第6話 寝起きと遭遇
「う、うーん」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。昨日はあのハプニングのあとルーンさんに服を着てもらうようお願いし、自分もお風呂に入り、そのあとはゆっくりしていたのだが、やはり自分が思うより疲れていたのだろう。前の世界じゃ考えられないほどすぐ寝てしまった。ちなみにお風呂は浅い井戸という感じである意味趣があった。
昨日のことをぼんやり思い出していると、何やら違和感を感じた。一言で言うなら、『重い』。なんと既視感のある感覚だ。予想通りというべきか、俺の上には寝息を立てるルーンさんがいた。というかこの部屋ダブルベッドなのだが、なぜ俺と同じベッド、それどころか俺の上で寝ているのだろうか?まあ考えてもわからないだろうし、とりあえずルーンさんを起こすのが先決か。
「ルーンさん!起きてください!」
起きない。起きない。大事なことなので2回言った。もう2回言っておこう。起きない。起きない。ルーンさんスッヤスッヤである。どうしたものか、と考えていたらルーンさんが寝返りを打ち···
「うわぁ!」
俺どころか、ベッドからも転げ落ちた。
「うーん、あれ?優さんどうしましたか?」
多分寝ぼけている。気の抜けた質問が飛んできた。
「えーと、起きたらルーンさんが俺の上で寝てて、ちょうど今転げ落ちました」
「え!わ、私、優さんの上で寝てたんですか!」
「はい。何でか覚えてないんですか?」
ルーンさんが頭を傾げ、急に顔を赤らめた。
「えっ···えーと覚えてないです!」
(寒くて優さんの布団に潜り込んでそのまま寝てしまったとは言えません!優さんごめんなさい!)
焦りが隠せていない。これは何か隠してるんだろうな。まあ知らない方がいいこともあるというし、深くは突っ込まないようにしよう。
「覚えてないなら仕方ないですね。それじゃあ朝食を食べに行きましょうか」
「はい!お腹空いてきました」
朝食は宿で食べることにした。宿代に朝食代も入っていたので助かった。これから魔物を狩って換金しにいくことを朝飯前と言えるほど俺は働き者じゃない。まあレベリングは別だ。
宿の朝食は香草パンとスープ、それにメインのイノシシのソテーだった。朝から十分過ぎる位豪華で美味しかった。おかわり自由のパンとスープをルーンさんがおかわりするのを4回で止め、代わりに質問をする。
「この世界にも普通の動物って生息してるんですか?」
「モグモグ···はい。優さんのいた世界と同じ動物がたくさんいます。ただ、魔物のほうがつよいので野生では大型の動物や戦闘力の高い動物しか生きていません。多くの動物は国や名のある商人が運営する大農場で育てられています」
「なるほど。でも昨日の夜食べたお店にも動物のお肉を使った料理がありましたよね。大農場でしか育てられていないのになぜ普通に食べられるんですか?」
王都などならわかるが大きいとはいえ、普通の町に動物の肉が降りてくるだろうか?
「ああ、それはですね、実はこの世界の動物は、優さんのいた世界の動物より生殖能力が高いんです。あと成長も早いので多くの動物が流通するんです」
「へぇー、面白いな」
またひとつこの世界に詳しくなれたところでそろそろ宿を出ていくことにした。
「優さん、今日はどうしましょうか?」
「そうですね。もう別の町に行ってもいいんですが、買い取り屋の店員さんに恩がありますし、準備をしてから旅に出たいので、もう少しこの町にいようと思うんです。なので今日の宿代を稼ぐついでにいろんな魔物を倒すために昨日と別の場所で魔物狩りをしようと思うんですがどうですか」
「もちろん良いですよ!昨日と別の場所なら東の森はどうでしょう?あの辺りは地形が複雑でいろんな魔力が混ざりあっているのでいろんな魔物が出現するはずです」
「良いですね。そこにしましょう」
ただレベルが上がりすぎそうなのが懸念点だな。あがりすぎると面白みがなくなる。理想は身体能力は同じで戦術や手数で勝敗がつくバトルだ。よくやったな、アイテムや魔法をフル活用して最低レベルでラスボス倒すの。自由度の高いゲームじゃないとできなかったけど。あとそろそろ仲間が欲しい。パーティー編成もまた冒険の醍醐味だ。
ということでやって来たのは東の森。
「きゃあーーー!優さん助けてください!」
絶賛追いかけられ中だ。うーんなんだろうこの魔物?熊のような姿をした3メートル位の魔物が四足で走っている。まあとりあえずルーンさんから救助要請が来たので···
「よっと」
拾った石を目に投げつけ、鼻をおもいっきり蹴る。レベルが上がったおかげでたいぶ戦闘に自由度が増した。前世ならスポーツ選手レベルだろう。もっとも、もともと動きだけなら真似できたのだが。
「ぐぎゃあー!!!!」
魔物は怯んだあと逃げて行った。魔物にも逃げるという考えはあるのか。というか倒してみたかったんだが。
「優さん!それが出来るなら最初からやってくださいよ。びっくりするじゃないですか!」
「いやー、追いかけられてみたかったので、面白そうですし」
「やっぱり変わってますね。まあでも優さんが楽しむことが第一なのでいいですけど···」
許してくれた。こういうイベントは嫌いじゃないので出来ればどんどん追いかけられたかったから許しが出るのはありがたい。
「優さん、あっちに何かありますよ!」
ルーンさんが指す方を見ると何かが輝いていた。歩いて近づいてみる。
「ん?服?」
そこにあったのは服であった。小さな崖の崖下に服が落ちていた。共に落ちている指輪が光を反射し輝いている。さっき見えた輝きはこれだろう。なんというかイベントの匂いがする。
「誰の服でしょうか?」
「うーん、これは···」
「どうかしましたか?」
崖をおもいっきり蹴る。
「急に何してるんですかー!」
そうすると崖の一部が綺麗に崩れ落ちた。
「えっ!」
「予想通りですね。ここ何か空間があります」
「何でわかったんですか?!」
ルーンさんの目が丸くなる。確かに急に崖を蹴って予想通りとか言われれば目も丸くなるだろう。
「うーん、何となくですね。何となくここが怪しいなって思いました」
まあ長年(19年)で培われた勘である。ゲームをやっていると隠された物への嗅覚は研ぎ澄まされる。何より隠しているのは人なのだ。考えは自然に読めてくる。そう今壊した部分は何かを隠す蓋だ。
「それに苔こそ生えていますが、この部分だけ新しいすぎましたし」
「まったくわかりません。わかるのは優さんが凄いってことだけです!」
「凄いですか?そんなですよ。まあ中に入ってみましょう」
壊したところを入り口にして崖の中に入る。異世界で初めての洞窟探索である。その空間はそこまで広くなく、特に何もないように感じる。何も無いのだけはやめて欲しい。やることはないだろうが、初めての洞窟探検トークをするときに困ってしまう。一番奥につくとそこには···
「きゃあー!!!」
「なんや自分人の顔見て笑うなんや失礼やなー」
人面岩がいた。