幕間 大権現様のプレゼント
前半は3人称、後半は縁君視点に戻ります
「全くあのバカどもは」
熊野本宮を統べる大権現たる須佐乃男尊神は自らが作りし空間の中で憤っていた。
ことの発端は同じく熊野権現たる夫妻神、伊佐那岐、伊佐那美の二柱の実子、迦具土神が縁が我ら神へと昇る一歩を踏み出した祝いの品を贈ると用意しだしたことだった。
無論、縁を孫のように思っている須佐之男がこれに反対な訳もなく、この時は上機嫌だったのだ。ただ、迦具土は久方ぶりの同胞の誕生に浮かれ、とにかく凄いものを贈ろうと日本神話のスターたちに頭を下げてお願いに回る、因みにこの時もまだ須佐之男は上機嫌だった、孫へのプレゼントに必死に良いものを贈ろうと方々に頭を下げて、自らも権能の限りに刀をつくる姿はおじいちゃん魂には非常に良いものに写っていたのだ。
出来上がったものを見るまでは。
何故か大妖玉藻前に関わる咒物まで、当の本人から譲り受けて素材としたためか、咎ある物への特攻性能があるのはいいが、素材や製法で神器に、それもかなり格の高いものになってしまった刀は、まだ縁が振るうことは不可能だったのだ。
例えるなら高濃度放射線を撒き散らしながら、プラズマが発生するほどの、超高温、超振動を繰り出す未知の金属で出来た棒のようなものだ。
持つどころか、周囲に近付くことすら出来ないだろう。とりあえず、やらかした者たちを叱りつけ、然りとて悪意で行った訳ではないのだからと、厳重に封印を施し、縁の成長に合わせて力を解放するように調整して、縁の希望に沿って柄と鞘を用意した須佐之男は銘を「咒月太刀咎切」と名付けて縁に贈った。
さて、ここで怒りも鎮まって来た須佐之男ははて、自分も何か贈らねばと思い始める。やらかしを叱りつけた手前、あまりふざけた物は贈れないと、頭を悩ませた須佐之男は、淡雪の尾羽根を一枚貰い受け、縁の御髪を淡雪に頼み拾って来て貰い、これらを紡いで自らの神力にて引き延ばし、黒と白の格子模様の美しい薄手の反物を仕上げた。
「すさのお様、今日もお願いいたします」
「うむ、縁よ、この前は迦具土が刀を用意してそなたに渡したが、此度は儂がつくったこの反物を授けようぞ」
「えっ、こんな綺麗な反物、貰っていいんですか」
すさのお様に呼ばれて向かうと、10センチ角くらいの白黒の格子模様で少し透けるほどの薄手の反物を渡される。とっても軽いし、肌触りもいい。
「それは『結魂布 縁紬』じゃ、首まわりに巻いても肩掛けにしても良いが、それはそなたを守り、そなたが守りたいものを救うじゃろう、縁の成長に合わせて、そなたの望むように共に成長するはずじゃ、なにせ、その布は縁と淡雪の欠片を紡いで儂の神力で依り合わせた糸で編まれておるからな」
豪快に笑うすさのお様に僕は目一杯のお礼をする。
僕と淡雪の欠片で出来た布なんて、凄い装備だ。この前の刀といい、僕は本当に好い人たちに大切にしてもらえて嬉しいな。
あと、2話ほど幕間を挟んで第2章に入ります。