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婚約を解消したら、何故か元婚約者の家で養われることになった

作者: 下菊みこと

「婚約を解消して欲しい」


ついにこの時がやってきた。私はにこりと微笑みこういうのだ。


「もちろんです。…どうか、お幸せに」


私は中庭から屋敷に戻り、自室のベッドへダイブした。重苦しいドレスを脱ぎ捨て、化粧を落とし、いつもの男物の服を着込み…窓の外をちらりと見やる。


そこでは、可憐な妹が『僕』の『元』婚約者に甘えているという非常にアレな光景が広がっていた。


「まあ…君のことは好きだったけれど。妹は可愛いし、その妹が密かに…ではないな。おおっぴらに君を愛していたんだもの。身を引くのは当然だよね?そもそも貴族の令嬢の真似事なんて、僕には出来っこないんだから」


そう。最初から、お転婆姫の名で知られる僕と貴公子の中の貴公子とも呼ばれる君では釣り合いが取れなかったんだ。


「…はぁ。まあいいや。僕はもう寝よう」


最近、食事が喉を通らない。そして、眠っても眠っても眠い。というか、最近寝る時間が異常で、二、三日目が覚めないこともある。多分、気落ちしているせいだ。それは、妹が僕の元婚約者を欲しがってからのことだった。


僕を愛さない実の父。僕を捨てて愛人の元へいった実の母。僕に暴力を平気で振るう継母。父と継母の子である、とても可愛いけれど僕を嫌う弟。同じく父と継母の子である、僕の大切なものを奪うのが好きな妹。それでも僕は、政略結婚のための駒としてここで衣食住を提供されている。


そんな現状だが、僕は家族を愛している。どうして嫌いになれないのか…とは思うけれども。それでも僕は家族が好きだった。


妹は、僕の大切なものを奪うと直ぐに飽きてポイしてしまう。そしてそれは自動的に僕の元へ戻される。ただ、婚約者までポイされたらやだなぁ。いや、彼のことは好きだから戻ってくる分には文句はないが、だからって彼の気持ちはどうなる。僕が心配なのはそこなのだ。彼は僕に愛情をくれた。僕は彼が大好きだった。


なんて脈絡のないことを思いながらベッドに沈んでいると、だんだんと眠くなってきた。次に目覚めるのは何日後だろう。もしかしたら、もう目覚めもしないかもしれない。それもいいかな、なんて。


…おやすみ、僕の愛おしい人。今日もどうか、良い夢を。










気が付いたら、知らないお部屋にいた。落ち着いた雰囲気の、高級そうな家具の揃った広いお部屋。こういう感じ、僕好きなんだよね。僕は自分の部屋の家具すら選べない立場だったから、仕方なく諦めてたけれど。妹ならカーテンをピンクに変えちゃうんだろうな。家具ももっと愛らしさを重視して選ぶだろう。壁紙もピンクに変えちゃう気がする。でも、可愛い妹はそれが似合っちゃうんだよな。なんて考えていたら、部屋のドアがノックされて扉が開いた。そこにいたのは僕の元婚約者である、僕の初恋の君だった。


「目が覚めた?」


「え…う、うん…はい…あの」


「どうしたの?そんな困惑したような顔をして」


未だにベッドの上で上半身だけ起こして逃げようともしない僕も僕だけど、なんで君はそんなに平然としているの?罪悪感とかないの?これって誘拐じゃないの?


「何故こんな状況になっているのでしょうか…?」


「ああ、大丈夫。普通に話してくれていいよ。俺は『僕』って言ってる時の君の方が好きだから」


…聞かれてた!?いつ!?


「で、状況だっけ?ええっと…俺は君と婚約を解消すると嘘を吐いて、直ぐに君の妹に接近して、婚約はのらりくらりと躱しつつ君の家の違法な税率の引き上げやら裏金やらなにやらを調べてね。君への虐待の証拠も掴んで、中央に直訴して裁いてもらうことにしてね?で、寝たまま起きない君を救出してこの部屋…君が嫁いで来た時のための部屋に連れ込んで栄養とか水分とかを点滴で入れて…メイド達から聞いてはいたが、こんなに目を覚まさないなんて…本当に目が覚めて良かった。今日はもう遅いから、明日医者に診てもらおうね」


「…?」


「つまり、君との婚約解消は嘘。君の家族はみんな君の妹と婚約を結び直すんだろうと思っていたみたいだけど、俺にその気は無かった。というか婚約を解消する気はさらさらない。婚約解消には両家の当主のサインも必要だし、うちの父が君との婚約解消なんてそもそも許すはずがないしね。君、うちの両親に気に入られてるし」


「えっと…じゃあ、今回のは狂言で、我が家の不正を正すために必要な措置だったと…?」


「そう。ごめんね、君をこんなに追い詰めて。どうか許さないで欲しい。…でも、俺は婚約は解消しないから。ずっと、俺に捕まっていて?」


「…は、はい」


色々と頭がパンクしそうだ。


「顔真っ赤…可愛い…」


そっと額と頬にキスを落とされる。なんかドキドキする。


「傷付けた分、たくさん甘やかすから」


「は、はい!」


耳元で囁くのは反則ではなかろうか?


ー…


彼の家の一室を借りて過ごすようになってから一週間。本当に目一杯甘やかされた。僕の本来の喋り方も受け入れてもらい、今も彼の膝の上に乗せられて、彼に手ずからご飯を食べさせられている。僕は雛鳥じゃないんだが。


「はい、あーん。…ふふ、可愛いね」


「…可愛くはないよ。ところでさ、父上と義母上と弟と妹への減刑って本当に無理なの?僕にできることはないの?」


「無い」


食い気味にぴしゃりと言い放たれる。でも心配なんだよー。


「おそらく、君の父は牢獄行き。継母もそうなるだろうね。妹さんは一番戒律の厳しいと評判の修道院に行くことになりそう。弟くんは、君の親戚が引き取るよ。爵位はその親戚が継ぐ。領地ももちろんね?君も書類上はその親戚の養子になるよ。気になるなら後で会わせてあげる。ただ、君はこれからもずっとこの屋敷で俺と一緒に住むんだからね?間違っても親戚の家に帰ってはダメだよ?まあ、とりあえず君は身体を休めて。睡眠障害が治ったとはいえ、また再発してはいけないからね」


「ありがとう。…悲しいね」


「仕方がないさ。貴族なんてそういうものだよ」


「歪んでるなぁ…」


「…愛してる。君には、俺がいれば十分でしょう?」


「うん。もちろん。僕は君しか見えないよ。…恋愛感情では、ね?」


「釣れないなぁ…」


なんだかんだで、結局は僕は彼の手のひらでコロコロされる運命なようです。

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