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烏と僕と霊障と  作者: 愛猫家 奴隷乙
中学生編 第1部
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病室と女媧とこれから 後編



 「もしかすると、藤崎嬢は小学校卒業後に本当に死んでいたのかもしれないでありんす」


 玉藻前様から思いもよらない言葉が出る。僕は考えの整理がつかずに黙ってしまった。

 「まあ、理解出来ないのはわかるでありんすよ。ただ、これには一応、前提となっている事実とそこから導いた推論があるんでありんす」

 僕がまだ飲み込めないでいると淡雪が替わりに合いの手を入れてくれる。

 「前提となっている事実と言うと、なぜ、黄泉比良坂(よもつひらさか)を越えることの出来ない黄泉津大神が現界へと来れたのか。そして、依り代についている状態の黄泉津大神が想定を上回る力を見せたことでしょうか」

 想定を上回る力と言った時、淡雪は悔しそうにしていた、取り逃がしたことを含めても淡雪たちが藤崎さんに憑いている状態の黄泉津大神の力を見誤ったのは間違いないのだろう。

 「そうでありんすね。流石は淡雪ちゃんでありんすよ。元々の藤崎嬢は素養はあったかもしれないでありんすけど、普通の子供でありんす。黄泉津大神を現界させることなど不可能でありんすからね。今までわっちたちは黄泉津大神が何らかの手段で現界に渡り、藤崎嬢に憑いたと思っていたでありんすけど、実際には死者として一度、冥界に渡った藤崎嬢を依り代として、こちらに送り込んだんではと言う訳でありんす」

 それを聞いて僕はやっと考えが纏まり出した。

 「だとしても、死んでしまった藤崎さんを黄泉返りさせることなんて出来るの」

 「黄泉津大神には死者を生き返らすことは出来ないはずでありんすね。ただ、まだ黄泉の国の住人でなかった藤崎嬢を入れ物として使って、幽世(かくりょ)常世(とこよ)の繋がりが消えないうちに渡ったかもしれないでありんす」

 「だとすれば、今の藤崎さんの中にはもう元々の藤崎さんはいないってこと」

 「魂が残って同居しているか、それともすでに輪廻の環に入ったかはわからないでありんすが、何せよ、そうであれば、あれだけ力を発揮出来るのも理解出来るでありんすよ」

 僕も淡雪も良くわからなくて返答出来ない。今の流れから、どうしてその結論が出るのかわからない。

 「あの、玉藻前様、なぜ、力が発揮出来るのが納得出来るのですか」

 「あー、淡雪ちゃんや縁ちゃんにはわからないかも知れないでありんすね。わっちは人を依り代にあちこちを回ったでありんすから、依り代との親和性の大切さとか、色々わかるでありんすよ。で、元々はわっちたちは黄泉津大神が分身(わけみ)を何らかの方法でこちらに送り、それを依り代に憑かせてから本体とのパイプを構築していると思ってたんでありんすね。なんで、効率の悪さや、わっちたちの目を欺いて黄泉比良坂を超えるために分身を送るにしてもかなり弱体化させていたと考えてたでありんす」

 「確かにそうでしたね」

 「でも、黄泉比良坂を越えてやって来た死者にやたら親和性の高い者がいて、常世との繋がりがまだ残っている者を見た黄泉津大神が、その身体を乗り物にしてこちらに来たなら、人の身に入ったことで制限はあるでありんすが、それでも」

 「私達が思っているほどの弱体化は無かったと」

 「そうでありんす。そして、時間の経過と共に身体を作り替えて馴染ませれば、力を増大することも出来るでありんすし、何より、幽世と常世を某かの制限はあるでしょうが行き来出来るようになったとすれば、とんでもないでありんす」

 僕は神域に引きずり込まれてから戦った二柱を思い出す。

 「あそこにいた淡島や蛭子も黄泉津大神が常世に来れるようになって、こちらに出て来れたってことかな」

 「その可能性は高いでありんすな。そして、黄泉津大神は恐らくはこの常世を黄泉に作り替えるつもりでありんすよ」

 あまりの予測に声が出なくなる。そんな大事になっていて、僕は対処出来るんだろうか。

 「まあ、そうした事態に対応する組織もあるでありんすが、まだ気付いてはいないでありんしょう。それでも水守嬢は協力してくれるでありんすから」

 「水守さんが?」

 なんで、水守さんが協力してくれるだろう。僕が不思議そうにしていると、玉藻前様が説明してくれる。

 「葛葉ちゃんはわっちの友達の子孫でありんすからね」

 「水守さんが玉藻前様の友達の子孫?」

 「直系の子孫は絶えてしまったでありんすが、かなり古い時代に別れた分家の末裔なんでありんすよ。葛葉ちゃんは先祖返りで力を持って産まれたでありんすから、わっちとも親和性が高いんでありんす」

 ん、もしかして

 「玉藻前様は水守さんに憑いていたんですか」

 「そうでありんすな。万が一の時に即応するためには近くにいた方がいいでありんすから」

 さっきからびっくりする事実ばかりだ。

 「水守さんはその事は知ってたんですか」

 「もちろんでありんす、とは言え縁ちゃんの秘密を教えたのは縁ちゃんが襲われた後でありんすが」

 成る程、須佐之男様が言っていたサポートは玉藻前様であり、水守さんだったんだ。

 「さて、縁ちゃん。縁ちゃんはこのまま、一度、流星窟に行くでありんす。わっちは黄泉比良坂に雲隠れした黄泉津大神を引き摺り出すつもりでありんすよ。須佐之男も伊佐那岐も覚悟を決めたようでありんすから、後はわっちたちに任せておくでありんす。タカシちゃんもそちらに送ってあげるでありんすから、事が片付くまで、待っていて欲しいでありんす」

 そう言われて僕は困ってしまう。正直、僕が出来ることなんて無いと思うけれど、このまま引き下がりたくないとも思ってしまう。

 「縁、私も一緒にお留守番だそうです。流星窟にいる間は現界での時間経過を無視できますから、安心して、まずは強制的に解いた封印の影響がないかを古長に確認して貰いましょう」

 

 こうして、僕は一時、戦線離脱することになったんだ。



 



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