第1話 終わりと始まり
「誠に申し訳ございませんでした」
天使も土下座をするんだなー、と思いながら出てきた茶をすする。うまい。ほうじ茶のようないい香りがする。
どこまでも続くような白く神々しい空間、そこに、茶をすする俺と土下座する天使、さらに佇む老人、カオスな空間だ。
記憶ははっきりしている。大宮優20歳、新しいゲームをクリアし、お昼ご飯を買って家に帰る。この何の変鉄もない行動をしていたはずなのに気がついたらここにいた。寝不足かもしれない、何しろ新作ゲームをクリアするのに90時間ぶっ通しでプレイしていたのだから。
「いきなりすまないね。ひとつずつ説明するよ」
ここにいる理由を考えていると、老人が話しかけてきた。どこかおじいちゃんに似ている。ただおじいちゃんにはなかった髪が、ふっさふっさと生え揃っている。
「私は、『管理者』、君たちの言う神のような存在だ。」
おじいちゃん似の老人は髪、いや、神だった。ここまでイメージ通りの神も珍しい。そう考えていると、『管理者』は話し出した。
「君が元いた世界は、私が管理している世界のひとつだ。ここは、そことは違う私たち『管理者』や彼女達『補佐官』が住む空間。君たちの言う言葉でいうと天界に当たるだろう。」
なるほどここが天界か、予想より広い。じゃあ気になることがある。
「なぜ俺がこの空間に?」
「うむ、それは彼女に説明してもらおう」
『管理者』に言われ土下座していた天使が立ち上がった。
「いきなりおかしな行動をしてしまい申し訳ございません。改めて私は『補佐官』星光と申します。私はあなたがいた世界専属の『補佐官』でした。ですので名もその世界の言葉でいただいています。」
天使改め、星光が話し始めた。切り揃えられた白い髪が最近プレイしたゲームのキャラに似ている。
「それではあなたがここにきた理由を、順序に沿って説明します。私は『補佐官』としてあなたがいた世界の管理や監視、具体的には、気象を操ったり、生物の誕生や死亡の監視をしていました。」
あ、落ちが読めた。
「あなたが死んだ日、私は他の場所に落とすはずであった雷を誤ってあなたに落としてしまったのです。」
やっぱり予想通りであった。星光さん仕事できそうな顔してドジっ子なのだろうか?
「こちらのミスで死んだ生物は規則で、正常な方法で生まれ変われません。なので『管理者』様にこの世界に呼んでいただきました。私のミスでこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした。」
だから初手土下座をしていたのか。
「と、いうことだ。こちらの手違いでこんなことになってしまった。謝らせてくれ。」
「いいですよ。全然元の世界に未練もありませんし、ミスは仕方ありませんし。」
『管理者』が驚きの表情を見せる。何かまずいことを言ってしまったかもしれない。
「これは驚いた。まさかそんな事を言われるとは思わんかった。肝の座った人間だな」
「ありがとうございます。あ、そうだひとつ質問していいですか?」
「そうじゃな、知りたいこともあるだろう。何でも聞きなさい。」
「それじゃあ、このお茶ってどんな淹れ方してるんですか?」
「へ?あ、ああこの茶は君の口に合うよう君のいた世界の茶葉を使っている。後で手順を記した紙を渡そう。にしても本当に君は肝が座っている。他にはないかね?ないなら次の話をしよう。」
また驚かれた。俺の感性は他の人、いや他の神と違うのかも知れない。
「ありがとうございます。他にはありません。」
「それじゃ次の話をしよう君の今後の話だ。」
確かにこのあとどうなるのだろう。まったく、少なくともお茶よりは興味がなかった。
「大宮優君。非常に申し訳ないが君を元の世界に戻すことはできない。しかし他の生物のようそのまま生まれ変わるのも規則で禁止されている。そこで心苦しいが、君は私の管理する別の世界で記憶を持ったまま生まれ変わってもらいたい」
き、来たー考えていた中でも上位のおもしろい選択肢が来た。俗に言う異世界転生というやつだ。普通に嬉しい。
「わかりました。少し詳しいことを教えてもらっていいですか?」
「もちろんじゃ、まず言葉や肉体だがこちらで不都合のないよう調整しておく。そして案内役として星光に同行してもらう。」
星光さんがとんでもなく驚いた表情をしている。聞かされてなかったんだろう。
「『管理者』様、聞いておりません。どういうことですか!」
「当然であろう。お前がいかずに誰が行く、大宮君とともに世界におり、大宮君を導くのだ。」
「わ、わかりました。大宮様宜しくお願いいたします。ルーンとお呼びください。」
「優でいいですよ。ただ本当にいいんですか?俺のいた世界の専属だったんじゃ?」
「問題ありません。全ての世界の知識は持っております。それに私のミスが原因で起こったことですから。」
ゲーム風に言うなら星光が仲間になった。ってところだろう。本当におもしろいことになりそうだ。
「大宮君、肉体の調整が終わったぞ。それじゃあ早速転生を始める。」
神、いや『管理者』の言葉を皮切りに身体が光出した。少しずつ記憶が薄れていくなか『管理者』の口から驚きの一言が飛び出した。
「あ、そうじゃ、忘れておった。せめてもの助けとして君に祝福を贈っておいた。向こうの世界でスキルとして存在してるはずじゃ。」
反応したかったが、押し寄せてくる眠気に抗えず、俺は眠りに落ちていった。