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烏と僕と霊障と  作者: 愛猫家 奴隷乙
中学生編 第1部
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哀しき覚悟と破滅




 倒れたものの意識を何とか保っていた伊佐那岐に肩を貸して半身をおこさせる須佐乃男、その後ろから淡島の様子を伺う玉藻前、三柱の神は目の前の淡島の意図を読めずに注視していた。

 

 無理な変容とそこからの回復ですでに力尽きている伊佐那岐は立ち上がることも困難な状態であり、伊佐那岐の変容を力ずくに逆さ戻しした須佐乃男も消耗が激しい。唯一、まだ余力のある玉藻前も未だに姿すら見せない黄泉津大神のことを考えればこれ以上は無理はしたくない。

 そんな三者三様の思いに居竦んで、淡島が持つ呪物と化した伊佐那岐の魂の一部を取り返そうと動くことをしなかった。


 淡島は様々な想いが過り、もういっそのこと全て放り出そうとも思ったものの、何の因果か変容を解かれて元へと戻っていく愚かな父から、変質して不可逆となり切り離された魂の一部が浄化を免れて流出していると気付いてしまった。

 いや、何故か此方へと流れて来たのだ。まるで高所から低所へと水が流れる様に、そんな風に思って自嘲する。

 「堕ちた者へと引き寄せられる。そうですか、所詮は父上は高天ヶ原の雲上の神、堕ちきって来るなどあり得ないのですよ」

 淡島は愚かな父の「共にいる」との考えを侮蔑しきっていたし、母が喜ぶならと演技もしたが、結局は父は住む世界が違うのだと思い至ると、自身にも理解し難い怒りや哀しみが湧いてとどまらない。

 「結局、私は何を望んでいたのでしょう」


 こと、ここに至って淡島は迷うことを止めることにした。ただ母のために与えられた責務を果たす。その一念が覚悟に変わる。端から、土台無理な役回りだった。ここで時間稼ぎをするだけとは言え、格上ばかり相手で玉砕の目すらないはずだったのだ。

 それが、諸々とあって、自分にも勝利の可能性が出てきたのだ。


 黒曜石のように鉱物のような断面と煌めきをもった黒く染まった欠片は神力と障気を纏っていた。


 伊佐那岐は己の不甲斐なさ、優柔不断さに自己嫌悪するも、淡島の、息子の手に堕ちた自らの変容した魂の一部を見て、淡島の言葉を聞いて理解する。

 「駄目だ、そんなものを取り込めば魂ごと消滅するぞ」

 伊佐那岐は叫んだ。淡島が己の強化のために取り込む可能性を理解したのだが、格の違いにいずれは魂が磨り減り自壊していくことになる。

 淡雪の魂の欠片を持つ縁が無事なのは、単に須佐乃男や淡雪の加護のためなのだ。

 「ふん、浅知恵でありんすな。確かに消耗してるといえ、わっちが本気を出せば、そんなもので強化しても勝てんでありんす。なにより、暴走せずに取り込める保証も無いでありんすな」

 玉藻前も伊佐那岐の言動から、淡島の考えを推測する。実際には久方ぶりの実戦から、思いの外に力を使いすぎているため、余裕はないが、あの呪物を使わせないための方便を捲し立てる。実際に安全に取り込める可能性が低いために嘘とも言い切れない。


 そんな中で須佐乃男は残った神力を総動員させる、嫌な予感というやつだ、伊佐那岐へと声をかける。

 「親父殿、先ほどから役にたっておらんからな。儂が倒れた後のことを頼みますぞ」

 そういうと障壁を作り突撃する須佐乃男に淡島は苦笑しつつも欠片を取り込む。

 「よもや、嫉妬していた弟が私の気持ちに気付くとはね」

 「させんぞっ!」

 取り込んだ欠片を呼び水に周囲の障気を集め始める淡島に須佐乃男は組み付こうとするも、あまりにも濃い障気の奔流に近付けない。

 「何を考えてるんでありんすか、こんなものを取り込める筈もない、自爆するだけでありんす」

 思わずと玉藻前は叫んで、そして玉藻前、伊佐那岐は吐き出された言葉で淡島の真意を理解する。

 「玉藻前っ! 伊佐那岐を連れてここを離れるんじゃ、主なら伊佐那岐一人乗せて駆けるなぞ、造作もないじゃろ」

 「ふざけるなでありんすよっ! わっちをなんだと思ってるでありんすかっ!」

 そう叫び返す玉藻前はそれでも巨大な狐へと変容し伊佐那岐を咥えて背へと放る。

 「行かせませんよっ!」

 そう言った淡島は障気の奔流から亡者を呼び出そうとするが、既にコントロールを失って思うように行かない。ならばと目の前の弟へと意識を向ける。

 「何故、逃げないのです、根の方の国も私もどうでもいいでしょうに、ご想像通りに私はこの欠片を使い力を暴走させて自爆するつもりです。気付いたのなら逃げればよいものを」

 自嘲気味に告げる淡島にニヤリと笑った須佐乃男が豪快にいい放つ。

 「てんで交流が無かろうが兄は兄であろう、間違ったことをして、そのまま責任もとらずに自滅しようとしとる大馬鹿もんをいっぱつぶん殴ってやらねばの、弟としてっ!」


 淡島はこの豪快すぎる弟に毒を抜かれた気分になる。それでも、赦すことは出来ないのだと、父も家族も目の前の弟も、でなけば母を見捨てることになってしまう。


 「弟よ、死ぬなよ」

 

 根の方の国、その深部で暴風吹き荒れ轟音が響く。

 濃縮した神力と障気、そして国作りの神の魂の欠片はとてつもない破壊の権化となり大爆発を引き起こした。


 

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