第3話 初戦闘とスキルの効果
ゴブリンは俺をじっと見ると、棍棒片手に突っ込んできた。俺を倒せると踏んだんだろう。だがあまりゲーマーをなめない方がいい。目線、重心、利き手、観察して得た情報で、動きは読める。伊達に画面を見続けたわけじゃない。格ゲーは3000時間程度しかしていないが2度世界を制すには、観察眼は必須だったからな。
ゴブリンが降り下ろした棍棒を避けながらゴブリンの懐に飛び込み脇腹に肘打ちをかます。怯んだゴブリンの足と首をつかみ逆方向に捻る。これで動けなくなると思ったら、ゴブリンはそのまま消滅した。
動けなくしてタコ殴りしようかと思ったが、倒れてくれるのは嬉しい誤算だ。消滅したゴブリンから白い光が涌き出て俺のなかに入って行った。これがルーンさんの言っていた魔物を倒した時に得られる魔素だろう。身体が大分軽くなった。Lvの恩恵は思ったより大きいようだ。収穫を含め異世界での初戦闘は大勝利と言っていいだろう。
「すごいですね!何したんですか!」
ルーンさんが駆け寄ってきた。その表情には驚きが見て取れる。目が輝いていて子供のようだ。美しい顔立ちも相まって非常に可愛い。さっき説明してくれた時の落ち着いた表情はどこに行ったのだろう。
「ゴブリンの動きを読んで、攻撃をかわして身体を捻っただけですよ」
「あんな動き、前の世界で見たこと無いですよ!身体能力は前の世界と変わらないのに···」
「うーん、説明が難しいんですけど、実は俺、自分でイメージした通りに全身を動かせるんですよね。脳からの指令が無駄なく全身に伝わるので、普通の人より効率良く動けて、曲芸のようなこともできるんです」
前世ではコントローラーを持つ手でしか発揮出来なかったが、この世界ではもっと役立てられるだろう。まあさっきの動きはこの世界に来て、身体の状態がリフレッシュしたのも大きいだろう。毎日ゲームしかしておらず運動はおろか食事すらまともに食べていないこともあったからな。
「優さんってすごいんですね!·····私はこんなすごい人に雷を···優さん。改めて本当にごめんなさい···」
ルーンさんが悲しい顔をする。未だに俺を前の世界で殺してしまったことを気にしてるんだろう。当然だ。俺だってそうなるだろう。たとえ許されても、罪悪感は消えないだろう。だが---
「ルーンさん、俺は幸せです」
「えっ!」
「本来これなかった世界で、本来できなったことができる。今最高にわくわくしてて幸せなんです。ミスは誰にだって有ります。俺はルーンさんを責めません。だからルーンさんも自分を責めないでください。それでも謝りたいのなら、代わりに一緒にこの世界を楽しみましょう」
ちょっとクサすぎるセリフかもしれない。でも---
「はい!優さんありがとうございます!」
この笑顔が見れるならそれもいいだろう。
さて、元の話に戻ろう。スキル<幸運>の効果は具体的にどんなものだろうか?運が良くなると言うのは基本的に確率操作だ。ゲームで言うならドロップ率や急所率が上がると言うのが定番だ。それならとりあえずこれを見て見るといいかもしれない。
「ルーンさん、これについて教えて欲しいんですけど」
「これは···魔石ですかね」
魔石である。ゴブリンが消滅した後に落ちていたものだ。
「魔石は、魔物の核です。魔物を倒すとドロップします。魔素が固体化した物で、非常に濃い魔素の塊です。濃度が濃すぎることと、食べると毒である魔物の血が含まれているので、人間にはあまり意味がないんですが、魔道具始め幾つかの用途があるので、高値で取引されています」
「魔石は魔物を倒すと絶対ドロップするんですか?」
「はい。特殊な倒し方をした場合は、落ちないことも有りますが、基本的には魔物を倒すと魔石が落ちます。なので魔物狩りを生業とする人も多いようです」
ならドロップ率に変動があるということは無さそうだ。もしかしたら本当にお守りスキルなのかもしれない。
「ただこれ、ホントにゴブリンの落とした魔石ですか?」
「そうですけど何か気になることでもありますか?」
「ゴブリンの魔石にしては大きすぎるんです。個体差は有りますが、普通、ゴブリンの魔石はこの半分位しかないはずです」
なるほどドロップ品の質か。
「もしかしたらそれがスキルの効果かもしれません」
「なるほど!そうかもしれません」
ひとまず効果があって良かった。しかも結構面白い効果だ。
「あと、ゴブリンを倒した時に白い光が出て、それを取り込んだら身体が軽くなったんですけど、その光が魔物を倒した時に得られる魔素ですよね」
「そうです。身体が軽くなったということは、レベルが上がったのかもしれませんね。確かめて見ましょう」
ルーンさんがステータスを表示した。
名前:大宮優
種族:人間
性別:男
年齢:20
Lv:25
魔法:なし
スキル:<幸運>
相当レベルが上がっていた。ゴブリンを倒して上がるレベルなど、2が関の山だと思っていたが嬉しい誤算だ。この世界のレベルの上がり方がおかしいだけかもしれないが、ルーンさんの顔を見るとどうやらそうじゃないらしい。
「えーーー!、優さんこ、これおかしいです!」
「レベルですか?」
「はい!普通こんなにレベルは上がりません。ゴブリンを倒して上がるレベルは多くても2ぐらいのはずなのに···」
おっ、俺の感覚はドンピシャのようだ。
「これもスキルの効果でしょうね。いい効果があって良かったです」
「『管理者』様やり過ぎですよーー。でも良かったですね。優さん」
ルーンさんがニコッと笑う。本当に良かった。多分圧倒的に強いスキルを手にしたのだから。
「それはそうと優さん、町に向かいませんか?」
空を見ると日が沈みかけていた。結構長い時間説明を聞いていたので、もうお腹も空いてきた。
「そうですね。あっ、でも宿代はどうしましょう?」
「そのゴブリンの魔石を売れば大丈夫です。多分美味しいものもたくさん食べれますよ!」
目が輝いている。ルーンさんもお腹が空いているのだろう。
「それじゃあ行きましょう」
「はい!」
町に着いたら魔石を売って宿探しだな。だいぶ疲れたし、ゆっくり寝れるところがいい。