛くない」
「ぎゃあああーーーーーーー」